第2章 各論 〜栄養治療の実践〜
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
栗山とよ子
(福井県立病院 内科)
Point
- COPD患者は呼吸に余分なエネルギーを費やすため,健常人より多くのエネルギー量が必要である
- COPD患者は低栄養やサルコペニアを引き起こす割合が高いため,早期から栄養治療を開始する
- 急性増悪期には,脂質のエネルギー比を大幅に増量した栄養組成の有効性が期待される
はじめに
COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは,肺の弾力性の低下や気道の狭窄により呼気の気流が制限されるため,呼吸に費やすエネルギー量が非常に大きくなります.健常人が通常の呼吸筋(横隔膜,肋間筋など)を用いて呼吸をする場合,呼吸に要するエネルギーは総エネルギー消費量(total energy expenditure:TEE)の1~3%程度であるのに対して,COPD患者では腹直筋や腹斜筋など努力性呼吸時に働く筋の活動も慢性的に上昇するため1)呼吸に費やすエネルギー量が増量し,その結果,安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)が上昇します.軽度から中等度のCOPD患者ではTEEの10~20%,重症患者では最大30%のエネルギーを呼吸に費やすと推定されており,低体重患者ではさらにその割合が高いことが報告されています2).呼吸状態が悪化すると身体活動量が低下して摂食量も低下し,体重減少が進行し,COPD Ⅲ期(重症)の体重減少の割合は40%,Ⅳ期(最重症)では60%に上ると報告されています3).さらに慢性的な全身性炎症を伴うため,それに誘導された炎症性サイトカインの分泌が増量し,体タンパク質の異化が亢進します.これらによってCOPD患者ではサルコペニアを引き起こすリスクが高く4),ADLが低下して誤嚥性肺炎など肺感染症を合併しやすくなり,全身状態の悪化を引き起こします.このような悪循環に陥らないためには,呼吸リハビリテーション・運動療法と並行して,早期からの栄養療法を開始することが推奨されます5).
1COPD患者の栄養管理上の特徴
具体的にどれくらいの栄養投与が必要でしょうか.前述のようにCOPD患者では呼吸に費やす余分なエネルギー量によってREEが1.2~1.5倍に上昇するため,栄養状態を改善・維持するためには同年代の健常者より多くの栄養摂取/投与が必要です.しかし一方で,肺の過膨張によって横隔膜が平坦化しているため少量で満腹になりやすく,逆に食事をとることで横隔膜が引き上げられ換気が妨げられます.以上より,少量で効率よく栄養素を摂取/投与すること,栄養代謝で発生する二酸化炭素(CO2)をできるだけ抑えることが栄養療法のポイントになります.COPD患者の代謝と栄養療法上の特徴を表1に示します.
栄養代謝で発生するCO2についておさえておきましょう.三大栄養素は酸素(O2)を使って燃焼し,エネルギー源であるATP(adenosin triphosphate)を生み出すと同時に水(H2O)とCO2を産生します.消費するO2と産生されるCO2の比率,つまり呼吸商(RQ=産生CO2量/消費O2量)は栄養素ごとに異なり,糖質は消費するO2に対して同量のCO2を産生する(RQ=1.0)のに対して,脂質では7割(RQ=0.7),タンパク質は構成するアミノ酸組成によって異なりますが平均してRQ=0.8と見積もられています(表2).主なエネルギー源が糖質と脂質であることを考えると,RQの高い糖質を減量してRQの低い脂質を増量する方が,COPD患者においては有利と推察されます.特に人工呼吸器を装着した急性期の重症患者においては,高脂肪・低炭水化物食を投与すると,人工呼吸器からの離脱時間が短縮されたと報告されています6).
