第2章 各電解質異常の診断と治療
【ナトリウムと水代謝異常】
3. 体液量に基づく高ナトリウム血症の分類と急性期の対応
Point
・高ナトリウム血症はナトリウム過剰そのものではなく,体液量とのバランス異常として理解することが重要である
・高ナトリウム血症の評価と対応は,緊急性評価と体液量分類を起点に行う
・補正が想定通りに進まない場合は,投与中のナトリウムやカリウム,水収支,尿所見やバイタルを再評価する
はじめに
高ナトリウム血症の診療では,まず緊急性の評価に加えて体液量の状態を正確に把握することが重要である.高ナトリウム血症は体液量の状態により細胞外液量減少型(Hypovolemic),細胞外液量正常型(Euvolemic),細胞外液量増加型(Hypervolemic)に分類され(図1)1),治療方針はこの分類に基づいて決定される.本稿では,体液量評価を軸に,高ナトリウム血症の診断と治療の実際を整理する.
文献1を参考に作成
1. 緊急か否かの判断(図2の①側)2,3)
高ナトリウム血症を認めた場合,まず緊急性を評価する.判断の要点は,中枢神経症状の有無,呼吸・循環動態の安定性,次いで急性か慢性かである.意識障害や痙攣などの中枢神経症状を認める場合や挿管を要する状況は重症と判断し,迅速な対応が必要となる.循環不全を伴う場合には,ナトリウム補正に先立ち循環血漿量の是正を優先し,等張液の投与を行う4).
急性か慢性かの判別は補正速度の決定に直結する.一般に,発症から48時間以内に生じたものを急性高ナトリウム血症とし,48時間以上経過した場合や発症時期が不明な場合は慢性として扱う.
急性高ナトリウム血症では脳の浸透圧適応が十分に成立していないため,比較的迅速な補正が許容される.一方,慢性高ナトリウム血症における過度に急速な補正は脳浮腫を惹起する危険がある.補正速度は以下を目安とする1).
- 慢性(発症時期不明を含む)
0.5 mEq/L/時,または1日あたり10~12 mEq/L以下
- 急性あるいは重症例
初期に1~2 mEq/L/時で補正することが許容されるが,1日10~12 mEq/Lを超えない範囲で管理する
近年は重症例における補正速度と転帰との関連についても議論がなされている.補正速度に関する最近の報告やその解釈については,Advanced lectureで詳述する.
2. 基本の対応(図2の②側)2,3)
1 体液量評価
高ナトリウム血症の基本的対応において最も重要なのは,血清ナトリウム値そのものではなく,体液量評価を起点として病態を把握することである.高ナトリウム血症は体液量の状態により,細胞外液量減少型,細胞外液量正常型,細胞外液量増加型に分類される.これらの評価から治療選択に至る流れと,各病態に応じた基本的治療方針については,対応のフローチャートとして図2の②側に示す.
体液量の評価にあたっては,病歴聴取と身体診察を基本とし,必要に応じて超音波検査やCTなどの画像検査を組み合わせて総合的に判断する.病歴では飲水状況,体重の経過,発熱,下痢・嘔吐の有無,利尿薬や高張輸液の使用歴を確認する.身体診察では皮膚ツルゴール,口腔内乾燥,血圧,脈拍,起立性変化,浮腫の有無,尿量減少などが重要な手掛かりとなる(表1)4).
このように,体液量評価は単一の指標に依存せず,複数の情報を統合して行うことが重要である.なお,自由水欠乏量の算出や補正量・補正速度の具体的な計算手順については本稿では詳述せず,第4章-2の症例提示のなかで実際の計算過程として示す.
