ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術

ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術

  • Yellowlees Douglas,Maria B. Grant/著,布施雄士/翻訳
  • 2020年07月01日発行
  • A5判
  • 309ページ
  • ISBN 978-4-7581-0851-5
  • 定価:3,600円+税
  • 在庫:あり
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Chapter1 ライティング:成功に不可欠だが誰も学ぼうとしないスキル

はじめに

平日の勤務時間に加え,学生や教職員たちがキャンパスからすっかりいなくなった時間や週末にも仕事をしている,知識も経験も豊かな大勢の研究者たちが,あることを先送りにしては苦しみ,長年費やした時間を無駄にし,何百万ドルもの研究費を失うようなミスを犯している.一般的な北米の医学・生物学分野の研究者は,大学での教育に加え,レジデント(研修医)やフェロー(研究員),ポスドクとしておよそ15年もの月日をトレーニングに費やしている.しかしその間,昇進や基礎研究のラボの立ち上げ・維持に必要な,いわば「通貨」ともいえるような重要なスキルについて,しっかりとしたトレーニングを受けたことがあるのは,ほんの一握りの研究者だけなのである.その通貨とは,すなわち「ライティング」のことだ.

重要な仕事であるにもかかわらず,近頃ほとんどの研究者は,ライティングをチーム内でも経験の浅いメンバーに任せている.しかも,任された若手が,原稿を書き,投稿し,修正するという一連のプロセスに,他のメンバーよりも不慣れであるにもかかわらずだ.これはつまり,私たち研究者が,研究の中でもっとも難しく骨の折れる部分を,若手が拒めないのをいいことに,理不尽に押し付けているといえるだろう.おそらく,私たちが優れた文章の組み立て方や,論文の出版や研究費獲得までにどのような批判をくぐり抜けなければならないかを知っていれば,若手の指導に多くの時間を割いたり,ライティングを任せることも減るのではないだろうか.

端的に言うと,医学・生物学研究におけるライティングは,大変な仕事なのである.書くという行為には,高度な認知機能の統合を伴い,文章を書く時のさまざまなルールを巧みに操る必要があるからだ.そして,個々のジャーナルが設定する目的や対象範囲,慣例に合うように,自分の研究の形式を整える必要もある.また,初稿に取り掛かる段階から,気難しい査読者の研究意義を貶めるような主張を書いてしまうと,批判の嵐を浴びせられることも頭に置いておかなければならない.

この10年で医学・生物学分野の出版事情は劇的に変化し,「最良でもあり,最悪でもある」時代(訳注:ディケンズの小説『二都物語』の冒頭部分になぞらえた表現)になった.インドや中国に加え,発展途上国の研究者が大量の論文を投稿するようになり,医学・生物学系のジャーナルへの投稿数が激増したため,伝統あるジャーナルの掲載率(投稿数に対する受理数の比率)が低下することとなった.しかし,それを凌ぐ数のジャーナルが新たに誕生している.これらは必ずしも論文検索システムのゴールドスタンダードであるPubMedから利用できるとは限らないのだが,データベースを介して大勢の人が利用できるようになっている(ジャーナルを選ぶ際の注意点については,Chapter 4参照).また,ResearchGateやAcademia.eduといったウェブサイトが登場したことに加え,予備的な研究データの公開に関してもインゲルフィンガー・ルール(訳注:同一の研究成果を複数のジャーナルやメディアから発表することを禁じたルール.詳しくはChapter 7参照)が緩和されたため,以前よりもずっと多くの研究者に出版成果を届けられるようになった.新たな選択肢の登場によって,自分の研究を世間に認めてもらうための手段が増えたことは確かである.ただし,個々のジャーナルの目的や掲載分野に合うように論文の修正と再投稿を行うことや,研究費確保のためにPubMedから検索可能なジャーナルを選んでデータを公開することは,これまで通り続けていく必要がある.この点については,Chapter 4で触れることとする.

IMRaDを超えて

医学・生物学分野におけるライティングの指南書はいくつもあるが,それらの中で解説されているのは,構造化抄録についてや初心者向けの研究費申請書の書き方,はじめに(Introduction),方法(Methods),結果(Results),考察(Discussion)(合わせてIMRaDと呼ぶ)からなる論文のスタンダードな構成,といったものである.だがこれまで,ライティングを科学的なアプローチで解説したり,出版プロセスにおける心理面に着目したり,あるいはライティングをするうえでの戦略や戦術を教えてくれるような本はなかった.そこで私たちは,本書をこれまでの書籍とは一線を画すものにしたいと考え,効果的なライティングをするための理論や,査読者や同分野の研究者たちからの批判を予測・先回りするために知っておくべき人間の心理について紹介することにした.また私たちは,論文や申請書を提出する際の戦略や戦術について若手研究者があまりにも無知であるために,ポストや生産性,研究資金を失っていることに気づき,心を痛めてもいた.こうした経緯から本書は,科学的な手法による研究や実際のデータ,そして基礎・臨床研究のラボを順調に運営している研究者へのインタビューに基づいて執筆されている.