2栄養素の比率の違いによるCO2産生量のシミュレーション
栄養素の比率を調整した栄養剤はどれくらいCO2産生抑制に有効なのでしょうか.標準組成の栄養剤A(エネルギー比:タンパク質18 %,脂質20 %,糖質62 %)と,脂質を強化した栄養剤B(同17 %,50 %,33 %)を,後に検討する症例の総エネルギー必要量1,600 kcal/日を投与した場合,それぞれの栄養剤で産生されるCO2量をシミュレーションしてみましょう.栄養剤Aから産生されるCO2量に比べて栄養剤Bでは7.2 L(3.0%)少ないという結果でした.なお,栄養剤AはラコールNF®を,一方の栄養剤Bは脂質含有量が最も多いグルセルナ®-REXで代用しました〔慢性呼吸不全に対応したプルモケア®-EX(同17 %,55 %,28 %)は2025年2月で終売〕.
以上を踏まえて,COPD症例に適切な栄養療法を考えていきましょう.
●脂質のエネルギー比を大幅に増量した栄養剤と標準的な組成の栄養剤の内呼吸で産生する二酸化炭素量のシミュレーション
A:標準組成の栄養剤(タンパク質18 %,糖質62 %,脂質20 %)
1,600 kcal中に含まれる 糖質249.6 g,脂質36.0 g
CO2産生量=249.6×0.747+36.0×1.414≒237.4 L
B:脂質を大幅に増量した栄養剤(タンパク質17 %,糖質35 %,脂質50 %)
1,600 kcal中に含まれる 糖質140.4 g,脂質88.6 g
CO2産生量=140.4×0.747+88.6×1.414=230.2 L
* AはBより7.2 L(3.0 %)CO2 産生量が少ない
グルコース1 gから産生するCO2を0.747 L,脂質1 gからは 1.414 L として計算した
症例
73歳男性
[主訴]労作時の息切れ
[職業]63歳まで建設業
[生活歴]飲酒:機械飲酒程度 喫煙:20歳から65歳まで20~30本/日 65歳で禁煙
[既往歴]特記事項なし [家族歴]特記事項なし
[現病歴]60歳ごろより階段や坂道歩行時に人より息切れがしやすいことを感じていた.70歳ごろより平坦な道でも息切れがするようになり,近所への歩行もつらくなっていた.家人が受診を勧めたが,歳のせいだと受診しなかった.しだいに入浴や着替えなど生活動作でも呼吸苦を感じるようになっていた.数日前から発熱と咳嗽・痰が出現し,息切れがさらに悪化.夜間に咳で目が覚めるようになったため,当院救急外来を受診した.画像検査でCOPDを背景とした肺炎と診断され,呼吸器内科に入院となった.食事量は数年前から健常時の半分以下に減少し,ここ数日はほとんど摂取できず,体重は5年前より12 kg減少していた.
[入院時所見]
・身体所見:身長172 cm,体重48 kg,平常時体重(UBW)60 kg,理想体重(IBW)65.1 kg,BMI16.2
口すぼめ呼吸,胸郭はビア樽状
聴診で両側胸部の呼吸音は減弱,両下肺野で湿性ラ音を聴取
酸素飽和度90 %(room air)
・動脈血ガス分析 PaO2 40 Torr, PaCO2 60 Torr, pH 7.35, HCO3 35 mEq/L
・呼吸機能検査 努力肺活量(FVC):測定値2.806 L,予測値3.669 L,対予測値76.5 %
1秒量(FEV1):測定値1.498 L, 予測値3.308 L, 対予測値45.3 %
1秒率(FEV1/FVC):50.2 %
*FVCは軽度低下,FEV1およびFEV1/FVCは高度低下 → 閉塞性換気障害
・血液検査
Alb 2.7 g/dL, CRP 12.3 mg/dL, WBC 11,000/μL, Hb 13.7 g/dL, ほか一般生化学・血算に異常なし
・胸部X線:肺野の透過性亢進,横隔膜の平坦化,滴状心を認める.また左下肺野に浸潤影を認める.
・胸部CT:肺気腫性変化(低吸収域),ブラ(bulla),気管支壁の肥厚,左下肺野に浸潤影を認める.
