分子生物学講義中継:分子生物学講義中継 Part1〜教科書だけじゃ足りない絶対必要な生物学的背景から最新の分子生物学まで楽しく学べる名物講義
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分子生物学講義中継

分子生物学講義中継 Part1

教科書だけじゃ足りない絶対必要な生物学的背景から最新の分子生物学まで楽しく学べる名物講義

  • 井出利憲/著
  • 2002年05月08日発行
  • B5判
  • 264ページ
  • ISBN 978-4-89706-280-8
  • 4,180(本体3,800円+税)
  • 在庫:あり

普通の分子生物学の教科書では学べない,医師・研究者に最も大切な生物学的背景から「生物学的ものの見方」も含めた最新の分子生物学までが講義の語り口で楽しくわかる!高校生物を学ばなかった人も含め,学生から教授まで幅広い読者に大好評.

目次

講義の前置き 生物学的分子生物学を学ぼう

1日目 系統分類から見た生物の世界

I.生物の分類とは

  • 身近なところから分ける
  • 分類の考え方
  • 分類上の決まりごと

II.大きな分類項目から追っていこう−原核生物と真核生物

  • 原核生物
  • 真核生物
  • 真核生物の4つの界

III.原生生物と多細胞化

  • 原生生物とは
  • 多細胞化のはじまり

IV.多細胞生物のはじまり

  • 海綿動物
  • 多細胞個体の成立に必要な新しい機能と遺伝子の獲得
  • 原始的三胚葉からなる動物のはじまり
  • ここまでのまとめ

V.ようやく身近な動物の世界へ

  • 前口動物と後口動物
  • 前口動物のなかま
  • 後口動物のなかま
  • 他にもたくさんの門がある

2日目 DNAの系統から見た生物の世界

I.地質時代区分のいろは

  • より細かい時代区分である紀
  • ほとんどの『門』が出そろったカンブリア紀
  • ここまでのまとめ

II.いよいよ,遺伝子からみた生物系統の世界へ

  • 生物界に共通の性質から系統を探る
  • ミトコンドリア,葉緑体の起源と共生

III.原核生物と真核生物の生存戦略

  • 生存戦略の違いとは
  • 新しい機能の獲得

IV.いろいろな系統の遺伝子解析

  • DNAによるヒトの系統
  • もっとさまざまな系統が遺伝子解析でわかる
  • 系統樹の見方
  • 地球誕生から前カンブリア紀まで

V.生物とは何か

3日目 DNAと核の基本的な構造と意味

I.真核生物DNAのサイズと量

  • DNAについておさらいしよう
  • DNAのサイズと量
  • DNA量の意味
  • 遺伝子の数とタンパク質の種類

II.真核生物にはどんなDNAがあるか

  • イントロンと発現調節領域
  • 反復配列
  • 役割のわからないDNA
  • DNAの3要素

III.核の特徴

  • クロマチン

IV.細胞周期と染色体

4日目 複製転写翻訳のメカニズム

I.複製

  • 原核生物と共通のところ
  • 原核生物と違うところ
  • 複製の調節

II.転写

  • RNAの合成系
  • RNAのプロセシング

III.翻訳

  • タンパク質合成系
  • 翻訳後のタンパク質の運命

5日目 生き物を制御する遺伝子発現調節

  • 遺伝子発現の調節
  • 発現を調節される遺伝子はどんなものがある?
  • DNA構造の変化による調節
  • クロマチン構造による調節
  • 調節タンパク質による調節
  • 転写後調節
  • 転写調節の実験系

6日目 多様性を支える有性生殖

  • 哺乳類の有性生殖
  • 哺乳類以外の生殖
  • 動物の無性生殖
  • 2倍体、核相交代 そして有性生殖の意味
  • あらためて性というもの

7日目 表現型から遺伝子を解析する

I.遺伝学のいろは

  • 遺伝子の解析
  • 遺伝子の地図といろいろな解析法

II.体細胞遺伝学

  • 細胞の培養ができる
  • 変異株を取ることができる
  • 細胞融合法
  • DNA導入による遺伝子解析
  • 遺伝子導入細胞の選択・クローニング
  • 遺伝子をクローニングする
  • ヒトの遺伝子地図:マッピング

III.ゲノムプロジェクト

  • 塩基配列の決定
  • ゲノムプロジェクトがもたらすもの
  • 医学への応用

8日目 遺伝子から個体の表現型を解析する

I.遺伝子がわかれば表現型が理解できるか

II.細胞から個体表現型へ

III. 網羅的なアプローチ

書評・感想

わからないことが何かを知りたいという井出オロギー

御本人が前置きで、「教科書の背景や行間を埋めたいんです」とおっしゃっているからといってウラ本ではありません。語り口がとても読み手に馴染みやすい口語体だからといってサイエンス読み物でもありません。実によくできた純正の生物学的分子生物学の教科書です。

退屈であるはずの分類学についての第1日目の講義からして飽きさせず(講義では大切ですよね)、トレンディーなトランスクリプトームやプロテオームの話題まで含めた最終日の第8日目の講義まで落語を聞いているような気分で読み通せます。細胞核だって、細胞周期だって、セントラルドグマだって、遺伝学だって、入っています。語られている内容が真に科学的でありながら、まくら(基本)から落ちまでの間には最新のポイントがふんだんに盛り込まれているんですよね。

