実験医学 2008年7月号 Vol.26 No.11

創薬の新規ターゲットにつながる

メタボリックシンドロームの鍵因子

脂肪細胞の機能を制御する核内受容体・GPCRの新知見

  • 酒井寿郎/企画
  • 2008年06月20日発行
  • B5判
  • 127ページ
  • ISBN 978-4-7581-0037-3
  • 定価:1,980円(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》ヒトゲノムの解読とともに疾患の治療標的となる多くの鍵分子が発見されてきている.近年,配列以外のゲノム修飾・ヒストン修飾(エピゲノム)が細胞の発生分化,老化と癌化にかかわることも明らかとなった.メタボリックシンドロームにおいてもゲノム解析に加え,エピゲノム解析による新規の治療標的分子もマイニングされ,今後この分野の進展が期待される.膜表面からのシグナルである創薬の分野では大変重要なGタンパク質共役型受容体や核内受容体でも新たな知見がでてきている.また,近年糖代謝においてWntシグナルの重要性が認識されている.Wntシグナルもまた細胞表面の受容体LRPや7回膜貫通型受容体(Fz)を介して,核内へと入力され,ヒストン修飾などを介して転写を制御する.本特集では,メタボリックシンドローム克服に向けた,最新のトピックを紹介する.

インスリン抵抗性・アディポカイン産生・脂肪細胞の分化や肥大を左右する核内受容体・GPCRの新知見が相次いでいます.代謝調節における分子機序の解明から,低分子阻害剤を応用した臨床への応用まで.

目次

特集

創薬の新規ターゲットにつながる
メタボリックシンドロームの鍵因子
—脂肪細胞の機能を制御する核内受容体・GPCRの新知見
企画/酒井寿郎(東京大学先端科学技術研究センター)
概論—メタボリックシンドロームの重要因子と創薬開発の新知見【酒井寿郎】
ヒトゲノムの解読とともに疾患の治療標的となる多くの鍵分子が発見されてきている.近年,配列以外のゲノム修飾・ヒストン修飾(エピゲノム)が細胞の発生分化,老化と癌化にかかわることも明らかとなった.メタボリックシンドロームにおいてもゲノム解析に加え,エピゲノム解析による新規の治療標的分子も発掘され,今後この分野の進展が期待される.膜表面からのシグナルである創薬の分野では大変重要なGタンパク質共役型受容体や核内受容体でも新たな知見がでてきている.また,近年糖代謝においてWntシグナルの重要性が認識されている.Wntシグナルもまた細胞表面の受容体LRPや7回膜貫通型受容体(Fz)を介して,核内へと入力され,ヒストン修飾などを介して転写を制御する.本特集では,メタボリックシンドローム克服に向けた,最新のトピックを紹介する.
PPARγとWntシグナルを標的とした老化・生活習慣病病態解析【高田伊知郎/加藤茂明】
脂肪と骨のバランス維持は老化や2型糖尿病において重要な課題の1つである.核内受容体型転写因子であるPPARγは脂肪細胞分化や糖・脂質代謝制御を担う鍵因子の1つであるが,骨代謝における機能も近年報告されている.またPPARγ機能はチアゾリジン誘導体をはじめとする脂溶性リガンドに加え,細胞外分泌質タンパク質による制御も受けることが知られている.特に近年,骨代謝や2型糖尿病に重要な因子としてWntシグナルが見出され,両者の機能制御例が報告されている.そこで本稿ではこれらの成体における機能の最近の知見と,われわれが見出したWnt5aによるPPARγ機能制御について報告する.
脂肪細胞の肥大化とDok1【野口哲也/細岡哲也/春日雅人】
メタボリックシンドロームの基盤を成すインスリン抵抗性の主な誘因は,脂肪組織における遊離脂肪酸や悪玉アディポカインの過剰産生と,アディポネクチンの分泌低下である.このような脂肪組織の機能異常は,脂肪細胞の肥大化(サイズの増大)と密接にかかわっている.インスリン受容体基質の1つであるDok1はRas/ERKシグナル伝達経路の抑制因子として知られているが,エネルギー恒常性におけるその役割は不明であった.われわれは,マウスを用いた遺伝学的手法によって,このアダプター分子がPPARγのリン酸化修飾を通して高脂肪食が誘導する脂肪細胞の肥大化を仲介することを見出した.
胆汁酸によるメタボリックシンドロームに関与する甲状腺ホルモン代謝調節【渡辺光博】
脂質の消化吸収に重要な分子として知られていた胆汁酸が,細胞内で甲状腺ホルモンを活性化する脱ヨード化酵素遺伝子発現をコントロールしエネルギー代謝,糖代謝を亢進させる.本経路は血中T3には影響を及ぼさず,必要組織の細胞内のみでT3を増加させエネルギー消費を高めるため副作用の危険性が少ない.2008年,われわれの胆汁酸研究の応用として,胆汁酸吸着レジンは米国FDAより糖尿病治療薬としての適応追加の承認をえた.
核内受容体を標的としたメタボリックシンドロームの治療戦略【田中十志也】
食生活の欧米化や運動不足といった生活環境に呼応して,肥満,インスリン抵抗性,高脂血症および高血圧などが一個人に集積するメタボリックシンドロームを呈する患者が急増している.肥満を中心としたメタボリックシンドロームの発症基盤には転写因子を含む代謝調節系の異常が深く関与していることから,転写因子の活性を制御することによって,脂質・糖代謝を改善させる薬剤の開発が進められている.本稿では,脂肪細胞の分化や個体のエネルギー代謝の恒常性を司る転写因子PPARs(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)を中心に,核内受容体作動薬の糖・脂質代謝改善効果について紹介する.
脂肪酸の質の違いがもたらすインスリン抵抗性への影響【島野 仁】
脂肪酸合成転写因子SREBP-1の標的遺伝子として,パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸の鎖長を延長する酵素Elovl6をクローニングした.Elovl6 欠損マウスは高脂肪食負荷や遺伝性肥満マウスとの交配により野生型マウスと同様に肥満と脂肪肝を呈したが,野生型マウスのようなインスリン抵抗性を発症せず,生活習慣病になりにくいことが明らかになった.インスリン抵抗性や生活習慣病の改善には肥満の解消,すなわち脂質蓄積の減少が必須とされてきた.細胞内の脂質の「量的変化」のみならず,脂肪酸組成の変動という「質的変化」もエネルギーバランスに重要であり,その詳細なメカニズムの解明とコントロールが肥満の改善を必要としない生活習慣病の新しい治療になることが期待される.
細胞内グルココルチコイド活性化酵素を標的とするメタボリックシンドロームの治療展望【益崎裕章/石井崇子/泰江慎太郎/中尾一和】
組織特異的な細胞内グルココルチコイド活性化と代謝病との関連性が注目されている.細胞内グルココルチコイド活性化を担う酵素,11β-HSD1の発現や酵素活性は肥満の脂肪組織において組織特異的に上昇し,インスリン抵抗性指標を含む種々の代謝パラメーターとよく相関する.脂肪組織における11β-HSD1の発現はPPARγによって強力に抑制される.最近の研究から11β-HSD1の調節異常に伴う脂肪組織機能異常がストレス誘導性肥満の病態に関与することや肥満の脂肪組織で生じている炎症や酸化ストレスにも関与することがわかってきた.モデル動物に対する11β-HSD1阻害剤の投与は,重積する代謝異常の改善や動脈硬化プラークの退縮に有効であることから,メタボリックシンドローム創薬の新規ターゲットとして期待される.

