レジデントノート増刊:基本の「型」をマスターし消化器診療に強くなる〜救急・病棟でよく出合う疾患の初期対応から病棟管理まで専門医が丁寧に教えます
レジデントノート増刊 Vol.27 No.14

基本の「型」をマスターし消化器診療に強くなる

救急・病棟でよく出合う疾患の初期対応から病棟管理まで専門医が丁寧に教えます

  • 宮垣亜紀/編
  • 2025年11月20日発行
  • B5判
  • 231ページ
  • ISBN 978-4-7581-2744-8
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
本書を一部お読みいただけます

第1章 消化管出血

2. Mallory-Weiss症候群

宮垣亜紀
(公立豊岡病院消化器科)

到達目標

  • Mallory-Weiss症候群の典型的な臨床経過を理解する
  • 疾患を想起し,初期対応と消化器内科にコンサルトができる

はじめに

Mallory-Weiss症候群は1929年に病理医Malloryと内科医Weissによって,飲酒後の嘔吐で生じた食道胃接合部裂創からの出血をきたす病態として報告されました.当時は内視鏡のない時代ですから,剖検症例から明らかにされています.

Mallory-Weiss症候群の発生機序は,嘔吐に伴う腹腔内圧の急激な上昇から胃が食道内腔に脱出し,食道下部から胃噴門部に裂創が生じることによると考えられています.裂創の深さは浅く,粘膜下層にとどまり,粘膜下層の血管が破綻することで出血をきたします.上部消化管出血の3〜15%程度を占めるとされています.

典型的なシナリオから,Mallory-Weiss症候群の型を習得してください.

症例

特記既往のない40歳男性が,吐血を主訴に救急搬送された.

現病歴:
日頃は機会飲酒で,アルコール常習歴はない.本日は会社の忘年会で,ビールと日本酒をいつもより多めに飲んだ.その後気分不良を訴え,3回嘔吐した.最初は食物残渣であったが,徐々に血液が混ざるようになり,搬送中にコップ1杯分の鮮血を吐いた.
身体所見:
JCS I-2(覚醒はしているが,時・場所は誤答),血圧100/65 mmHg,脈拍120回/分,呼吸数18回/分,体温36.4℃,皮膚は湿潤でじっとりしている.

1.典型的な臨床症状とポイント

  • ・先行する非血性嘔吐からの吐血
  • ・嘔吐の原因はアルコールが最多.他疾患が隠れていることもあり注意する

腹腔内圧の突発的な上昇が発症契機であるため,通常は吐血の前に非血性嘔吐が先行します.その後に鮮血またはコーヒー残渣様の吐血が続きます.

Mallory-Weiss症候群を病歴・臨床症状から想起することは難しくありません.ここで忘れてはならないのは,嘔吐の原因まで把握しておくことです.

Mallory-Weiss症候群のリスクファクターについて記載します.最も頻度の高いものはやはり飲酒です.他には,腹部の鈍的外傷,強い咳嗽,排便や出産時の怒責,医原性として胃管留置や上部消化管内視鏡検査が知られています.筆者は,Mallory-Weiss症候群で入院した高齢女性患者が,後に小脳出血であったことが判明した事例を経験しました.深夜帯に入院した患者さんでしたが,翌朝の回診で身体が傾いたことで気づきました(小脳出血による体幹失調です).病歴聴取では「X → 嘔吐 → 吐血」のXまで詰めておきましょう.

2.見逃してはいけない鑑別診断:特発性食道破裂(Boerhaave症候群)

■ 嘔吐後の胸痛,背部痛は特発性食道破裂を鑑別にあげる

特発性食道破裂(Boerhaave症候群)も,Mallory-Weiss症候群と同様に嘔吐による食道内圧の突発的な上昇によって起こります.発生機序は同様ですが,重症度はより高い疾患です.縦隔や胸腔への消化管内容物の穿破により数時間で敗血症を引き起こします.症状は嘔吐後の強い胸背部痛,皮下気腫です.皮下気腫は必須症状ではなく,伴わない場合もあります.強い胸背部痛が症状であることから,特発性食道破裂のmimickerは心筋梗塞や胸部大動脈解離です.

特発性食道破裂の好発部位は食道下部左後壁側で,縦向きの全層に及ぶ深い裂創ができます.CT検査で縦隔気腫や左胸腔側への消化管内容物の貯留があれば,確定診断となります(図1).稀な疾患のため,まとまった治療ガイドラインはありません.一般的には絶飲食,抗菌薬治療,胃管による持続吸引に加えて,穿孔部の縫縮や胸腔ドレナージなどの侵襲的な治療を要します.最近では,内視鏡的食道ステント留置や内視鏡的縫縮デバイスによる穿孔部縫縮と,胸腔鏡を用いた胸腔洗浄を組合わせる低侵襲な治療も試みられています.

名前のいろいろ.特発性はspontaneousかidiopathicか?

ちなみにBoerhaaveは,“ブールハーフェ”と読みます.1724年にオランダの外科医Herman Boerhaaveが剖検症例から発見したと言われています.Mallory-Weiss症候群よりも前から知られているということになります.疾患に発見した人物の名称を用いるのはよいとしても,どちらも読みづらく覚えにくいですね.

