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記事収録書籍

レジデントノート2022年8月号 Vol.24 No.7

めまい診療 根拠をもって対応できる!

“何となく”を解消!救急でよく出合う疾患の診断ポイントと原因を意識した処置、フォロー・再発予防

坂本 壮/編

定価:2,200円(本体2,000円+税)

めまい診療

救急外来におけるめまいのアプローチ

坂本 壮

① 陥りがちなエラーを知り,自身の診療を振り返ろう!
② めまいの質ではなく“ATTEST”を意識して鑑別を進めよう!
③ “頭か耳か”だけでなく,前失神も忘れずに鑑別しよう!
④ “くすりもりすく”,薬は処方薬以外も根こそぎ確認しよう!

Case:救急外来で研修医が陥りがちなエラー

皆さん,救急外来でこのような症例に出会ったことがあるかと思います.それぞれの対応は適切でしょうか? 一緒に考えてみましょう.

症例1

54歳の女性が“めまい”を主訴に来院した.めまいの性状を確認すると回転性のめまいで,現在は落ち着いているという.回転性めまいなので末梢性めまいと判断し,現在は症状が改善していることから抗めまい薬を処方し帰宅としたが….

症例2

39歳の女性が“めまい”を主訴に来院した.来院当日の起床時から回転性のめまいを自覚し,自宅にあった以前にもらった抗めまい薬を内服したものの症状が改善せず,嘔気・嘔吐を認め,心配したご主人と一緒に独歩で外来を受診した.持続性のめまいで,1週間前に近医で胃腸炎と診断を受けていることから前庭神経炎と判断し,同日日中の耳鼻科受診を指示したが….

症例3

80歳の男性が“めまい”を主訴に来院した.起床時から頭を動かすとぐるぐるするような回転性めまいを自覚し,安静にしていれば落ち着くものの,その後も頭を動かすと症状が再燃するため,自宅で動くことができず心配した娘さんとともに外来を受診した.安静時には眼振も認めず,症状も落ち着いていたためBPPVと考えたが,高齢で高血圧,2型糖尿病の治療中であり,脳梗塞のリスクが高いと判断し,頭部CTを施行した.CTでは明らかな異常が認められず,頭部MRIも撮影しようと準備を進めたが….

みんな苦手な“めまい”

めまいは救急外来で出会う頻度の比較的高い症候です.良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)が多いものの,小脳梗塞など中枢性めまいを除外しなければという考えから,めまいを訴える患者さん,特に高齢者では頭部CTがオーダーされがちです.しかし頭部CTでは異常を認めず,その間に症状が改善したから末梢性めまいだろうとお茶を濁して帰宅,はたまた症状が持続しているから頭部MRIをオーダー…こんなことをしていないでしょうか.皆さん,大丈夫,私も昔はそんなことやっていたとかいなかったとか….

皆さんが悩む点,困る点は同じです.やるべきこと,確認すべきことはわかっているんですよね.しかし,実際の現場ではクリアカットにいかない.眼振やHINTS(Head Impulse–Nystagmus–Test of Skew)などの身体所見が重要なことはわかっているけれども,なかなか判断が難しい.そして,環境が整っていていつでもどこでも頭部CTが撮影できる,そのような状況で頭部CTを撮影しないのは,それはそれで勇気がいる,そんなところでしょう.

めまいをきたす各疾患の解説は各論にお任せして,ここでは急性のめまい症状を訴える患者さんに対してどのようにアプローチするのか,皆さんが現在奮闘している救急外来セッティングでまとめていきたいと思います.

めまい患者のエラー:陥るには理由がある

BPPVだと思ったら前庭神経炎だった,末梢性めまいだと思ったら小脳梗塞だった,持続性のめまいでHINTSが中枢パターンだったので脳梗塞を疑い精査したものの,最終診断はBPPVだった…,こんな経験があるのではないでしょうか.

