レジデントノート増刊:もう迷わない! ICUでの考え方、動き方〜薬剤や機器の使い方、循環・呼吸管理まで、全体像を掴めるICU研修の地図
レジデントノート増刊 Vol.25 No.11

もう迷わない! ICUでの考え方、動き方

薬剤や機器の使い方、循環・呼吸管理まで、全体像を掴めるICU研修の地図

  • 佐藤暢夫,野村岳志/編
  • 2023年09月20日発行
  • B5判
  • 240ページ
  • ISBN 978-4-7581-2705-9
  • 定価:5,170円(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 総論:ICUとはどんなところ?

1.ICUの患者とは? ICUとは? 集中治療医とは?

吉田拓生
(東京慈恵会医科大学 救急医学講座/ 附属柏病院 集中治療部)

Point

  • ICU患者は根本病態の診断・治療と多様な臓器サポートが必要となる患者さんである
  • 患者さんのタイプからemergency ICU,surgical ICU,mixed ICUの3つのタイプに分類される
  • 診療システムの分類としてhigh-intensity ICU〔closed ICU,semi-closed ICU(mandatory critical care consultation)〕,low-intensity ICU〔semi-closed ICU(elective critical care consultation),open ICU〕がある
  • 集中治療医は,プレーヤーであるだけでなくICUチーム構築のリーダーも担う

はじめに

集中治療室(intensive care unit:ICU)にはさまざまな患者さんが入室する.同一病院でも日によって風景がガラリと変わるし,病院が変われば全く違う光景に出くわすこともしばしばである.

また, “どういった患者さんがICUに収容されるか” に関して,診療報酬関連上での一定のルールは存在するが,医療上の絶対的な基準は存在しない.各病院の一般病棟の対応能力しだいという側面もある.例えば,昇圧薬を使用しはじめた瞬間にICUに移動する病院もあれば,一定の投与量までは許容する病院もある.本稿では,ICUに関して “患者” ,“ICUという箱” ,“診療システム” の3点から整理し,集中治療医とはどういった存在なのかについて説明する.

1. ICUにはどんな患者さんがいるのか? 重症患者とは?

ICUに収容される患者さんは一見するとさまざまであるが,俯瞰すると一定の共通概念や特徴が存在する.これらの理解は,どういった患者さんをICUに収容すればよいか判断する際の素地にもなる.

1重症患者がICUにいるのだろうけど,重症患者とは?

「重症患者はICUに収容されるべき」という意見に異論を唱える医療従事者は少ないだろう.そこでまず,重症患者は一般病棟の患者さん(すなわち中等症以下の患者さん)と何が違うかを理解する必要がある(例えば,細菌性肺炎でICUに入室する患者さんと,細菌性肺炎で一般病棟に入室する患者さんでは何が違うか,である).

一言で言えば,主病態に付随して発生する患者さんの反応が違う.例えば,血圧低下の程度が自身の内因性カテコラミンで代償可能な患者さんがいれば,代償しきれず血圧低値が露呈してしまう患者さんもいる.後者の場合は外部よりカテコラミンを補充する必要があり,すなわち昇圧薬の投与が必要である.呼吸に関しても同様で,酸素の取り込みが自身の代償能力で追いつかなくなった場合,酸素化不良が露呈し,酸素を補充する必要が出てくる.なお,酸素の補充の方法には経鼻酸素投与,マスクでの投与,NPPV(non-invasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気),HFNC(high flow nasal cannula:高流量鼻カニューレ),人工呼吸器,ECMO (extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)など,さまざまな投与方法が存在する.

循環,呼吸だけに限らず,患者さん自身での代償が及ばなくなった臓器が多臓器に及べば,多臓器不全と呼ばれる状態に至り,前述したような臓器サポートを適切に実施する必要が生じる.これら臓器サポートを必要とするのが重症患者であり,必要な医療資源にアクセスしやすい場所がICUである.

2重症患者への治療は,中等症以下の患者さんと全く違うのか図1

ICUだろうが一般病棟だろうが共通する原則も存在する.どんなに多臓器不全に対する管理の質が優れていたとしても,根本病態を改善させる根治療法が行われなければ患者さんを救命することはできない.例えば,細菌性肺炎の根治療法は場所に関係なく抗菌薬投与である.すなわち,根本病態に対する診断と根治療法の実施が大前提であり,そこにICUならではの多臓器不全に対する対症療法のサポートが加わる.この2つが揃ってはじめて,救命のための重症患者診療が成立する.

