電子復刻版 大いなる仮説

電子復刻版 大いなる仮説

  • 大野 乾/著
  • 2026年08月07日発行
  • A5判
  • 204ページ
  • ISBN 978-4-8970-6175-7
  • 2,420円(本体2,200円+税)
  • 在庫:なし
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序章

生命と宇宙

わが宇宙には約1011もの銀河系があり、それぞれの銀河系が平均して1011の星や天体よりなっているという。どちらも真に天文学的な数字で、概念としてピンと来ない。ところで、銀河系という言葉に矛盾を感じられる方があるだろう。わが地球、従ってわが太陽系が一隅に蟠居する特定の星雲群を銀河系と呼びながら、その隣の星雲群をもアンドロメダ銀河系という。厳密にいうと、わが星雲群は「銀河系銀河系」となってしまう。冗長に矛盾を感じるのは当然といえよう。この点、英語には一見矛盾がない。わが星雲群をMilkyway Galaxyというし、隣りの星雲群をAndromeda Galaxyというからである。ただし、galaxyの語源はどうであろうか。ギリシャ語のgalaまたはgalaktから由来しており、これはともにmilkを意味する。従ってMilky way Galaxyと言うことによって、実際はMilkyway Milkywayと言っているのである。日本語の「銀河系銀河系」と全く同じ冗長さである。

事実、われわれの銀河系以外にほかのgalaxyがあるだろうとは、一九二〇年代までは誰も考えていなかった。私の研究室の窓から見えるウイルソン山天文台の望遠鏡を駆使して、遠くに霞んで見える星雲の一つ一つが、実は別のgalaxyであり、それらが、光速に近い速度でわれわれの銀河系から遠のいていることを見つけたのは、E・P・ハブル(一八八九~一九五三)である。このようにして、「拡大し続ける宇宙」という概念が成立していった。

四散する数々の銀河系から逆算して、宇宙は一点より始まったのであろうと唱え、俗にいうビッグ・バング説の父となったのは、コペンハーゲンのG・ガモウである。彼は、分子生物学についても面白い説を出しているから、後にも登場する。

それでは、宇宙の将来はどうであろうか。天体として現在知られているものだけが宇宙の全質量であれば、宇宙は拡大し続け、水素の核融合で輝いている星の数々は次々と燃料の消耗で火が消えていくだろうから、暗黒の世となってしまうであろう。ただし、遠い彼方からわが地球に到達する光の曲がり方は、俗にいうブラック・マターという右記以外の質量の存在を示唆しているようである。そうすると、今まで拡張し続けた宇宙は、近い将来、四〇億年後くらいに大収縮を始めるであろう。原点に戻るのであるから、これはまさに仏教の「輪廻の世界」である。つまり宇宙は何回も誕生しては消滅し、同じことを繰り返してきたのである。

このように考えると、生命の誕生も宿命的に、何回も何回も繰り返して起こったのであろうと考えざるをえない。ビッグ・バングの直後に、四散する素粒子をストロング・フォース(strong force)がまとめて最初につくった元素は、必ず一番簡単な水素であろう。膨大な量の水素が重力によって濃縮されだすと、核融合反応が始まる。太陽のような小さな星では、この反応はヘリウムに変わるところで止まるが、もっと大きなスーパー・ノヴァ(超新星)の場合は、核融合はさらに進んで大爆発をする。例えば、一九八七年に爆発の情報が地球に到着したスンドセク・スーパー・ノヴァがある。この時点で、炭素、ケイ素、窒素、酸素が大量生産されるが、鉄そのほかの重金属もかなり生産される。中国の記録によると、スーパー・ノヴァは必ずもう一度爆発するはずである。この二回目の爆発で、原子量の大きい重金属がさらに生産されるであろう。

ここで大切なことは、宇宙には分子酸素は存在しえないということである。酸素ができるのは、大爆発という超高温のときである。従って、酸素はほかの元素の燃焼に使われてしまう。例えば、水素が燃焼すると水になる。事実、水は宇宙の中で一番豊富な分子である。先年地球を訪れたハレー彗星が、汚れた氷のかたまりにすぎなかったことを想起していただきたい。ともあれ、それぞれの銀河系の中心部は、このような激烈な核融合反応の起こりつつある激動のところである。

ところで、銀河系の辺境はどうであろうか。比較的少量な水素が重力によって濃縮されると、爆発の危険のない緩慢な核融合が始まる。われわれの太陽がそうである。そのまわりにスーパー・ノヴァの爆発で放出された炭素、ケイ素、重金属が濃縮された天体が軌道に乗ると、どうであろうか。太陽からの距離が適当であると、そこで生命が誕生するであろう。原始大気にあるメタンとアンモニアからアミノ酸が生まれ、青酸からプリン・ピリミジンという塩基が生まれ、メタノールそのほかから糖、メタンから脂肪酸も生まれる。そして塩基から核酸ができると生命が誕生するのである。植物が生まれ、光合成によって分子酸素を大気に放出するようになると、酸素を利用する活発な代謝系に恵まれた動物が誕生する。ひとたび動物が誕生すると、その中に言語を駆使できる種が生まれるであろうことは必然といってよいであろう。言語が生まれると、文明進化が可能となる。この文明進化は加速度的に進展し、その速度は分子進化の一〇〇万倍以上である。

以上のように考えると、人類の誕生は宇宙の必然であって、ダーウィンの進化論などは末端の議論で馬鹿らしくなってくる。悲しいかなわれわれは、過去の宇宙に存在した知識種を知る術がないし、また現在存在するほかの銀河系に蟠居する知識種との情報交換も不可能であろう。何十万光年という距離で隔てられていると、こちらの情報が向こうに届くころには、こちらが自らつくった環境汚染ですでに絶滅しているであろうし、その逆も本当であろう。

以上のような生命と宇宙という大きな視点から本書を読んでいただきたい。

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