Boerhaave症候群は,英語ではSpontaneous rupture of esophagus,日本語では特発性食道破裂とされています.ところで,日本語では“Idiopathic”も“Spontaneous”も「特発性」と訳されますが,両者の使い分けを意識したことがありますか? Idiopathicには,病気の原因が不明であるというニュアンスが含まれます.一方で,Spontaneousには自然発生的な外部からの影響を受けない突発的なイベントという意味があります.Boerhaave症候群は,異物などの外的要因による穿孔でないことからspontaneousが用いられていますが,嘔吐という要因はあるのでspontaneousもなんだかしっくりこない気がします.Up to Dateでは,Effort rupture of the esophagus(努力性食道破裂)と表記されており,こちらの方が名は体を表すように思います.

症例のつづき

末梢静脈路を確保し,細胞外液の投与を開始した.500 mL投与が終了した時点で,脈拍は100回/分程度に落ち着き,皮膚の湿潤も改善していた.しかし,来院後にも鮮血の吐血があり,血液検査を提出しつつ,もう1本の末梢静脈路を確保し,輸血の準備を整えておくことにした.さらにプロトンポンプ阻害薬(PPI)の静脈投与を行った.これらの初期対応をしているうちに,血液検査の結果が判明した.

血液検査:
白血球 9,000/μL,Hb 11.3 g/dL,血小板19.9万/μL,BUN 45 mg/dL,Cr 0.8 mg/dL,肝機能は正常,電解質異常なし,凝固機能検査も正常である.

Glasgow-Blatchford scoreは9点であった.

緊急内視鏡の適応があると考え,消化器内科の待機医師を呼び出すことにした.

3.初期対応のポイント

  • ・末梢静脈路を確保する.できれば2ルート
  • ・循環動態の評価.判断に迷うなら,とりあえず細胞外液500 mLを入れる
  • ・輸血の準備として血液型・クロスマッチを含めた血液検査一式
  • ・PPIの静脈内投与
     例)オメプラゾール20 mg+生理食塩水20 mL 静脈内投与

消化管出血の初期対応のポイントは,原因疾患が何であれ基本は同じです.末梢静脈路を確保し細胞外液の投与,PPIの投与,輸血ができる準備です.循環動態の判断に迷うなら,とりあえず細胞外液500 mLを投与しましょう.上部消化管出血の可能性が否定できない限りは,全例にPPIを投与すればよいです.モニターを装着して,バイタルサインの変化には常に気を配ります.詳しくは,「消化管出血の総論」(p23)にまとめてあるので,そちらを参照してください.

4.消化器科へのコンサルテーションで伝えるべきポイント

  • ・先行する非血性嘔吐からの吐血があり,Mallory-Weiss症候群を疑っていること
  • ・嘔吐の原因も言及する
  • ・緊急内視鏡を依頼したい根拠を示す(Glasgow-Blatchford scoreの項目を参考に)
  • ・抗血小板薬,抗凝固薬の内服の有無

院外の消化器内科待機医師に電話をかける,あるいは院内PHSで連絡をとるなど,非対面でのコンサルトが一般的だと思います.電話コンサルトでは端的に相手が必要な情報を述べることが最も求められます.消化管出血においては,緊急内視鏡をすべきかどうかを判断できる情報があるかどうかがすべてです.Mallory-Weiss症候群は軽症で待機的内視鏡検査でよいことも多いですが,本症例のようにショック徴候やBUN高値があり,緊急内視鏡の適応があることも稀ではありません.Mallory-Weiss症候群を疑っていること,緊急内視鏡を依頼したい根拠を明述することができれば,コンサルトを受ける側も判断しやすくなります.

ちなみに,上部消化管出血の予測スコアとしてGlasgow-Blatchford scoreが有名です.内視鏡治療の必要性や外来管理可能かどうかの予測に用いられます(詳細は,「消化管出血の総論」p27を参照).このスコアリングシステムの中身には,緊急内視鏡を判断するエッセンスが含まれています.点数そのものが重要なのではなく,研修医の皆さんには項目をチェックするために使うことをお勧めします.消化器内科に連絡する際も,総点数だけ伝えるのではなく,ポイントがついた項目を述べた方が伝わります.また,抗血小板薬・抗凝固薬の内服についての情報があると有用です.Glasgow-Blatchford scoreには抗血小板薬・抗凝固薬の項目は含まれていませんが,消化器内科医が緊急内視鏡をしようと考える重要な因子です.

緊急内視鏡が不要と判断できる場合について解説を加えます.Glasgow-Blatchford scoreが2点以下で,軽症であると判断された場合は外来管理可能です.内服のPPIまたはP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー,タケキャブ®)を処方し,後日消化器科の受診を指示しましょう.

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著者プロフィール

宮垣亜紀(Aki Miyagaki)
公立豊岡病院消化器科
「手を動かす」臨床が好きで消化器内科を選びました.臨床一筋でしたが,現在は大学院で公衆衛生・臨床研究を学び中.新たな視点を得て臨床の奥深さを再認識しています.手技好きはぜひ消化器内科へ!

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