1. COPD患者さんに栄養療法を開始するタイミングの基準は?
低栄養が進行すると呼吸に関連する筋力の低下や免疫力の低下を招き,QOLが低下して予後の悪化につながります.それを防止するために低栄養を認めた時点ですみやかに栄養療法を開始する必要があります.各種ガイドラインや文献では,6カ月で5 %以上の体重減少7)あるいはBMI 21 kg/m2未満の低体重を認めれば栄養介入すべき8)と提言しており,早期の介入が体重増加や呼吸筋力の改善,QOLの上昇に有効であることが報告されています9).
症例は長期にわたって食事摂取量が低下していたことによって,健常時より12 kg(20 %)体重が減少し,BMIは16.2と低値です.直ちに栄養療法が必要な状況です.
2. 具体的な栄養処方の考え方
1急性期
栄養処方を決定するために,まず患者さんの代謝必要量を算出しましょう.長期間低栄養で経過した後の再栄養投与なので,栄養治療開始急性期と安定期の2段構えで栄養治療計画を立てる必要があります.急性期は栄養投与に伴うリフィーディング症候群(refeeding syndrome:RfS)や乳酸アシドーシスなどに代表される代謝性合併症を引き起こさないように慎重に急性期の目標量まで増量し,それに続く安定期の栄養投与に備えます.安定期には呼吸に費やすエネルギーを補い,かつ栄養状態が改善する栄養量を目標量とします.代謝性合併症を引き起こすことなく急性期の目標量に到達すれば,さらに5~7日程度かけて安定期の目標量まで増量します.
1) TEE
目標量を安静時エネルギー消費量:25 kcal/kg×体重(kg),COPD+感染症による傷害係数(SF)を1.3として
TEE=25 kcal/kg×48 kg×1.3=1,560 kcal/日
2) タンパク質必要量
慢性的に需要が亢進しており,また軽度の低アルブミン血症を認めることから多めに設定します.
体重当たり1.3 g/kgとして
48×1.3≒62 g/日 → 248 kcal
3) 脂質必要量
RQを考慮して,多めにTEEの40 %として
1,560×0.4=624 kcal → 69 g/日(621 kcal)
4) 糖質必要量
TEEからタンパク質と脂質のエネルギー量を差し引いて
1,560-(248+621)=691 kcal → 173 g/日
5) ビタミン,微量元素
年単位の長期間にわたって食事摂取量が少なかったことから,すべての微量栄養素の絶対量が低下していると推察されますが,まずは『日本人の食事摂取基準(2025年版)』に準じた1日必要量の補充に努めます.ただしビタミンB1は,再栄養開始に伴って需要が大幅に増量し,欠乏すると乳酸アシドーシスや Wernicke脳症を発症するリスクがありますので,栄養療法開始前から数日間は大量に(200~300 mg)投与します.
6) 水分投与量
現体重kg×30~40 mL/kgとして 48×(30~40)=1,440~1,920 mL →1,700 mL/日
2安定期
健常時の体重60 kgを目標体重として栄養必要量を算出します.
1) TEE
呼吸に費やす慢性的なエネルギー消費量の上昇,および感染症に伴う代謝亢進を考慮して,傷害係数を1.2として
TEE=25 kcal/kg×60 kg×1.2(SF)=1,800 kcal/日
*Harris-Benedict式で基礎代謝量(BEE)算出して,活動係数1.2,傷害係数1.2をかけると
TEE=1,259×1.2×1.2≒1,813 kcal/日 となります.
2) タンパク質必要量
栄養状態を改善するために,引き続き多めに設定しましょう.
体重当たり1.3 g/kgとして
60×1.3=78 g/日 → 312 kcal
3) 脂質必要量
TEEの40 %として
1,800×0.4=720 kcal → 80 g/日
4) 糖質必要量
TEEからタンパク質と脂質のエネルギー量を差し引いて
1,800-(312+720)= 768 kcal → 192 g/日
5) ビタミン,微量元素
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に準じた1日必要量を投与します.
6) 水分投与量
急性期と同様,1,700 mL/日(体重増加に応じて調整)とします.