トピックス

カレントトピックス
チェックポイントキナーゼChk1の新しい機能【島田 緑/中西 真】
繊毛におけるタンパク質輸送機構とRab GTPaseのつながり【大森義裕/古川貴久】
Fbxw7は造血幹細胞維持と白血病発症抑制に対する安全装置として重要である【松岡佐保子/尾池雄一/須田年生】
ロイコトリエンB4第二受容体(BLT2)の生体内リガンドは12-HHTである【奥野利明】
News & Hot Paper Digest
神経難病の進行の鍵を握るグリア細胞
核内レセプターによる転写活性化にはクロマチン間顆粒を介した染色体移動が必要であった
酵母の多剤耐性を司る転写制御機構
ブロックポリマーの自己組織化による薄膜形成の新技術
GSK社,寿命延長の鍵を握るSir2研究を行うSirtris社を買収

連載

クローズアップ実験法
最新イムノPCR法:MUSTag法を用いた極微量タンパク質の同時多項目測定【森實芳仁/石川雄一郎/Li Chen/内田和代/芝崎 太】
バイオの法律と倫理指針
第7回 個人情報と研究の自由【町野 朔】
疾患解明 Overview
マラリアの薬剤耐性とその克服【美田敏宏/北 潔】
私の発見体験記
生殖システムのDNAメチル化制御機構—窮すれば変ず,変ずれば通ず【秦 健一郎】
プロフェッショナル根性論
第7回 検索される自分:発信力【島岡 要】
ラボレポート留学編
ゲノムと言葉を探す旅—Albert Einstein College of Medicine【小田真由美】

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