また,“めまい”と訴えるものの,なんだかよくわからないこともありますよね.フラフラする,歩けない,動けない,そのような症状を同時に訴える方も少なくありません.めまいはnon-specific complaintsとしても代表的な症候であり,実はBPPVや前庭神経炎などの耳鼻科疾患,脳梗塞などの中枢性疾患,前失神を呈する出血や心血管疾患以外にも,感染症や電解質異常を認める患者さんの主訴としても有名です.

めまい患者の誤診理由として表1の5つが代表的です1).一つひとつみていきましょう.

表1 めまい患者を誤診する5つの理由
文献1より作成.

症状の質に過度に依存してしまう

皆さん一度は,めまいが末梢性か中枢性かの鑑別ポイントとして表2をみたことがあると思います.しかし,回転性だから末梢性,浮遊性だから中枢性とクリアカットにはいかないのが実情です.なぁんだ,この表忘れてよいのかというとそうではありません.一般的な事項として頭に入れつつ,症状の質よりも鑑別に有用なポイントを理解すればよいのです

表2 末梢性めまい vs 中枢性めまい これって有用?

めまいの性質に関しては,回転性か浮遊性かだけでなく,前失神の可能性は意識しましょう.立ちくらみのような症状であれば,耳か頭かではなく,心血管性失神,出血などに伴う起立性低血圧を鑑別する必要があります.

救急外来で遭遇するめまいの原因として最も多いのはBPPVです.よって,BPPVのめまいの一般的経過,訴えを理解することが大切です.頻度の高い疾患をズバッと診断することができれば,小脳梗塞などの中枢性疾患を過度に心配する必要はありませんからね.

症例1の最終診断は,小脳梗塞でした.回転性,浮遊性といっためまいの性質に依存しすぎることなく判断することが大切です.

時間や誘発因子の未活用・誤用

先ほど,BPPVが最も頻度が高いと述べました.それでは,BPPVの特徴はどのような点でしょうか.これを理解しなければいつまで経ってもめまい診療が得意にはなりません〔詳細は良性発作性頭位めまい症(BPPV)参照〕.

BPPVの最大の特徴,それはめまいの持続時間が非常に短いということです.“頭位”と名前がついているからといって,頭を動かしたときにめまいが起こったり症状がひどくなったりするのをBPPVの特徴と思っていると,なかなか他疾患と鑑別できません.前庭神経炎や脳梗塞もまた,頭位を変換すればめまいは増悪しますからね.

BPPVの特徴として,① 持続時間,② 潜時,③ 眼振,④ 反復性があげられますが,とにかく持続時間に注目することがポイントとなります.本人が楽な姿勢で安静にしていると1分程度でめまいは治まる,これが確認できればそのめまいはBPPVと考えてよいでしょう.

めまいの持続時間確認のポイント

ここで持続時間の確認のしかたについて1つポイントをお伝えしておきましょう.「めまいは続いていますか?」と漠然と聞いてしまうと,多くのBPPV患者さんは「はい,続いています」や「少し楽にはなりましたけど…」と返答することでしょう.BPPVの一般的な経過は,起床時に回転性のめまいを自覚,その後楽な姿勢で様子をみた後に,再度動こうと起き上がると症状が再燃,これをくり返し,嘔気・嘔吐も伴って救急要請ないし救急外来を独歩受診するというものです.症状が改善しないがゆえに来院するため,「症状は続いている」と訴えますが,よく確認すると,起き上がったり寝返りをうった際に生じためまいは楽な姿勢をとることですみやかに改善するものの,嘔気・嘔吐症状は残存しているということがほとんどです.つまり,「めまいは続いていますか?」ではなく,「1回1回のめまいは楽な姿勢をとることで比較的すぐに治まりますか?」,「動かなければ嘔気のみで,動くとめまいがはじまる,そんな感じですか?」とBPPVらしさを強調して確認する必要があるのです.このように問い,「はい,まさにそんな感じです」と返答が得られたら,BPPVらしさがグンと上がります.