3栄養投与経路の決定
次に栄養投与経路を決定します.
入院までの数年間摂食量が少ない状況が続いていましたが,その原因が呼吸困難による食思不振なのか,嚥下機能自体の低下も伴っているのかを評価する必要があります.言語聴覚士(speech therapist:ST)の評価を受けましょう.
吸入薬などの薬物治療や酸素投与で呼吸状態が改善し,嚥下機能に問題がなければ,病院食での栄養管理を選択します.前述のとおり,COPD患者では一度に十分量の食事を摂取するのが困難なため,1回あたりの食事量を減量して間食に栄養補助食品を提供する分割食が有利です.COPDに対応して脂質の割合を増量した病院食の用意はないと思いますが,当院での提供例として,軟菜ハーフ食・米飯小盛 + 200 kcal程度の栄養補助食品 3品 を提供すると,1,300~1,400 kcal,タンパク質50~55 g,脂質30~40 g,糖質180~200 gを提供できます.ただし,低栄養が長期化していた状況での栄養療法なので,リフィーディング症候群を防止するために原則として入院前の摂取量+200 kcal程度から開始して,電解質をモニタリングしながら1週間程度かけて段階的に増量することがポイントです.これは経口/経管/経静脈栄養にかかわらず同様です.
3. 栄養療法切り替えのタイミング(症例のその後)
食事の提供量を段階的に増量しても摂食量が増量しない(この可能性が高いです)場合は,経口以外の栄養投与方法を考えます.摂食量の程度によって選択肢が異なりますので,それぞれについて考えてゆきましょう.
Case 1 目標量の半量程度を摂食できる場合
末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)を併用して栄養量の充足に努めます.
例えば
パレプラス®1,000~1,500 mL+20 %イントラリポス®100 mL を併用すると,
620~830 kcal,アミノ酸30~45 g,脂質20 g,グルコース75~112.5 g を補充でき,食事で800 kcal/日程度を摂取できれば,急性期の目標量を充たします.摂食量に応じてPPNを調整しましょう.
Case2 ほとんど摂食できない場合
経管栄養と経静脈栄養のいずれかを選択することになります.
①経鼻栄養カテーテルを挿入して経管栄養を実施する
②中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)を挿入して中心静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)を実施する
それぞれの栄養療法の具体的な処方例を考えましょう.
4. 栄養療法変更後の処方
1経管栄養を実施する場合
COPDでは消化管に問題がないことがほとんどなので,こちらを優先します.動脈血中の二酸化炭素分圧が上昇したⅡ型呼吸不全の状態でなければ,標準組成の栄養剤を用います.効率よく栄養を投与するために高エネルギー密度(1.5 kcal/mL)の栄養剤を選択しましょう.本症例の場合は600 kcal/日から開始して2~3日ごとに300 kcalずつ増量し,9日間かけて急性期目標量に到達し,以後安定期の必要量に増量します(表3).水分量は栄養剤の含有量だけでは不十分なので,合計1,700 mL程度になるよう追加水270 mL×3回を投与します.
一方,治療によっても高二酸化炭素血症が遷延する場合は,内呼吸でのCO2の産生抑制を図るために脂肪含有量の多い栄養剤を選択したほうが有利かもしれません.グルセルナ®-REX(脂質のエネルギー比50 %)で投与計画を立ててみましょう.濃縮タイプではないため用量が多くなると呼吸に負担をかける可能性があり,増量に応じて一部を高エネルギー密度の標準組成栄養剤と組合わせます(表4).
2TPNで管理する場合
何らかの理由で経管栄養が実施できない場合は経静脈栄養を選択します.末梢から適切な輸液量で必要な栄養量を投与することは困難なので,PICC(peripheral inserted central venous catheter)などCVCを挿入してTPN輸液を投与します.経管栄養の場合と同様に600 kcal程度の少量から開始して,数段階を経て必要量まで増量します(表5).脂肪乳剤も開始早期から積極的に使いましょう.また,三大栄養素だけではなく,ビタミン・微量元素も1日必要量を充足しているか確認します.投与案(表5)では7日目以降の処方で5大栄養素すべての1日必要量を充たします.ただし,微量元素については9種類のうち5種類(鉄,亜鉛,銅,マンガン,ヨウ素)しか含みません.長期化する場合は特にセレン欠乏に留意しましょう.
