レジデントノート増刊:救急・ICU頻用薬 いつ、何を、どう使う?〜診療の流れに沿って身につける、的確な薬剤選択・調整・投与方法
レジデントノート増刊 Vol.26 No.17

救急・ICU頻用薬 いつ、何を、どう使う?

診療の流れに沿って身につける、的確な薬剤選択・調整・投与方法

  • 志馬伸朗,石井潤貴,松本丈雄/編
  • 2025年01月20日発行
  • B5判
  • 192ページ
  • ISBN 978-4-7581-2729-5
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 敗血症性ショック

場面1:初期蘇生
1. 輸液製剤

松本丈雄
(安芸太田病院 救急部)

Point

  • 輸液製剤の選択はどのコンパートメントを補いたいか? を考える
  • 初期の輸液は等張晶質液が第一選択

症例

初期研修医1年目と上級医で当直中.80歳女性が前日からの悪寒,戦慄を伴う発熱で救急搬送された.

来院時のバイタルサイン,身体所見:GCS E3V3M6,心拍数120回/分,血圧60/38 mmHg(平均血圧45 mmHg),呼吸数24回/分,SpO2 94%(室内気),体温38℃,四肢に網状皮斑がみられる.

研修医:
シバリングと発熱があって,循環も悪そうです.まず考えるのは敗血症ですね.血液培養と一緒にルート確保もします.ルートは…とりあえずソルアセト®Fで!
上級医:
どうしてソルアセト®Fにしようと思ったんだい?
研修医:
反射的につい….
上級医:
確かにソルアセト®Fでよさそうだけど,理由まで考えられるようになるといいね.一度輸液製剤の違いを確認しておこう.

1. 体内の水の分布と輸液製剤ごとの違い

体内の水は細胞内と細胞外(間質血管内)の3つのコンパートメントに8:3:1の割合で分布しています.各コンパートメントは細胞膜と毛細血管膜によって隔てられ,それぞれ通過できるものとできないものがあります.水はどちらの膜も通ることができますが,電解質はチャネルがなければ細胞膜を通ることができません.また電解質よりも分子量の大きいアルブミンなどのタンパクは毛細血管膜を通り抜けることができません(図1).

点滴された輸液はまず血管内に入り各コンパートメントへ広がりますが,どこにどれくらい分布するかは輸液の種類により異なります.各輸液の違いはさまざまありますが(),まずは点滴後にどのコンパートメントにどれくらい分布するか? を考えてみましょう.

1等張晶質液

いわゆる「細胞外液補充液」と呼ばれる輸液で,血管内に入ると細胞外に等しく分布します(図2).生体の細胞外と張度(有効浸透圧)が近いため「等張」といいます.

用語解説

※晶質液

生理食塩液やブドウ糖など電解質や糖を含む一般的な輸液製剤.一方,膠質液はアルブミンやヒドロキシエチルスターチなど膠質(コロイド)を含むものを指す.

※張度(有効浸透圧)=2×Na(mEq/L)+Glu(mg/dL)/18

細胞内外の水の移動を規定する因子.血漿浸透圧と異なりNaとブドウ糖で規定される.水は張度が高い方にシフトする.
例:3%高張食塩水を投与すると細胞外の張度が上がり,細部内→細胞外に水がシフトする

1)生理食塩液(0.9%食塩液)

Na濃度は154 mEq/Lであり生体より高いですが,張度が生体に近いです.

一方,Cl濃度も154 mEq/Lと高く,大量投与で高Cl性代謝性アシドーシス,急性腎傷害のリスクがあります.

2)リンゲル液(ソルアセト®F,ソルラクト®,ビカーボン®

Clを減じるため,緩衝液としてそれぞれ酢酸,乳酸,重炭酸を添加したものです.酢酸,酪酸は肝臓で代謝後に緩衝液として作用します.生理食塩液よりもNa濃度が低くなっています(ソルアセト®FはNa=131 mEq/L).

Caが含有されており,配合変化に注意が必要な薬剤があります(輸血製剤,セフトリアキソンなど).

25%ブドウ糖液

糖も電解質も含まない張度「0」の輸液を投与すると溶血するため,等張にする目的でブドウ糖を添加したものです.投与された輸液内のブドウ糖はすみやかに分解されるため,結果的には低張液を投与していることになります.投与後は自由水として細胞内,間質,血管内に均質に分布します(図3).

31〜4号液

生理食塩液と5%ブドウ糖をどれくらいの割合で配合したかを基本に考えます.数字が大きくなるほどブドウ糖液の割合が大きくなり,より低張になります(血管内に残る割合が少なくなる).

各製剤の特徴は,1号液と4号液にはKが含まれていません.3号液は維持液といわれ,約2,000 mLで1日に必要な主要な電解質を補うことができます.

ただし1〜4号液のどの製剤も生体より低張であるため,漫然と投与すると医原性の低ナトリウム血症を起こす可能性があります.

3号液は血管内脱水のない病棟患者の維持輸液として用いられることが多く,1号液や4号液はカリウムを投与したくない場合に用います.いずれの製剤も初期輸液として選択することはありません.

生理食塩液とリンゲル液どっちがよい?

先述のように生理食塩液にはさまざまなリスクがあるため,リンゲル液と比較した研究が複数あります1〜3).リンゲル液のほうが死亡率や新規透析導入が少なかったという結果のものや,差がなかったという結果のものなどがあり,一定の結論は出ていません.Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)20214)や日本版敗血症診療ガイドライン2024(The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock:J-SSCG 2024)5)ではこれらを総合し,生理食塩液の代わりにリンゲル液を使用することを弱く推奨しています.

