第2章 上肢
9. 手指骨骨折,脱臼
佐藤寿充
(帝京大学医学部附属病院 整形外科(手外科)・外傷センター)
Point
- 身体所見として「何」指の「どこ」に「どのような」損傷があるか,指1本1本診察する
- X線画像で側面像をオーダーするとほかの指と重なって見えないことがあり,重ならず撮影するよう事前に伝えておく
- 外固定では凝ったことをするのではなく多少大きくても損傷指をきちんと固定する
はじめに
手指骨外傷は救急外来で出会う可能性が高い四肢外傷の1つである.スポーツや労働による受傷が多く,受傷時平均年齢40歳と若年者~中年者でもよく起こる骨折である1).四肢長管骨骨折に比べて手指骨骨折は保存治療で治療可能なことも多く,79.5%に保存治療が行われていたとの報告もある2).受診時にすでに手術適応のものもあるが,保存治療が可能なものを手術を要する状態にならないようにすることが大切である.そのため,救急外来で正しく診断し,整復・外固定などの初療を行うことは手指骨外傷の正しい治療の第一歩と考える.本稿では問診~身体所見のとり方~検査,初療の方法を解説する.
1. 症例
症例1:槌指(mallet finger)
10歳代男性.バレーボールプレー中にボールを受けようとして手を出したときにボールに突き指して受傷した(図1).環指DIP関節が屈曲変形し自動伸展が不可能であった.単純X線では末節骨基部背側に骨折があり槌指と診断した.骨片が小さく,DIP関節亜脱臼もないため保存治療の方針とし,DIP関節が伸展位になるように掌側にアルフェンスシーネを当てて固定した.6週間外固定を行い,受傷後2カ月半で骨癒合が得られ,スポーツにも復帰している.
症例2:指脱臼
30歳代男性.野球プレー中に打者が打ったボールが直接小指に当たり受傷した(図2).小指DIP関節橈側に開放創があり骨の露出があった.X線検査では小指DIP関節の背側脱臼があり,DIP関節開放脱臼と診断した.局所麻酔後に洗浄し徒手整復を行い創部を閉創,アルフェンスシーネ固定を行った.
2. 手指外傷における診断までの共通チェック事項
1病歴聴取
労働中の受傷かスポーツプレー中の受傷か,スポーツであればその競技,受傷形態(軸圧損傷や挟撃損傷など),指の受傷時の肢位(屈曲損傷,伸展損傷など)の聴取は重要である.
①槌指:突き指など軸圧損傷で生じる3).
②手指関節脱臼:
・MP関節脱臼は関節の過伸展や,高エネルギーの軸圧損傷で生じる4).
・PIP・DIP関節脱臼は脱臼方向により背側脱臼・掌側脱臼・外側脱臼に分類される.最も多い背側脱臼は過伸展+軸圧損傷により生じる4).
③基節骨骨折:受傷機転はスポーツ関連から労働事故までさまざまである.高齢者では転倒など低エネルギー外傷によることもある.中指と環指は回旋力が加わり骨折することが多い5).
2身体所見
腫脹,疼痛,変形(回旋変形:cross finger,後述),自動・他動伸展の可否を指1本1本診察する.身体所見をとり「何」指の「どこ」に「どのような」損傷があるか細かく正確に把握する.
また,手指骨骨折は17%が開放骨折との報告がある2).歩行可能でありwalk inでフラッと来院することがある.walk inだからといって開放骨折でないとは限らない.開放創の有無,神経血管障害の有無は四肢外傷の初期評価の基本であり,手指外傷においても怠ってはならない.
3画像オーダー・診断
損傷指とその部位がわかった後でX線をオーダーする.撮影条件は手指正面像と側面像である.外固定が外せる場合は外固定を外した方がよいX線画像ができあがる.手指は側面像を依頼するとほかの指と重なって見えないことが多い.「〇指が見たい」と放射線技師に意思を伝えるためにも,ほかの指と重ならないで撮影するようにオーダーにコメントを書いておくとよい.基節骨は側面像でも基部はほかの指と重なってしまうことが多いので斜位もオーダーする.
手指骨骨折は大半がX線検査で診断可能であろう.診断が困難でありCTが必要なことがあるが稀であると考える.手術に際しては,骨片の大きさや細かい骨折線の評価のためCT検査を行うことがある.
●ここがポイント
手部全体のX線検査では手指骨骨折を見逃すことがある! 必ず手指条件でオーダーする.
4診断
各疾患別の細かい手術適応は他の成書をご参照いただきたい.
指の手術目的は,変形矯正,脱臼整復,早期可動域訓練を可能にすることである.これを達成すべき症例については手術適応となるかもしれないと認識することが大切である.
3. 救急外来での処置・対応
救急外来で行うべき処置は,変形・脱臼の整復と外固定である.
