レジデントノート増刊:救急手技 これだけは!〜適応の見極めから手技の実践まで、迷わず・安全に行うための基本とコツ
レジデントノート増刊 Vol.28 No.5

救急手技 これだけは!

適応の見極めから手技の実践まで、迷わず・安全に行うための基本とコツ

  • 片桐 欧/編
  • 2026年05月20日発行
  • B5判
  • 226ページ
  • ISBN 978-4-7581-2753-0
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
本書を一部お読みいただけます
※実際の紙面のレイアウトとは異なります

第3章 循環に関する手技

8.心膜穿刺

柿原光貴

 

Point

  • ショック患者に超音波を当てて,心膜液貯留があれば心タンポナーデを考える
  • 剣状突起下,傍胸骨,心尖部から超音波を当てて安全に穿刺できる部位を検索する
  • 超音波で確認した部位,方向に穿刺し,心膜液を吸引する
  • 吸引できたらシリンジを外し,ガイドワイヤー→カテーテルの順に留置して持続吸引可能な状態にする

 

はじめに

皆さんは救急外来で心タンポナーデの症例を経験したことがあるだろうか.ここでは,救急外来で遭遇し,処置を行う頻度としては稀な心膜穿刺に関して解説していこうと思う.頻度が高くないからこそ,事前の学習・シミュレーションが目の前の患者を救命できるかに寄与すると考える.私自身も経験が少ないため,本稿を通して皆さんと学んでいければと思う.

※日本循環器学会からの提言に従い,従来の「心嚢穿刺」から「心膜穿刺」へと用語を変更している.

1.適応(心タンポナーデ)と相対禁忌

まずは心膜穿刺の適応・相対禁忌を確認していこう.適応としては①心タンポナーデ,②心膜液貯留による症状改善,③心膜液の性状診断があげられる.読者の皆さんが穿刺を実施する場合は主に①の場合と思われる.それでは心タンポナーデとはなんであろうか.心タンポナーデとは心膜液が貯留し,血行動態が不安定となっている状態である.後半の血行動態が不安定というところが重要と筆者は考えている.相対禁忌の項目にも含まれるが,血行動態が安定している状況では心膜穿刺の必要性は低いのである.

相対禁忌としては,血行動態の安定している心膜液貯留(性状診断目的以外で),安全な穿刺距離がない場合,出血傾向(凝固障害・血小板減少・抗凝固薬使用など),穿刺部の感染,患者の不安定な協力性,解剖異常(先天異常,胸壁異常),技術的に安全なアプローチを確保できない場合などがあげられる.注目したい点としては絶対禁忌はなく,心タンポナーデによる生命の危機であれば相対禁忌項目があっても,穿刺やむなしの状況も発生しうるのである.また,国家試験的には大動脈解離に伴う心タンポナーデに対して心膜穿刺は禁忌と暗記した読者もいるかもしれない.これは心タンポナーデ解除により急激な血圧上昇が生じ,解離が増悪するためと説明される.臨床においては,大動脈解離でも手術室搬入までの時間を稼ぐために,厳密な血圧モニタリング下で心膜穿刺が行われることがある.

2. 心タンポナーデの概要

1 疑うべき状況

救急外来で心膜穿刺を要する疾患として「心タンポナーデ」があげられるが,そもそも心タンポナーデはどのように疑い,どのように検査して診断するか押さえよう.

救急外来で心タンポナーデを疑う所見として,低血圧・頻脈,頸静脈怒張,乏尿・意識レベル低下,心音減弱,外傷後の突然のショックがあげられる.続いて診断としては超音波検査を行う.前述の外傷後やショック状態から出血源検索としてFAST(focused assessment with sonography for trauma:外傷診療における超音波検査)を行うと思う.FASTの過程で心膜液貯留が証明されればショックの原因として心タンポナーデが考えられ,心膜穿刺が必要となる.心タンポナーデの超音波所見としては,右房・右室の拡張期虚脱,心膜液貯留,下大静脈(inferior vena cava:IVC)拡張・呼吸性変動低下がある.このような所見がみられた場合は,穿刺の準備と該当科の専門医へのcallを行う.

2 解剖学的特徴,心膜液貯留量に対する耐容性

心臓は両肺に挟まれた縦隔内にある.その心臓を包んでいる膜が心膜であり,二重膜構造となっている.この膜の間に液貯留が生じ,循環動態が不安定化するのが心タンポナーデの病態である.