なお,頭部外傷においては相対的に低張なリンゲル液が害を及ぼす可能性が示唆されており,頭部外傷以外の症例に関しては筆者も基本的にリンゲル液を選択しています.

症例のつづき①

研修医:
なるほど.いろいろ製剤はありますが血管内への残り方が全然違うんですね!
上級医:
その通り.初期に低張液を選択する場面はほとんどないので,敗血症か否かにかかわらず,初期輸液は等張晶質液を選択しよう.
研修医:
ショックのときにアルブミン製剤を使っていた先生もいましたが,最初は使わないのでしょうか?
上級医:
いい質問だね.アルブミン製剤に関しても勉強しておこう.
4アルブミン製剤

生体の膠質浸透圧と等しい5%等張アルブミン製剤と,生体より膠質浸透圧の高い25%高張アルブミン製剤が存在します.前者は循環血漿量是正を目的として,後者は膠質浸透圧を上昇させ血管内容量を維持することを目的として投与されます.

理論上は上記のような効果を期待して投与されますが,重症患者ではアルブミンが血管外漏出しやすく,期待通りの結果を得られないことが多いです.

症例のつづき②

研修医:
血管内に残りやすそうだから,アルブミン製剤の方が効果的に感じてしまいます.
上級医:
理論上はそうだね.過去にもそのように考えた人たちがいくつか研究を行ったけど,結果的にアルブミン製剤は死亡率を改善しなかったんだ6).血液製剤だからアレルギー等の副作用への懸念や,医療経済の観点からも漫然と使用することは避けた方がいいね. ところで,この患者さんにはそもそもなんで輸液が必要なんだろう?
研修医:
ショックのときはとりあえず輸液だと思っていました.
上級医:
実はショック=必ず輸液が有効というわけでもないんだ.いい機会だからショックの対応に関しても勉強しておこう.

2. なぜショックのときに輸液を行うのか?

ショックを管理する際には「①平均血圧(臓器灌流圧)を維持する」,「②酸素供給量を増やす」の2点を考える必要があります.平均血圧は心拍出量と体血管抵抗で規定され,酸素供給量は心拍出量と動脈血酸素含有量で規定されます(厳密には異なりますが,理解を助けるため簡略化しています).まとめると,ショック管理の際は心拍出量,体血管抵抗,動脈血酸素含有量のいずれかへ介入が必要です.心拍出量はさらに一回拍出量,脈拍数によって規定され,一回拍出量は前負荷,心収縮,後負荷によって規定されます.

前置きが長くなりましたが,輸液は前負荷を上げることで心拍出量を増やし,それによって平均血圧と酸素供給量に対し介入しているのです図4).敗血症の初期は炎症による循環血漿量減少や,血管拡張による相対的な前負荷の低下のため輸液が有効なことが多く,初期蘇生として輸液を行います.

症例のつづき③

研修医:
なんでもかんでも輸液すればいいわけではなく,ショック管理のどの部分に介入しているか考えるのが重要なんですね.
上級医:
その通り.そして,どこに介入すればいいか判断するために身体診察やエコー検査などを行おう!

〜輸液と並行し診察を進めたところ,エコーで右水腎症がありCTでも尿管結石が指摘された〜

上級医:
結石性腎盂腎炎による敗血症かもしれないね.培養検査を追加しながら,初期蘇生を行おう.輸液はどれくらい投与しようか?
研修医:
…30 mL/kgを3時間以内に投与でしたっけ?
上級医:
そうだね.国内外の敗血症のガイドラインで初期蘇生に関してそのように記載されている4,5).とはいえいつも30 mL/kg投与する必要はなくて,循環動態をモニタリングしながら輸液量を必要最小限にする努力も重要だね.

本当に「30 mL/kg」必要なのか?

先日病院実習に来た学生さんが,「敗血症の初期蘇生として30 mL/kgを3時間以内に投与する」という内容を知っており,学生まで広く浸透していることに大変驚きました.しかしSSCG 2016で提唱された「30 mL/kg」という数字を支持するエビデンスは観察研究に基づくものです.近年,重症患者における過剰輸液の害7)も注目されており,初期蘇生の段階から過剰輸液を避ける努力が必要かもしれません.初期輸液中も組織灌流が十分か〔乳酸値やCRT(capillary refilling time:毛細血管再充満時間)〕,輸液反応性はあるか(下肢挙上テストや心エコーでの心拍出量測定)を評価することがガイドライン上も推奨されています5)

引用文献

  • Semler MW, et al:Balanced Crystalloids versus Saline in Critically Ill Adults. N Engl J Med, 378:829-839, 2018(PMID:29485925)
  • Finfer S, et al:Balanced Multielectrolyte Solution versus Saline in Critically Ill Adults. N Engl J Med, 386:815-826, 2022(PMID:35041780)
  • Zampieri FG, et al:Effect of Intravenous Fluid Treatment With a Balanced Solution vs 0.9%Saline Solution on Mortality in Critically Ill Patients:The BaSICS Randomized Clinical Trial. JAMA, 326:1-12, 2021(PMID:34375394)
  • Evans L, et al:Surviving sepsis campaign:international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Intensive Care Med, 47:1181-1247, 2021(PMID:34599691)
  • 日本集中治療医学会:日本版 敗血症診療ガイドライン2024.2024
  • Martin GS & Bassett P:Crystalloids vs. colloids for fluid resuscitation in the Intensive Care Unit:A systematic review and meta-analysis. J Crit Care, 50:144-154, 2019(PMID:30540968)
  • Messmer AS, et al:Fluid Overload and Mortality in Adult Critical Care Patients-A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Crit Care Med, 48:1862-1870, 2020(PMID:33009098)
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