症例2はBPPVでした.症状が持続しているという訴えがありましたが,1回1回のめまいの持続時間を確認すると1分以内でした.その後,Dix-Hallpike testで典型的な眼振を認めBPPVと診断し,耳石置換療法を行い症状は改善しました.

ちなみに,症例2は胃腸炎の既往歴がありましたが,感染徴候が前駆症状として認められるからといって前庭神経炎とは限りません.それよりも持続時間や眼振などの身体所見が重要であることを理解しておきましょう.

身体診察に精通していない

めまい診療において身体診察は欠かせません.しかし,めまい患者にルーティンとして行うわけではなく,鑑別すべき疾患をある程度絞り,具体化してから行う必要があります

例えば,HINTS〔前庭神経炎参照〕はどのようなめまいを訴える患者さんに行うべきでしょうか? 急性前庭症候群(acute vestibular syndrome:AVS),すなわち持続性のめまい患者に対して行うものであり,安静時にはめまいが消失するBPPV患者に行うべきものではありません.めまいが持続性か否か,前述した「1回1回のめまいの持続時間」に着目し判断してください.

眼振の観察には必ずFrenzel眼鏡を使用しましょう.指先などで視点を固定させると眼振は判断しづらいため,もしもFrenzel眼鏡がないようであれば白紙や無地の壁をなんとなく見てもらうように促し確認するとよいでしょう(救急外来にFrenzel眼鏡がなければ購入してもらいましょう).

眼振はAVSでは誘発せずとも認められますが,BPPVでは安静時には原則として認めません.BPPVを疑っている場合には,Dix-Hallpike testなどで耳石を動かして眼振を誘発し確認する必要があります〔良性発作性頭位めまい症(BPPV)参照〕.

前失神が疑われれば,痛みの有無,血圧の左右差,深部静脈血栓症の有無,腹部の拍動性腫瘤,駆出性雑音,吐下血・血便,性器出血の有無などは必ず確認しましょう.

年齢や血管危険因子などのリスクを過大評価

救急外来患者の多くは65歳以上の高齢者です.高齢者の多くが高血圧や糖尿病,脂質異常症といった脳梗塞のリスクを複数併せもっています.そのため,高齢者ではCTやMRIの画像検査の閾値を下げ対応したくなりますが,ここは注意が必要です(詳細は後述).

高齢者であっても,めまいの原因として最も多いのはBPPVですから,持続時間,眼振などの身体所見に着目し対応するようにしてください.症例3もBPPVでした.高齢者だから脳血管障害のリスクが…と言い出したら,全例画像検査が必要になってしまいますよね.自信をもってコモンな疾患を確定し,不要な検査は避けましょう.

また,高齢者は罹患疾患も多いことから,複数の薬を内服しているものです.“くすりもりすく”と常に意識し,処方薬以外も含め使用している薬は確認するようにしましょう薬剤性めまい参照〕.

頭部CT・MRIへの依存,評価の見誤り

救急外来へは発症早期のめまいの患者さんが来院することが多いですが,CTやMRIの感度には限界があります.頭部CTにおける発症24時間以内の後方循環系の脳梗塞の感度はたったの7〜16%2,3),MRIも発症24〜48時間以内では10〜20%程度は検出できないのです.出血であれば判断は比較的容易ですが,脳梗塞を疑っている場合には,MRIで例え高信号が認められなくても,MRAで特記すべき異常が認められなくても,安易に中枢性めまいを除外してはいけません4,5)

救急外来におけるめまいのアプローチ

前述したエラーの理由を踏まえ,現在めまい診療で推奨されているのがATTEST(表3)のゴロ合わせに注目したアプローチです.

表3 ATTEST─急性発症のめまいの注目ポイント─
※attest:証明する
文献6より作成.

A(associated symptoms)では,随伴症状に着目し,心血管性失神や出血性病変,さらには外傷に伴う症状などを検索し,考えられる疾患に対してアプローチしていきます.

例えば,症例2では必ず妊娠(妊娠悪阻)の可能性を考える必要がありますよね.妊娠が否定できなければ,超音波や尿検査は必要です.