心タンポナーデのイメージとして,大量の心膜液により心拍出量が低下している状況を思い浮かべやすいかもしれない.しかしながら,「心膜液の貯留量」に関しては適応の項目に記述していなかったことに注目してほしい.心膜液の量は重要ではなく,心膜液貯留により血行動態が不安定になっていることが重要なのだ.慢性経過の心膜液貯留では,大量に貯留していても血行動態が安定していることがある.対して,急性経過の心膜液貯留では,少量でも血行動態が不安定となる(例:急性大動脈解離).

3 Beckの三徴・有用性

心タンポナーデの徴候としてBeckの三徴があげられることがある.低血圧・静脈圧の上昇・心音の減弱がBeckの三徴である.しかしながら,ある後ろ向きコホート研究1)(153例の心膜液貯留患者を対象)では,「三徴すべてそろった例」は0例であり,三徴の感度は0%(95%CI:0~19.4%)と報告された.Beckの三徴の有用性は低いかもしれない.

3. 穿刺前の準備

1 必要物品

必要物品としては以下のものがある(図1,2)

  • 手袋,マスク
  • 滅菌ドレープ
  • 消毒薬
  • 局所麻酔薬
  • 穿刺針(18 G スパイナル針など),シリンジ(10〜50 mL)
  • ガイドワイヤー,ドレナージ用カテーテル(ピッグテールなど),三方活栓
  • 固定用ドレッシング材
  • エコー,超音波プローブとプローブカバー
  • 蘇生セット・気管挿管など緊急時対応可能な準備,心電図モニター
図1 必要物品
すぐに物品が準備できるよう心膜穿刺キット(※図では心嚢穿刺キットと記載)を準備しておくとよい

 

図2 心膜穿刺キットの例
飯塚病院ではあらかじめキット化されているペリカーディオセンテシスキット(Merit Medical社製品)を使用している

 

2 超音波ガイド下のアプローチ選択(剣状突起下・傍胸骨・心尖部)

心膜穿刺のアプローチとして①剣状突起下(ラリーズポイント),②傍胸骨,③心尖部があげられる.アプローチは“最も安全に穿刺できる可能性が高い”アプローチを選択する(表1).各穿刺部位で超音波を当てて,心膜液までの経路に他臓器が被っていないか,心膜液の厚さ(穿刺の安全マージン),患者の呼吸性変動による変化,を観察して決定する.

超音波が使用できない場面ではラリーズポイントからの穿刺を考慮する.ラリーズポイントとは剣状突起の左側と左肋骨弓の交点である.この部位からの穿刺のメリットとしては肺や胸膜を避けやすく,心膜腔までの距離が比較的短いことがあげられる.この部位を穿刺点として,左肩方向に体表面から30〜45°の角度で穿刺する.デメリットとしては肝臓・冠動脈・心筋の損傷リスクがあることがあげられる.心膜穿刺は原則エコー使用のため,エコーが使えない場面での穿刺に限って選択される.

 

表1 心膜穿刺:穿刺点別メリット・デメリット比較表

穿刺点 主な刺入部位 メリット デメリット 向いている状況
Subxiphoid(ラリーズポイント) 剣状突起下・左肋弓内側
  • 肺損傷リスクが低い
  • ランドマークが明確
  • 仰臥位で可能
  • 緊急時に有用
  • 肝損傷リスク
  • 心膜まで距離が長い
  • 肥満患者では困難
  • エコーが使えない緊急時
  • 大量心膜液がある場合
Parasternal(左胸骨縁) 左胸骨縁 第4~6肋間
  • 心膜まで最短距離
  • エコー描出良好
  • 少量心膜液でも可能
  • 内胸動脈損傷リスク
  • 気胸の可能性
  • 解剖理解が必要
  • エコーガイド下穿刺
  • 前方に局在した貯留
Apical(心尖部) 左第5~7肋間 心尖拍動点
  • 心膜液が最も厚い部位を狙える
  • 成功率が高い
  • 心筋穿刺リスク
  • 気胸リスク
  • 体位や個人差の影響
  • エコーで心尖部に大量貯留が確認できる場合

 

3 体位

患者の体位としては教科書的には頭部をやや挙上することが記載されていることがあるが,救急外来でのショック状態の患者の頭部を挙上(約30°)することが困難なことも容易に予想される.仰臥位での穿刺が行われやすいと考える.

4 鎮痛鎮静

鎮痛に関しては局所麻酔薬を使用する.患者が不穏状態であれば鎮静薬の使用も考慮せざるを得ないが,ショック状態の患者に鎮静薬を投与するときは慎重な薬剤選択が必要となる.詳細は第1章-2,表5の鎮痛薬の欄の使い分けを参照されたい.