1変形・脱臼の整復
無麻酔で牽引し変形や脱臼を矯正することも可能ではあるが,疼痛が強い場合や開放性損傷で処置が必要な場合は指ブロックを行ってから整復するとよい.背側脱臼の場合は長軸方向に牽引して整復する.脱臼は翌日までそのままにしておくことはできないため,整復できない場合は上級医を呼ぶべきである. 変形矯正できたかどうかの指標は手指屈曲位で手指が重ならないこと,爪の向きが同じであることである.
●ここがポイント:手指の変形評価は指屈曲位で交差するかどうかで評価する6)
転位の方向には軸転位(橈屈変形,尺屈変形)と周転位(指の回旋変形,図3)がある.
2外固定
外固定にはシーネ,アルフェンスシーネ,バディーテーピングなどがある.
槌指であればDIP伸展位となるように掌側もしくは背側にアルフェンスシーネを当てて固定する(図4).アルフェンスシーネは数種類の太さがある.また,シーネ用などのハサミで切ることができ,徒手的に曲げることもできる.指の太さや本数に応じて適切な太さを選択し,固定範囲に応じてカットし,固定角度に応じて曲げるようにする.中節骨・末節骨骨折であれば,アルフェンスシーネ単独やバディーテーピング(図5)と組み合わせて外固定する.多数指損傷などで1つ1つを固定することが難しい場合はまとめてシーネ固定でも構わない.関節脱臼の場合は,再脱臼しないように脱臼と反対方向に関節を曲げてブロックするように外固定する.救急外来は適切な初療を行い専門医につなぐことが役割であるため,凝った外固定は行わず,多少大きくとも損傷指をきちんと固定したほうがよいと考える.
4. 上級医を呼ぶとき
手指骨骨折で早期治療が望ましい状況は,開放骨折,血管損傷による阻血である.末節骨中央~末梢の開放骨折は,洗浄および爪の処置によりERでも治療可能であるが,末節骨基部や中節骨・基節骨開放骨折はピンニングによる固定が必要なこともあり,上級医と相談して方針を決める方がよい.血管損傷があり阻血の場合は血行再建が必要である.血行再建が自施設で行えない場合は転送も考慮する必要があり,上級医に判断を仰ぐべきである.
これを達成すべき症例については手術適応となるかもしれないと認識しておく.特に早期可動域訓練が可能かどうかは大切である.手指は長期間固定をすると拘縮が起きる.そして,一度生じた拘縮を治すことはかなり大変である.拘縮が起きないように早期に可動域訓練を開始することが重要であり,早期可動域訓練を行えるような治療方針を選択している.
Advanced Lecture
ここがピットフォール:脱臼症例のなかには整復困難な症例がある
・PIP関節掌側脱臼:中央索(central band)と側索(lateral band)の間に基節骨骨頭が挟まり徒手整復できずに手術が必要となることがある6).
・MP関節脱臼:母指,示指に多く通常背側脱臼である.中手骨骨頭に乗りあげた掌側板が整復阻害因子になる6).
症例3
10歳代男性.バイク走行中にガードレールに衝突し受傷した(図6).他院に搬送され右小指基節骨骨折,MP関節脱臼と診断されるが,整復できず当院に転院された.当院でも徒手整復を試みたが整復できず,後日手術を行った.手術で関節内を確認すると掌側板が関節内に陥入しており整復阻害因子になっていた.掌側板をもとの位置に整復すると,MP関節の脱臼も容易に整復できた.
おわりに
手指は四肢長管骨と異なり多数の骨と関節がある.それゆえに細かな診察が必要である.骨,靱帯,腱などを頭に思い浮かべながら,1つ1つを触り「ねちねち」と身体所見をとれるかどうかがポイントである.
引用文献
- Kremer L, et al:Epidemiology and treatment of phalangeal fractures:conservative treatment is the predominant therapeutic concept. Eur J Trauma Emerg Surg, 48:567-571, 2022(PMID:32451567)
- Alfort H, et al:Finger fractures:Epidemiology and treatment based on 21341 fractures from the Swedish Fracture register. PLoS One, 18:e0288506, 2023(PMID:37450469)
- 「整形外科SURGICAL TECHNIQUE BOOKS 6 写真・WEB動画で理解が深まる 手・手指外傷の診断・保存的治療・手術」(面川庄平/監),メディカ出版,2021
- Finger Dislocation. 「StatPearls[Internet]」(Muhammad T, et al), StatPearls Publishing, 2025(PMID:31855352)
- 「Rockwood and Green’s Fractures in Adults 9th ed」(Tornetta P Ⅲ, et al, eds), Lippincott Williams &
Wilkins, 2020
↑2024年に最新10th editionが発行されている. - 「手の外科診療ハンドブック(茨木邦夫,他/編),南江堂,2004
著者プロフィール
佐藤寿充(Toshimitsu Sato)
帝京大学医学部附属病院 整形外科(手外科)・外傷センター
手指は構造が複雑であり,診断・治療が難しい場合がある.その反面,正確に診断・治療ができ,障害のない指を見ることができたときの喜びも大きい.手指外傷のほんの一部でしかないが,本稿を通して少しでも手に興味をもってくれる人がいることを願っている.