3ICUには重症患者だけしかいないのか図2

実は,ICUには重症化していない患者さんが入室することも多い.典型的には大手術後の患者さんであり,具体的には心臓外科,脳外科の手術,長時間の全身麻酔を伴う手術などの術後患者のことである.

これらの患者さんは手術侵襲に伴い一時的にバイタルサインに対するサポートを要するものの,基本的には多臓器不全が発生しているわけではない.一方で,重症化のリスクが高く,重症化の一歩手前の患者層とも言える.

よって,これらの患者さんがICUを利用する目的は,集中 “治療” というよりは,集中 “監視” というほうが正しい.モニタリングの強度を高め,重症化の発生に一早く気づき,すぐにアクションを起こすために,ICUに入室している.

2. 日本のICUのタイプとは?

ICUは,その収容患者のおおまかなタイプによりemergency ICU,surgical ICU,mixed ICUに分けられる.ここでは日本の実情も踏まえたうえで,これらの分類について説明する(図3).

1emergency ICU

emergency ICUは主に,院外より救急搬送された重症患者を受け入れるICUである.院外で発生した心血管イベント,脳卒中,呼吸不全,敗血症,多発外傷などの重症病態が対象となる.本邦では救命救急センター内のICUがそれに該当する.治療も救急医をベースとする集中治療医,集中治療部が担うことが多い.

2surgical ICU,mixed ICU

大手術後の患者さんを収容するICUはsurgical ICUと呼ばれる.術中術後のトラブルが生じなければ,手術翌日までに,もしくは一定期間のICU滞在後に,一般病棟へ退室する.

手術手技,全身麻酔に関連した診療となるため,手術を担当した診療科の医師や麻酔科医をベースとした集中治療医,集中治療部がその診療を担うことが多い.また本邦においては,診療報酬上,院内急変患者は救命救急センター内のICUを利用することが難しい.よって院内発生の重症患者は,術後患者が多く入室しているICUに入室する.そうなると患者さんのタイプは内因性,外因性が混在することになり,本質的にはmixed ICUとなる.本邦においては,慣習的に術後患者の割合が高いICUがsurgical ICUと呼ばれているが,そのICUの実態はほぼmixed ICUと言ってよい.

3. ICUの診療システムとは?

ICUの診療システムは各病院の実情に合わせて実に多様である.ある一定の定義のもと,ICUの診療システムを説明した用語として,closed ICUやhigh-intensity ICUなどがある.ここではそれらの用語を整理しつつ,患者予後に与える影響に関しても説明する() .

1closed ICU? semi-closed ICU? open ICU?1)
1)closed ICU

集中治療医が診療のすべてを担当するタイプのICUである.専任の集中治療医が常時在籍しており,集中治療の専門性を背景とした同一のメンバーで診療が進むため,効率的かつ標準化された治療方針を確立しやすい

2)semi-closed ICU

集中治療医が患者さんの診療を担当しているが,集中治療医以外の医師も関与するタイプのICUである.主治医以外の医師が診療に関与することで,患者さんの診療をより多面的に考えることができる.一方で,各分野の視座の異なりから,診療の方針に関する相違も生まれやすい.こまめな情報共有と協議が必要である.集中治療医が診療に関与する度合いによりmandatory critical care consultation (原則ICU内のすべての患者診療に関与),elective critical care consultation (各診療科からコンサルトを受けたときのみ関与)に分類することができる.

3)open ICU

集中治療を専門とする医師がICUに常駐しておらず,ICU患者の診療を各診療科の医師のみで担当するタイプのICUである.横断的に診療に関与する集中治療医が存在しないため,ICU全体から見ると,診療が一貫性を欠く場合がある

2high-intensity ICU? low-intensity ICU?