文献2,3を参考に作成
表1 体液量の評価
| 体液量の状態 | 身体所見 |
|---|---|
| Hypovolemic(細胞外液量減少型) | 起立性低血圧,乏尿,粘膜の乾燥,ツルゴール低下,口腔内乾燥,毛細血管再充満時間の延長 |
| Euvolemic(細胞外液量正常型) | 浮腫の欠如 |
| Hypervolemic(細胞外液量増加型) | 浮腫,頸静脈圧上昇,高血圧,息切れ |
2 補液
また,自由水補液として5%ブドウ糖液を用いる場合には,単なる水の補充ではなく代謝学的影響を伴う点に留意する必要がある.ブドウ糖の投与により高血糖をきたすと浸透圧利尿が増強し,自由水喪失が助長される可能性がある.さらに,低栄養状態ではリフィーディング症候群を惹起しうるほか,インスリン分泌亢進に伴う低カリウム血症にも注意を要する.投与速度は血清ナトリウム値のみで決定せず,血糖および電解質の変動を踏まえて調整すべきである.これらの具体的な検討方法については,第4章-2で実例を提示しているので参照されたい.
3. 各検査の解釈と意義・目的
高ナトリウム血症の病態把握において,尿浸透圧と尿中ナトリウム(mEq/L)は中核となる検査所見であり,体液量評価と組み合わせて解釈することで鑑別診断に有用である.特に尿浸透圧は,腎における水再吸収能を反映し,高ナトリウム血症の成因推定に重要な情報を与える.
尿浸透圧が300 mOsm/kg未満の場合,希釈尿であり水利尿が示唆され,尿崩症を中心に鑑別を進める.一方,尿浸透圧が800 mOsm/kgを超える場合には,腎での濃縮能は保たれていると判断され,腎外性の自由水喪失や不感蒸泄増加が考えられる.
尿浸透圧が300~800 mOsm/kgの範囲にある場合,部分的尿崩症ではこの範囲を示すこともあり5),単一の数値のみで診断を確定することはできない.身体所見,体液量評価,その他の検査所見を踏まえた総合的判断が必要である.
尿中ナトリウムが20 mEq/L未満であれば,循環血液量低下に対する腎でのナトリウム保持が示唆される.一方,尿中ナトリウムが高値の場合には,腎性ナトリウム喪失や医原性ナトリウム負荷,利尿薬の影響などを考慮する.
これらの尿所見におけるカットオフ値は,診断の目安として用いるべきであり,絶対的な基準ではない.輸液内容,利尿薬使用,浸透圧利尿,腎機能,急性・慢性の経過などにより尿所見は修飾されるため,単一の数値にもとづく判断は避け,体液量評価および臨床経過と統合して解釈することが重要である.
4. 鑑別疾患
鑑別診断は体液量評価を起点に,細胞外液量減少型・細胞外液量正常型・細胞外液量増加型に分類し,身体所見・検査所見・病歴などをもとに診断を進めていく.代表的な病態について図2のフローチャートに示した.近年ではSGLT2(sodium-glucose cotransporter 2:ナトリウム・グルコース共役輸送体2)阻害薬による高ナトリウム血症も報告があり,鑑別のうえで薬歴の聴取は特に重要である.後述のAdvaced lectureを参照されたい.
5. 補正がうまくいかないときの考え方
補正が期待通りに進まない場合,単に自由水の再計算・再調整をするだけに留めず,身体診察や検査データの再収集や再評価を行う.特に表2に示した項目は見落とされている場合もあるため注意が必要であり,状況に応じて柔軟に補正を見直すことが重要である.
表2 補正がうまくいかないときに考えること
| ・発熱や人工呼吸器による不感蒸泄の増加 |
| ・利尿薬や浸透圧利尿による尿量の増加 |
| ・尿中ナトリウムや尿中カリウムの濃度変化 |
| ・ナトリウムやカリウムの投与 |
| ・尿以外の体液の排泄 |
6. 専門医がいないときの対応
専門医不在時であっても,本稿で示した評価手順と補正速度を遵守すれば安全な管理は可能である.特に急性期では2〜4時間ごとに血清ナトリウム,ほかの電解質,尿量,バイタルを定期的にモニタリングすることが重要である4).早期に高次医療機関への相談・転送を検討するケースとしては,呼吸・循環動態が不安定でICUでの管理を要する状態,血清ナトリウムの補正が困難,ほかの電解質異常や内分泌代謝異常の管理が困難,痙攣や意識障害が改善しない場合などである.
