第1章 各疾患への抗菌薬治療
13 腹膜炎(一次性と二次性と三次性)
診断から治療までのワン・ツー・スリーステップ
抗菌薬選択の結論
① セフォタキシム(肝硬変が背景にある特発性細菌性腹膜炎の場合)
② アンピシリン/スルバクタム(消化管穿孔など二次性腹膜炎の場合)
③ セフメタゾール(二次性腹膜炎でアンピシリン/スルバクタムが使えない場合)
抗菌薬選択までの道筋
1 一次性腹膜炎
腹腔穿刺ができれば,腹水のグラム染色が活躍する領域である.
抗菌薬を選ぶと同時に外科的介入が必要ないかを考える必要があるが,それには造影CTが必須だろう.特発性細菌性腹膜炎(SBP)は,腸管穿孔などの明らかな原因(腹腔内臓器の破綻)がないにもかかわらず,腹水に細菌感染が生じる病態で,「一次性腹膜炎」に分類され,全腹膜炎症例の約1%を占めるとされる.成人では主に肝硬変に伴う腹水貯留がある患者に発症し,小児ではネフローゼ症候群や先天性心疾患に伴う腹水貯留が基礎疾患となることが多いのが特徴である.腸管内の細菌が粘膜を通り抜けて体内に侵入する「バクテリアルトランスロケーション(BT)」が主な原因と考えられ,二次性腹膜炎(穿孔性など)とは異なり腹痛は軽度であるか,あるいは全く認められないことが典型的である.一方,発熱や肝性脳症の悪化を契機に診断されることもある.腹水穿刺液中の多核白血球数(好中球数)の増加(一般的に250/μL以上)によって診断される.単一の菌による感染(単一菌性)であることが特徴で,大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌目細菌が最も多く検出される.
2 抗菌薬の選び方
SBPの原因菌の60%以上が腸内細菌目細菌で,その多くが大腸菌やクレブシエラである.肺炎球菌や腸球菌が原因となることもあるが,偏性嫌気性菌が原因となることはないため,セフォタキシムを第一に考える.それに反し,二次/三次性腹膜炎の原因菌は腸管内容物が漏れ出したことによる多菌種像そのものであるので,腸内細菌目細菌のカバーは必須であるが,偏性嫌気性菌も含めて幅広く考慮しなければならない.
具体的な処方例
| 抗菌薬 | 用量 | 投与間隔 | |
|---|---|---|---|
| ① | セフォタキシム | 1回2g(生理食塩水100mLに溶解) | 8時間ごと |
| ② | アンピシリン/スルバクタム | 1回3g(生理食塩水100mLに溶解) | 6時間ごと |
| ③ | セフメタゾール | 1回1g(生理食塩水100mLに溶解) | 6時間ごと |
3 二次性腹膜炎と三次性腹膜炎
❶ 二次性腹膜炎
二次性腹膜炎は腹腔内臓器の穿孔や破裂など,明らかな原因によって腸管内の微生物が腹腔内に流入することで発症する病態で,腹膜炎全体の80〜90%を占める.腸管や胆道,婦人科臓器といった腹腔内臓器の壁が破綻し,そこから細菌が漏れ出すことで腹膜に炎症が波及する.通常は多菌性(複数の菌による混合感染)であることが特徴で,通性嫌気性菌(大腸菌など)と偏性嫌気性菌(バクテロイデス属など)の両方が含まれる(図1).腹壁を圧迫して離した際に痛みが強くなるリバウンド(反跳痛)筋性防御が認められることが多く,これらは即手術を検討すべき腹膜刺激症状である.腹水のグラム染色所見で複数種類の菌が確認された場合,腸管が破綻している可能性(二次性腹膜炎)が非常に高くなる.
原因菌は,穿孔が生じた部位の常在菌叢による(表1).
❷ 三次性腹膜炎
三次性腹膜炎は,一次性や二次性腹膜炎に対して適切な初期治療(手術や抗菌薬投与)が行われたにもかかわらず,腹膜炎が持続または再燃する病態を指す.