1での分類と似たような概念に,high-intensity ICU,low-intensity ICUという分類も存在する2).明確な定義が存在するわけではないが,主旨としては,high-intensity ICUは,closed ICU,semi-closed ICU (mandatory critical care consultation)に,low-intensity ICU はsemi-closed ICU (elective critical care consultation),open ICUに該当する,と考えてよい.いくつかの研究において,high-intensity ICUとlow-intensity ICUの患者さんのアウトカムが比較され,high-intensity ICUにて,ICU滞在期間,病院滞在期間の短縮,死亡率の低下と関連していることが報告されている3, 4)

3患者予後に最適なICUの診療体制は? high-intensity ICU ?

high-intensity ICUは,血行動態モニタリング,血管作動薬,人工呼吸器,腎代替療法などのICU独特の治療介入に慣れた集中治療医が,それらを重症患者に対して統合的に判断して診療に適応させることができ,これが予後改善に寄与する一因と考えられている.一方,low-intensity ICUは,集中治療医へのアクセスの悪さから,集中治療に関する治療介入の遅延や不適切な介入を引き起こす可能性がある.

しかし,high-intensity ICUがlow-intensity ICUに比べて優れているかに関しては,実はいまだ多くの議論がある3〜5).high-intensity ICUはそれ相応の専門スタッフ配置が必要であり,一般的にlow-intensity ICUよりも運営コストが高い.また,より積極的な介入を誘発してしまう可能性もあり,合併症や有害事象のリスクも高くなる.理論上,high-intensity ICUが重症患者の転帰を改善することには大きな疑いをもたないが,このアプローチに関連する潜在的なコストとリスクを考慮することも必要である.

4. 集中治療医とは?

筆者が医師になった2007年当時を思い起こすと,「集中治療医」という単語はここまで普及していなかったと思う.そこから15年以上が経過しての現在,集中治療医という単語はコロナパンデミックの影響も受け市民権を得たように思う.各病院の集中治療医は,それぞれの持ち場で最適解を見つけるべく奮闘している.ここでは,集中治療医の果たすべき役割について説明する(図4) .

1プレーヤーとして,個々の患者さんに対して適切な集中治療を提供する

適切な集中治療を提供するとはどういうことか.人工呼吸器や腎代替療法,人工心肺を操ることのみではない.それら対症療法を駆使しながら,根本病態に対する診断と治療を導き,各患者さんの価値観に見合ったに最適な治療を提供することである.治療介入に対して期待できる予後,患者さん本人の価値観,家族背景,すべてを統括しながら,場合によっては急性期における終末期医療として適切な緩和医療を検討する場合もある.取りうる治療介入の手段のすべてを土俵に上げながら,患者さん個々人に落とし込んでいく必要がある.

2リーダーとして集中治療を円滑に提供できるようなシステムを提供する

ICUは複数診療科の医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,理学療法士,医療事務など多職種が行き交う場所であり,多職種の医療従事者は患者さんを中心にチームとして協働する必要がある.そしてチームとして協働するためには物事が円滑に進むシステムが必要である.そのシステム構築を担う人材としての最適解は集中治療医である.

システム構築の内容としては,例えば多職種カンファレンスの開催,カルテ記載の定型化,頻用点滴の希釈の統一化,治療プロトコールの整備など,さまざまである.また,マンパワーを含め,各病院が保有する医療リソースもさまざまである.万国共通の唯一の正解は存在しないが,各病院医とっての正解はおそらく存在する.集中治療医が舵取りとなり,その正解を探し,その正解に向かってチームを動かしていくことが集中治療医の仕事としての醍醐味でもある.

引用文献

  • Pronovost PJ, et al:Physician staffing patterns and clinical outcomes in critically ill patients:a systematic review. JAMA, 288:2151-2162, 2002(PMID:12413375)
  • Brilli RJ, et al:Critical care delivery in the intensive care unit:defining clinical roles and the best practice model. Crit Care Med, 29:2007-2019, 2001(PMID:11588472)
  • Wilcox ME, et al:Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med, 41:2253-2274, 2013(PMID:23921275)
  • Gajic O & Afessa B:Physician staffing models and patient safety in the ICU. Chest, 135:1038-1044, 2009(PMID:19349399)
  • Gajic O, et al:Effect of 24-hour mandatory versus on-demand critical care specialist presence on quality of care and family and provider satisfaction in the intensive care unit of a teaching hospital. Crit Care Med, 36:36-44, 2008(PMID:18007270)

著者プロフィール

吉田拓生(Takuo Yoshida)
東京慈恵会医科大学 救急医学講座 准教授/附属柏病院 集中治療部 診療部長
皮肉にもコロナ禍を経て,集中治療医は社会の重要なインフラとして認識されるようになりました.ともに学び成長したい若手の皆さん,慈恵救急,柏病院ICUでお待ちしております.

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