Advanced Lecture
■ 補正速度について
Yunらのレビューでは,慢性または発症時期不明の高ナトリウム血症では0.5 mEq/L/時未満,1日あたり6〜11 mEq/Lの低下を目標とすることが推奨されている3).一方,急性発症の場合には,最初の6〜8時間は1〜2 mEq/L/時で補正し,24時間以内に血清ナトリウム値145 mEq/Lまでの是正をめざすとされている.
一方で近年,補正速度と予後の関連を再検討するデータが蓄積されている.重症高ナトリウム血症患者を対象とした大規模コホート研究では,速い補正(>0.5 mEq/L/時)は30日死亡率の低下および在院日数の短縮と関連し,重大な神経学的合併症の増加は認められなかったとの報告がある6).また,2025年のシステマティックレビューでは,入院時の高ナトリウム血症例や初期24時間のすみやかな補正,重症高ナトリウム血症では速い補正が死亡率低下と関連する可能性が示唆されている7).ただし,これらの知見は観察研究を統合したものであり,個々症例への適用には慎重な解釈が求められる.
■ SGLT2阻害薬による高ナトリウム血症
近年,SGLT2阻害薬によって高ナトリウム血症を呈した症例が報告されており,浸透圧利尿の増強や水分摂取不足が関与する可能性が指摘されている8).SGLT2阻害薬は糖尿病,心不全,慢性腎臓病などに広く用いられていることから,特に高齢者や水分摂取が十分に確保できない患者では,高ナトリウム血症のリスクに留意する必要がある.
おわりに
高ナトリウム血症の診療では,血清ナトリウム値の絶対値にとらわれるのではなく,緊急性の評価,急性・慢性の判別,体液量評価を軸とした病態把握が重要である.治療の本質は,自由水を適正な速度で補充しながら原因を是正することであり,補正が想定通りに進まない場合には水収支を動的に捉えて補正方針を見直すことが重要である.図2に示したフローチャートは診療の理解を整理する枠組みとして有用であるが,実臨床では病態が重なり合う場合も多く,必ずしも1つの分類に完全に当てはまらないことにも留意すべきである.
引用文献
1) 「National Kidney Foundation Primer on Kidney Diseases 7th Edition」(Gilbert SJ, Weiner DE, et al), pp77-85, Elsevier, 2017
2) Braun MM, et al:Diagnosis and management of sodium disorders:hyponatremia and hypernatremia. Am Fam Physician, 91:299-307, 2015(PMID:25822386)
3) Yun G, et al:Evaluation and management of hypernatremia in adults:clinical perspectives. Korean J Intern Med, 38:290-302, 2023(PMID:36578134)
4) Mittal R, et al:Comprehensive Overview of Hypernatremia:Pathophysiology, Diagnosis, and Management. Br J Hosp Med(Lond), 86:1-32, 2025(PMID:41443222)
5) Gubbi S, et al:Diagnostic Tests for Diabetes Insipidus.:NBK537591, 2000(PMID:30779536)
6) Feigin E, et al:Rate of Correction and All-Cause Mortality in Patients With Severe Hypernatremia. JAMA Netw Open, 6:e2335415, 2023(PMID:37768662)
7) Kitisin N, et al:Systematic review and meta-analysis of the treatment of hypernatremia in adult hospitalized patients:impact on mortality, morbidity, and treatment-related side effects. J Crit Care, 87:155012, 2025(PMID:39765195)
8) Sugiyama J, et al:Dapagliflozin induced hypernatremia via osmotic diuresis:a case report. CEN Case Rep, 13:9-13, 2024(PMID:37074627)
プロフィール
河田恭吾(Kyogo Kawada)
大同病院 腎臓内科・腎血液浄化科
ちいかわ・ポケモン・ガンダム・ドラゴンボール推し.都内の二郎系ラーメン行脚が生きがいで「えどもんど」と「マジックの道」がお気に入り.ギルティな一杯を健康的に啜り続ける術を模索中.