4. 手順(陰圧吸引,ガイドワイヤー併用留置を含む)

可能であれば,経験豊富な循環器・胸部外科医またはインターベンション医師のもとで実施するのが望ましい.

①超音波で最も貯留液の量が多く,アクセスしやすいアプローチを確認し,観察しているときの超音波プローブの方向を意識して刺入部位と軌道を決定する

②刺入部位を決定したら消毒し,滅菌ドレープをかける

③刺入部位の皮膚と皮下に局所麻酔を行う

④18 G程度の穿刺針をシリンジに接続し,三方活栓などを準備.針先を心膜腔に向けて進め,陰圧をかけながらゆっくり挿入する.液が吸引できれば,シリンジを外しガイドワイヤーを通してピッグテールカテーテルを留置し,ドレナージ・継続排液する.排液は急激に行わず,最初は50〜100 mL程度とする

⑤ドレナージ後は,血行動態モニタリング,出血や感染,心機能の変化,ドレナージ量・性状の観察を行う

5. 注意点,合併症の予防と対処

穿刺に関連する合併症としては冠動脈・心筋穿刺,気胸・血胸,肝損傷があり,予防として穿刺前の超音波検査で安全に穿刺できる部位を選ぶことが重要である.

ガイドワイヤー挿入中に致死性不整脈が生じた場合はすぐにワイヤーを引き抜き,生じた不整脈に応じて電気的除細動を考慮する.

6. 心膜開窓術への移行基準

大動脈解離に伴う心膜液貯留,外傷性心膜液貯留に代表される血性心膜液では,ドレナージチューブが血液で詰まり,持続的な吸引が不可能となることがある.その場合は心膜開窓術への移行が必要となる.

7. 手順チェックリスト

手順 注意点・ポイント
ショックの患者に超音波を当てる  
心膜液貯留を確認する  
心タンポナーデによる閉塞性ショックと判断し,循環器内科 or 救急科へ連絡する 怪しければ循環器内科 or 救急科を呼ぶ
大動脈解離検索目的に造影CTを考慮する  
必要物品(蘇生物品含む)を準備,可能であれば説明と同意を得る  
超音波を再度当てて,穿刺マージンが厚く,他臓器が穿刺ルートに被らない部位を検索し,最も安全と思われる部位にマーキングし,プローブの方向も覚えておく 実際に穿刺するときの体位で検索とマーキングを行う
消毒して,清潔操作を開始する  
穿刺部位の皮膚・皮下に局所麻酔を実施する  
シリンジを付けた穿刺針を処置前に確認した部位・方向で穿刺する  
陰圧をかけながら先進し,心膜液が引けたところでシリンジを外し,ガイドワイヤーを挿入する 穿刺針が深くなりすぎないように両手で操作する
⑪モニタリング機器に新規のアラームがないことを確認する 気胸ならSpO2低下,心損傷なら不整脈,多臓器損傷なら血圧など
⑫穿刺針を抜去して持続吸引用のカテーテルを留置する  
⑬カテーテルから心膜液が吸引できることを確認する  
⑭血行動態をモニタリングしながら排液する 初回の排液量は血行動態が改善すれば100 mL以下にとどめるのがベター

 

おわりに

心膜穿刺を行う機会は決して多くない.日ごろから適応・手順を確認しておき,必要な際に行えるようにしておくとよい.シミュレーター(図3)があれば実際に物品確認・手順確認を行っておくことをおすすめする.

図3 心膜穿刺シミュレーターでの穿刺
飯塚病院 ラーニングセンターのシミュレーターを使用

 

引用文献

1) Stolz L, et al:Clinical and historical features of emergency department patients with pericardial effusions. World J Emerg Med, 8:29-33, 2017(PMID:28123617)

 

参考文献

1) Adler Y, et al:2015 ESC Guidelines for the diagnosis and management of pericardial diseases:The Task Force for the Diagnosis and Management of Pericardial Diseases of the European Society of Cardiology(ESC)Endorsed by:The European Association for Cardio-Thoracic Surgery(EACTS). Eur Heart J, 36:2921-2964, 2015(PMID:26320112)

 

プロフィール

柿原光貴(Koki Kakihara)

九州大学病院 救急科

救急科専門医をめざして日々研鑽を積んでいます.皆様の救急外来での手技の一助になりますと幸いです.救急外来は忙しく,大変なときもありますが,一番成長を実感できる場の一つと思いますので,研修頑張ってください.応援しています.

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