5. モニタリングには何を指標とすればよいだろうか
1治療早期
治療早期は,栄養状態の改善より再栄養治療に伴う合併症を引き起こさないためのモニタリングが重要になります.最も注意すべき合併症はリフィーディング症候群です.長期間低栄養状況下に置かれると,主なエネルギー源は糖質から貯蔵脂肪および体タンパク質の分解で得られた脂肪酸とアミノ酸に移行します.この代謝状況下で過剰な糖質を投与するとインスリン分泌が惹起され,グルコースが急速に細胞内に取り込まれると同時に血液中のリン(P),カリウム(K),マグネシウム(Mg)も細胞内に移動し,これらの電解質の血中濃度が急激に下がることで引き起こされます.特にPの低下が病態の主体であり,ATP産生障害に伴ってさまざまな症状を呈します(表6).リフィーディング症候群を引き起こさないためには少量から栄養投与を開始して漸増し,目標量に到達するまでは頻回に電解質をモニタリングして,PとKを正常範囲内やや高めになるよう必要に応じて補充します.Mgは栄養治療経過で正常化することが多い印象です.特に経静脈栄養時にグルコースだけで増量していくとCO2の産生量が増量するだけでなくリフィーディング症候群発症のリスクを高めます.早期からアミノ酸,脂肪を含む処方にしましょう.
ビタミンB1欠乏症にも留意が必要です.乳酸アシドーシスから重篤化するとWernicke脳症を引き起こすリスクがあり,避けなければいけません.栄養投与前から3日間程度大量(200~300 mca/日)を投与し,以後は内服に切り替えて摂食量/投与量が安定するまで継続します(TPNの場合は減量して継続).
さらに低血糖も少なくない合併症です.低血糖を起こすたびに50 %グルコース液の投与で対応していると大幅な血糖変動を引き起こし,良策ではありません.頻回に起こる場合は10 %グルコース液を40 mL/時で持続投与します.
2安定期以降
安定期以降は栄養状態改善が目的なので,モニタリング指標の基本は体重です.週1回,同様の状況下で測定して0.5~1.0 kg/週程度の体重増加を獲得できるよう提供量を調整します.2 kg/週以上の増減は栄養状態より体液の増減,つまり溢水や脱水の可能性が高く,原因検索が必要です.血液検査項目では血清アルブミン(Alb)値が代表ですが,血管外プールの割合が大きいこと,炎症や侵襲が存在すると見かけ上血中濃度が低下するなど栄養状態以外の要因の影響を受けるため,血中濃度が栄養状態を正確に反映しない場合があります.また血中半減期が約20日と長く,短期間の栄養評価をするには鋭敏性にかけます.とはいえ基本的で有用な栄養指標であることには間違いなく,1~2 週ごとに測定して,特徴を理解したうえで活用しましょう.
一方,ほかの因子の影響を受けにくく短期間の栄養状態の評価に有用な指標として,RTP(rapid turnover protein)とよばれる3種類のタンパク質〔レチノール結合タンパク(retinol-binding protein:RBP), トランスサイレチン(transthyretin:TTR), トランスフェリン(transferrin:Tf)〕があり,それぞれの血中半減期は0.5日,2日,7日です.ICU患者など短期間で状態が変化する患者や,重度の低栄養患者の再栄養投与後の指標として有用です.