本書には,私たちが論文を何度もリジェクトされ,何時間もの非生産的な時間を過ごした末に学び取った,ライティングの戦略や戦術,原則を詰め込んである.なかでも第一に挙げたいのは,あらゆる論文投稿や研究費申請において,最終的な出版あるいは資金獲得に至るまでに,まず(1)非専門家による審査があり,それをクリアしてはじめて(2)その道の専門家による審査へと進むことができる,ということをイメージして臨むべきだという点である.例を挙げると,胃排出遅延におけるカハールの介在細胞の役割を理解している専門家たちの前に,まずはジャーナルの編集者や研究費提供機関のスタッフに対して,胃排出遅延(あるいは胃アトニーとも呼ばれる)の臨床における重要性や診断・治療の必要性を理解させなければならないのである.そして第二に,このような人たちからの批判は常に,ジャーナルやグラントプログラムの目的や対象分野に合った内容が投稿論文や申請書内に少しでも書かれているか,そしてカバーレター内に目的にかなう内容が明示されているか,といったことに向けられているという点である.第三に,論文や申請書を書こうとしている人は,必ずライティングの理論をマスターすべきという点だ.ライティングスキルは,職人芸というよりはむしろ理論的に説明できる技術だからだ.第四に,申請書に取り組もうとしている研究チームは,それぞれの研究費提供機関の狙いとその機関から過去に研究費を獲得したプロジェクトを調べ,どの部分にフォーカスして申請を行うべきか詳細な分析をすべきという点である.第五に,査読者のネットワークを築くことは,多くの人が思っているよりもずっと大切であるという点だ.他の書籍には,キャリアを応援してくれるようなよき助言者を見つけなさいと書いてあるかもしれないが,それでは物足りない.私たちが強調したいのは,研究費獲得や論文出版のために査読者を見つけておく必要性だ.オンラインジャーナルへの投稿や研究費申請に際して,ほとんどの場合に査読というプロセスが必須であり,その結果がリジェクトになるか好意的なものになるかは査読者が決めることであるし,研究を審査するのが知り合いである場合には,好意的な査読結果が返ってくる可能性が高いからである.

医学・生物学研究におけるライティングの多面的な要求に応えるには,組織行動論をはじめ言語学,心理学,修辞学,神経科学といった多様な研究分野について,多少の知識が必要となる.また,基礎研究,トランスレーショナル(橋渡し)研究,臨床研究のそれぞれを進めるうえで,どのようなことが必要とされているのかについても,大まかに把握しておくべきである.著者の一人であるマリア・グラントは,アラバマ大学バーミンガム校に(以前はフロリダ大学や,インディアナ大学パデュー大学インディアナポリス校にも)研究室を持ち,内科医,研究部長,さらには基礎研究者として35年以上医学に携わっており,驚異的な進歩を遂げている幹細胞治療技術を「ベンチ(実験台)からベッドサイドへ」届けることに情熱を燃やしている.グラントの研究室が取り組んでいるのは,チームワークを養い,未来の科学や医療に携わる人材をトレーニングし,最先端の治療法を改良・提供し続けることで,現在は限られた治療法しか選択できない患者の病気を治すことである.これまでに取り組んできた組織の修復や再生のための幹細胞研究によって,R01研究費(訳注:米国国立衛生研究所[NIH]が提供する研究費の1つ)を14回獲得し,出版した査読付き論文の数は200報を超えている.これとは対照的なキャリアを歩んできたもう一人の著者,イエローリーズ・ダグラスは,講師やコンサルタント,研究者として活動する中で,医学・生物学のほぼすべての分野に関するライティングを15年にわたって教えてきた.さまざまな論文や研究費申請に関して,実際に執筆をしたり,執筆の協力をしてきたほか,コンサルテーションも行い,グラクソ・スミスクライン,アストラゼネカ,アボット・ラボラトリーズ,アリーア(訳注:2017年にアボット・ラボラトリーズに買収されている),ヤンセン・バイオテックといったバイオテクノロジー関連企業の広告やPR,マーケティングにも携わってきた.さらに,社会学や英語のほか,マネージメントコミュニケーションや臨床・トランスレーショナル研究の分野でも大学のポストを経験してきている.つまり私たち著者は,研究のほかにも,この本を読んでいる多様な分野の研究者のためになるような教訓を学んできた2人なのである.

Chapter 2〜7には,研究者として成功するための方法や知識をたくさん詰め込んである.医学・生物学分野におけるライティングのさまざまな場面で使えるスキルや作業例に加え,プロが使うちょっとしたコツや,難しい状況に直面した時のためのアドバイス,そしてここぞという時に使える秘密兵器(たいていはソフトウェアやオンライン上のツールを駆使するのだが)を紹介する.締め切りに追われている研究者のために,各Chapterの終わりに重要なポイントをまとめるので,ぜひ覚えて使っていただきたい.

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