二次性腹膜炎とは対照的に,外科的に治療(ドレナージなど)が可能な明確な感染巣はなく,もはや泥沼状態であるとも言える.その原因菌は腸球菌や,耐性傾向が強いグラム陰性桿菌,そしてカンジダ属である.
A:バクテロイデス B:クロストリジウム C:カンジダ
表1 部位ごとの想定される原因菌
| 部位 | 常在菌叢 |
|---|---|
| 上部消化管 | レンサ球菌,嫌気性菌,カンジダ属 |
| 大腸 | 大腸菌,クレブシエラ属,プロテウス属,嫌気性菌(特にBacteroides fragilis) |
| 胆道系 | 大腸菌,クレブシエラ属など |
| 婦人科臓器 | 淋菌,クラミジア,マイコプラズマ・ジェニタリウムなど |
4 病態の再評価
すでにSBPと診断されている場合でも,病状が悪化しているなら造影CTを再検して消化管穿孔を再評価するべきである.腹水が溜まっていれば腹腔穿刺を行い,その細胞数を確認してグラム染色と併せて培養検査へ提出する.腹水穿刺液中の多核白血球数(好中球数)の増加(一般的に250/μL以上)によってSBPと診断されるが,複数菌を認める場合,やはり消化管穿孔は考えなければならない.
処方後の治療の道筋
1 治療における留意点
SBPは典型的な腹膜炎症状(激烈な腹痛や筋性防御など)を欠くことが多く,臨床症状が非常に乏しいという特徴がある.治療にあたっては,下記のことに留意しておく.
- 「迷ったら腹水穿刺」を徹底
肝硬変患者に発熱,腹痛,あるいは原因不明の意識障害(肝性脳症)や腎機能低下が認められた場合,たとえ腹部症状が軽くても,直ちに診断的腹水穿刺を行うべきである.
- 1時間の遅れが致命的
腹水穿刺の実施が1時間遅れるごとに,死亡率が3.3%上昇するという報告がある1).
- 検査の工夫
腹水培養は感度が低いため,検体を直接カルチャーボトル(血液培養ボトル)に分注して提出することで,陽性率を格段に高めることができる.
- その他
SBPは腎機能悪化の引き金となることが多いため,慎重な経過観察が必要である.さらに,不要なPPIの使用は腸内細菌の異常増殖を招き,SBPの発症リスクを上昇させる可能性が示唆されている.
2 腹膜炎の通常の経過
外科的介入が必要な二次性腹膜炎とは異なり,SBPは適切な抗菌薬治療のみで多くは軽快し,標準的な治療期間は,菌血症をきたしていない限り,5〜7日間が目安である.臨床症状が順調に改善している場合,治療効果を確認するための腹水検査(再穿刺)は不要であるが,発熱が遷延していたり,治療効果の判断に迷う場合には腹水の再検査を行う.また,SBPは再発しやすいため,最初の臨床的な改善が得られた後は再発を防ぐための対策が重要で,シプロフロキサシンなどの内服抗菌薬を検討する.
3 通常の経過をたどらなかったときの考え方
やはり二次性腹膜炎との鑑別が鍵となるだろう.外科的介入が必要な「二次性腹膜炎(消化管穿孔など)」と,抗菌薬治療が主体の「SBP」を正確に見極めることが,その後の明暗を分ける.腹水から複数種類の菌が検出された場合は,SBP(通常は単一菌)ではなく二次性腹膜炎を強く疑い,外科的介入を検討しなければならない.さらに,腹水中の総蛋白が1.0g/dLを超え,糖が50mg/dL未満,かつLDHが血清正常上限値を超える場合なども二次性腹膜炎の可能性が高まる.
例外的ではあるが,高齢女性では婦人科癌を背景に子宮瘤膿腫をきたすことがあり,それが穿孔して急性腹症や敗血症に陥ることもある.
文献
1)Kim JJ, et al:Am J Gastroenterol, 109:1436-1442, 2014(PMID:25091061)