症例のつづき
ST評価で嚥下関連筋の廃用により嚥下機能は低下していると判断されたため,嚥下食を提供しましたがわずかな摂取しかできなかったため,経鼻栄養カテーテルを挿入して表3に沿った経管栄養を実施した.2週間後には全身状態・呼吸状態とも回復したが十分な経口摂取回復には至らず,今後も長期化すると予想されたため胃瘻を造設した.摂食はフリーとして,不足分を補う量の半固形状栄養剤をボーラス投与することで,入院から4週目には体重が2 kg増加し,血清Alb値も3.5 g/dLに改善した.退院後も同様の栄養管理を継続されている.
おわりに
COPDは低栄養のリスクが高い病態です.治療と並行した十分量の栄養投与が必要ですが,経口だけでは不十分な場合,在宅での低栄養進行を防止するためにも胃瘻を造設して不足分の栄養を補充することも,よい選択肢と考えます.
Column 私と栄養治療
医師になって数年間は医療の技術や診断能力を高めることに集中して,恥ずかしいことに患者さんの栄養状態に関心を向けることはありませんでした.絶食の患者さんにわずかなグルコースを含む輸液で数日間管理した挙句,低血糖を頻回に起こしてしまったことがあり,栄養にも気を配らないといけないことにようやく気づきました.以後手探りで栄養療法の勉強をはじめましたが,医師用の書籍はほとんどなく,しかもほとんどが食事に関する内容で,経管栄養や経静脈栄養療法を具体的に解説したものは皆無でした.そのころ(2000年)医師を対象とした系統的に栄養療法を学ぶ研修がはじまり,参加することができました.そこでは低栄養とは何か,から栄養アセスメントの基本,疾患別栄養管理方法まで2日間かけて詳細に学ぶことができ,もやが晴れた気がしました.それを皮切りに栄養療法に関連した国内外の学会やセミナーに参加して知識を積み重ね,栄養療法の重要性をますます実感するようになりました.
まもなくNST(nutrition support team)を立ち上げ,ある程度の知識を得た後に入院患者さんを見回すと,栄養管理が不十分/不適切な症例が浮き上がってきます.そういった患者さんに適切な経口/経腸/経静脈栄養療法を行うと,データに現れる前に表情や皮膚の状態が改善します.それがうれしくて栄養治療の提言を続けています.
文献
- Gandevia SC, et al:Discharge frequencies of parasternal intercostal and scalene motor units during breathing in normal and COPD subjects. Am J Respir Crit Care Med, 153:622-628, 1996(PMID:8564108)
- Schols AM, et al. Resting energy expenditure in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Clin Nutr. Dec, 54:983-987, 1991(PMID:1957831)
- 吉川雅則,木村 弘:Ⅲ.合併症(全身併存症)-1.栄養障害.日本内科学会雑誌,101:1562-1570, 2012
- 三川浩太郎,他:慢性閉塞性肺疾患におけるサルコペニア患者の有病率および臨床的特徴について.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌, 29:304-310, 2020
- COPDの定義.「COPD(慢性閉塞性疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版」(日本呼吸器学会 COPD ガイドライン第5版作成委員会 / 編),pp9-10,メディカルレビュー社,2018
- Solidoro, P:The role of Pulmocare in acute and chronic respiratory insufficiency. Minerva Pneumologica, 37:23-27, 1998
- Schols AM, et al:Nutritional assessment and therapy in COPD:a European Respiratory Society statement. Eur Respir J, 44:1504-1520, 2014(PMID:25234804)
- 「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」(日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会/編),メディカルレビュー社,2022
- Schols, Annemie M W J, et al. “Nutritional assessment and support in COPD:a systematic review and expert opinion.” European Respiratory Journal 43.5:1502-1510, 2014
著者プロフィール
栗山とよ子(Toyoko Kuriyama)
福井県立病院 内科
患者さんの栄養療法については,よりよい栄養療法はないかと日々心にとめていますが,自分の栄養管理をあらためて振り返ると,全く無頓着で恥ずかしい限りです.特に研修医の皆さんは,忙しい業務の中で自分の栄養管理は後回しになると思いますが,心身ともに健やかに診療にあたるために,自分自身の食事にもほんの少し気を配りましょう.
