第1回 生物界全体をグループに分ける 2.系統分類法の限界 [分子生物学講義Web中継~生物の多様性と進化の驚異]

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第1回 生物界全体をグループに分ける~

2.系統分類法の限界

系統分類の問題点

生き物が共通の先祖から進化し,多様化したものであるという仮定に立てば,似たものを集めて分類するのは意味があります.最近分かれた生き物同士では,たくさんの項目についてよく似ていて,共通性が高いはずだからです.ヒトとチンパンジーが近い関係にあることはわかりやすい.これに比べて,ヒトとミミズは相当遠い関係にあるだろうこともわかりやすい.しかし,ヒトとミミズの関係は,ヒトとサザエより遠いのか近いのか遠いのか,これは簡単にはわかりません.ヒトとミミズあるいはヒトとサザエの関係は,ミミズとサザエの関係よりずっと遠いような気がしますが,どう判断できるんだろうか.ヒトとゴキブリはどう,ゴキブリとクラゲはどう,など皆同様です.ヒトと大腸菌の近縁関係の推定など,どうしたらよいのか絶望的です.

5界分類と6界分類には,それぞれなりに理解も納得もできるところはあります.もっと細部の分類についてもそれなりのもっともらしさはあります.ただ,あるグループは主に形態上の類似性から,別のグループは発生過程の類似性から,というようにさまざまな性質に注目してグループをまとめている,といったことがみて取れます.脊椎動物としてまとめる際にはそれなりの統一基準でまとめられ,軟体動物としてまとめるにもそれなりの統一基準でまとめられているけれども,脊椎動物と軟体動物の間の系統関係を,同じ基準で論じることができません.

共通性のある定量的な物差し

近いか遠いかの関係を測る物差しを求めるとすれば,必要なことは,生物界に共通で,かつ定量性のあるものであることが必要十分条件です.定量的に距離が測れれば,地球生命は一元的なのか,という疑問に応えられる可能性もあります.生物間の距離を定量的に把握し,進化の過程に添った系統樹を作成するには,生物界全体に共通的でしかも定量的な判断基準が必要である.現在,それが可能になった.遺伝子の解析が,画期的な指標になったのです.

分子時計

2種類の生物が共通の先祖から分岐した時期が,化石などによってかなり正確に示されている場合,その生物間の塩基配列の違いを調べれば,塩基1つが変化するのにおよそ何百万年かかる,といった数値がわかります.塩基配列の変化速度は常に一定であると仮定すると,任意の生き物の間での塩基配列の違いから,共通先祖からお互いが別れた後の時間が推定でき,生き物同士の近いか遠いかの関係を定量的に描くことができるはずです.

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分子生物学講義中継 番外編 生物の多様性と進化の驚異

分子生物学講義中継 番外編生物の多様性と進化の驚異

井出利憲/著

定価 4,800円+税, 2010年8月発行

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プロフィール

井出先生 写真
井出 利憲(Toshinori Ide)
東京で生まれて35年間東京で過ごし,昭和53年から平成18年まで広島大学医学部(大学院医歯薬学総合研究科)に勤め,その後2年間を広島国際大学薬学部で過ごし,平成20年からは愛媛県立医療技術大学にいます.講義録をもとにして平成14年から『分子生物学講義中継』シリーズを刊行し,最初のPart1は現在11刷に,5冊目の一番新しいPart0上巻も4刷になっています.今,シリーズ最後(多分)の,私の一番書きたかったところを執筆中です.

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