TT(timing and triggers)では,持続時間,そして誘発因子に着目し鑑別を進めます.持続時間が1分以内で短い場合にはBPPVを,持続性のめまいであればAVSを考え対応しましょう.

ES(bedside examination signs)では,身体診察を行います.BPPVのうち後半規管型であればDix-Hallpike test,外側半規管型であればsupine head-roll test,前庭神経炎と中枢性めまいの鑑別のためにはHINTSや難聴の有無を加えたHINTS plusを確認します.

T(additional testing as needed)では,必要に応じて検査を行います.“高齢者だから頭部CT”ではなく,“持続性のめまいで,HINTSで中枢性が示唆されるため頭部CTやMRI”といった流れです.

ATTESTを意識したアプローチの流れをに示します.ここまで理解すればスッと頭に入ってくるでしょう.前庭性片頭痛や起立性低血圧などは他稿で取り上げているのでそちらで確認してください〔前庭性片頭痛起立性低血圧参照〕.

図 急性めまい患者のアプローチ
文献6より引用.

おわりに

目が回るほどの忙しさである救急外来では,漠然としたアプローチではなかなか診断がつきません.症候ごとにアプローチを確立させ,その根拠を理解して対応しましょう.めまいを訴える患者さんを前にして目が回らないようにご注意を!

引用文献

1) Kerber KA & Newman-Toker DE:Misdiagnosing Dizzy Patients: Common Pitfalls in Clinical Practice. Neurol Clin, 33:565-575, viii, 2015(PMID:26231272)

2) Chalela JA, et al:Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet, 369:293-298, 2007(PMID:17258669)

3) Choi JH, et al:Isolated vestibular syndrome in posterior circulation stroke: Frequency and involved structures. Neurol Clin Pract, 4:410-418, 2014(PMID:29443249)

4) Kattah JC, et al:HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted imaging. Stroke, 40:3504-3510, 2009(PMID:19762709)

5) Saber Tehrani AS, et al:Small strokes causing severe vertigo: frequency of false-negative MRIs and nonlacunar mechanisms. Neurology, 83:169-173, 2014(PMID:24920847)

6) Edlow JA, et al:A New Diagnostic Approach to the Adult Patient with Acute Dizziness. J Emerg Med, 54:469-483, 2018(PMID:29395695)

坂本 壮(So Sakamoto)
総合病院国保旭中央病院 救急救命科


【Dr.坂本’sコラム①】Frenzel眼鏡は何のため?

めまい診療において眼振の確認は非常に大切ですが,皆さんはFrenzel眼鏡を使用しているでしょうか? え,使用していないって,それはちょっとマズいですね.

そもそも,なぜFrenzel眼鏡を使用するのか理解していますか? 初期研修医に質問すると,「目を大きくして,眼振を見やすくする」,そんな答えがよく返ってきますが,それのみであれば虫眼鏡でもいいですよね.

眼振を確認する際に,人差し指を立て,「こっちを見てください」と左右に動かしている様子をよく目にします.典型的な眼振はこの方法でも確認できますが,左右の角度をつけすぎると眼振は健常者であっても認めます.また,指など1点を注視してしまうと眼振は抑制され確認しづらくなります.そこでFrenzel眼鏡の出番です.この眼鏡,ただの眼鏡ではありません.かけてみるとわかりますが,とてもじゃないけど装着したまま歩行するのは困難なほど,視界がぼけ,どこかを注視しようと思ってもできません.それがゆえに眼振が確認しやすくなるのです.

かけたことがない方はぜひかけてみてくださいね.装着したときの注意点は城倉先生の稿を確認してください〔良性発作性頭位めまい症(BPPV)参照〕.

(坂本 壮)

※本サービスに記載の診断法・治療法,ならびに著者プロフィール・所属機関等の情報は,レジデントノート2022年8月号の発行時点のものとなります.引用している診療ガイドライン等の改訂については,ガイドライン発行元学会等の最新情報を確認していただく必要があります.