噺のおもしろさは、筋だけではなくて語り手の個性を含めた能力にもよると思います。本人が知って感動した(すいません、今も感動しているはずです)ことを丁寧に人に伝えようとされているのではないでしょうか。知ることに感激できる著者の感受性が、噺にアクセントをつけ、聞き手には理解しやすいという長所を生んでいるようです。

99ページや162ページの講義中の余談にあるように「わかってないことがたくさんあって、少しはわかることもある」という一言が一番語りたかったのだろうと感じました。「医師、研究者、学生、院生の必須単位」という多分井出氏が考えたと思われる宣伝文句には、どこか反骨の著者の内心の「教官と呼ばれる人たちにもどうぞ」の思いがあるのでしょうか。

(評者も影響を受けて、読み終えて書いたこの書評の文体はちょっと井出風になってしまいました。すいません^^;)

書評執筆:永田恭介(筑波大学基礎医学系感染生物学)

この教科書を読む皆さんへ

教科書はもちろん知識を得るための手段です.でも得る知識は,たとえ同じ教科書であっても人により,また読み方によりさまざまです.分子生物学の知識は,この本を丹念に読めば得られます.でもそれ以外の知識もこの本から得られますので,これについて少し紹介しましょう.道草話として聞いてください.

すべての人の行為は,縦糸と横糸といえる関係で綴られていると言えます.個々の行為を横糸とすれば,その数々をつないだ人生の縦糸はそれぞれの人の想いであり,意思でありましょう.勉強や研究でも同様です.横糸の知識の量と質は大切ですが,これを綴る想いの縦糸は負けず劣らず大切です.井出先生の教科書は,ともすれば横糸ばかりになりがちの分子生物学の知識を強力な縦糸で綴って見せてくれると言えるでしょう.そしてこの縦糸が面白いのです.それは井出先生のまるごとの生き物に対する強い興味と深い洞察なのです.だからこの本では「なぜ」がやたらと多い.東京のご出身と聞きますが,ご幼少のみぎりの井出先生はあのメガロポリスにあっても蝉やトンボを追っかけていたに違いない.縦糸になる生き物まるごとへの思いが強いからこそ,膨大で多様な知識を網羅してこの教科書を一人でまとめられました.昨今の分子生物学の教科書のすべてが複数の著者で書かれていることからすると,ほんと,信じられないですよね.

井出先生の生き物まるごとに対する興味の背後には,人間に対する興味が見え隠れします.だから随所にヨタ話があります.それにしてもよくも掲載したものだと思わせるきわどいのもありますよね.でもこれらのすべてに井出先生の人間に対する興味と洞察が見えるので,まあ少々の品の悪さは仕方ないですよね.というわけで,井出先生の縦糸は人間まるごとの縦糸でもあります.

今日の分子生物学につながる生物学にはもちろん長い歴史があります.言わずもがなですが,生物学は19世紀にずいぶんと新しい展開があり,20世紀後半になって加速度的に発展しました.この急速な展開には,要素還元主義的手法が大いに力があり,これは今も同じです.でもこの手法の限界も議論されています.例を挙げましょう.演算機能では人間の何億倍・何兆倍の機能を持ち要素還元主義の権化とも言える専用のスーパーコンピューターでもチェスの天才カスパロフに完勝することができません.コンピューターはそれを生み出したわれわれの思考という限界を持っているからです.でも生身の人間は時としてこの限界を突破します.ましてやまるごとの生き物は突破だらけです.19世紀から20世紀前半の生物学は,学問が成熟していなかったこともあって,まるごとの生物学でした.しかもこれはほかの学問領域とも密接に関係を持っておりました.さらに自然科学も超えて,文学や芸術そして宗教とも関係した展開をしておりました.生命科学は技術以上のもののみでなく,情動と知性の間を揺れ動く存在としての人間を考える上で重要な手がかりを与えてくれます.そして今は人間の限界と可能性を深く考えることがこれまで以上に大切な時代になっております.というわけで,井出先生の教科書に見え隠れする人間への洞察,そして「ものの見方」についても十分心して読んでほしい.

最後に細かいことですが,この教科書で面白く語られているいろいろなお話のいささかチャランポランさの背後には,繊細な心使いがこめられてある点も知って下さい.教科書は本来知識を得るためなので,知識を体系化することにより効率よい伝達を図ります.教科書ではありませんが,大学院生など研究の現場に近い人々を対象にする総説雑誌では,解明されている点を強調して書かれてあることが多いようです.体系化や解明された点の強調は,利点もありますが,その一方で読む方はすべてわかってしまっているような気になりかねず,これは困った落とし穴となります.井出先生はこの危険性を十分に心得ておられ,整理された知識に加えて現段階でまだわかっていない点についても繰り返し言及しておられます.この本にたくさんある「なぜ」は井出先生の「なぜ」でありますが,同時に皆さんの「なぜ」でもあります.

書評執筆:丹羽太貫(京都大学放射線生物研究センター教授)

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  • 【本書名】分子生物学講義中継:分子生物学講義中継 Part1〜教科書だけじゃ足りない絶対必要な生物学的背景から最新の分子生物学まで楽しく学べる名物講義
  • 【出版社名】羊土社

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