看護学生・若手看護師のための 急変させない患者観察テクニック〜小さな変化を見逃さない!できる看護師のみかた・考え方

看護学生・若手看護師のための 急変させない患者観察テクニック

小さな変化を見逃さない!できる看護師のみかた・考え方

  • 池上敬一/著
  • 2018年02月23日発行
  • B5判
  • 237ページ
  • ISBN 978-4-7581-0971-0
  • 定価:2,970円(本体2,700円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 事例で学ぶ「急変させない患者観察テクニック」

1.実際に患者さんを受けもって考える

まず頭を整えます

山田二郎さん

ここは◯◯市立総合病院(300床の急性期病院)の呼吸器内科病棟です。あなたは日勤の看護師で昨日の夜間救急外来から緊急入院となった山田二郎さんを受けもちます。

山田さんのところに行く前に、1まず頭を整えます(山田さんの情報から病状や訪室したときに観察することを確認する)。次に2患者のところに行って山田さんの全体の印象や療養環境を観察し整えます。そして3患者に接して初期評価を行います。

山田二郎さんを受けもつのははじめてです。まず山田さんの電子カルテ(または紙カルテ)を開き、安全で安心してもらえる看護を提供するために山田さんの基本的な情報を選択しながら頭に入れていきます。

A.山田二郎さんの情報

表1に山田さんの情報をまとめました(「患者カード」)。山田さんは60年間喫煙を続けたことが原因となり慢性閉塞性肺疾患※1になりました。やっと4年前に禁煙しましたが慢性閉塞性肺疾患がもとに戻ることはありません。慢性閉塞性肺疾患の症状は労作時の息切れですがその原因は肺での酸素の取り込み能力が低下していることにあります。そのせいで少し動いただけでも体が酸素不足になり、酸素を取り込もうと呼吸が速くなります。慢性閉塞性肺疾患では1回換気量が減少しているので呼吸数は増えても有効な換気量(L/分)が得られないため、酸素の取り込みがうまく行きません。

慢性閉塞性肺疾患で安静時の息切れが出現すると在宅酸素療法が導入されます。これをHOT(home oxygen therapy)といいます。山田さんの病状はすでにHOTが導入されていることから慢性閉塞性肺疾患が進行した状態だと考えてよいでしょう。

今回の入院になった原因は、慢性閉塞性肺疾患の患者によくある肺炎を合併したことによる低酸素血症の悪化です(HOTでいつもはSpO2は94%ですが、救急外来受診時には90%に低下していました)。今回の山田さんのエピソードのように、慢性に経過している疾患が急に悪くなる状態を慢性疾患の急性増悪と呼びます。慢性閉塞性肺疾患の患者が肺炎にかかり、普段の低酸素血症がさらに悪化し、症状が悪化することはよく経験することです。

Quiz① 山田さんの病状の見込み

山田さんの病状の見込みについてあなたはどのように考えますか? 同意する・保留する・反対するの3つから1つを選んでみてください。

1)肺炎による低酸素血症は軽いので抗生剤の投与ですぐによくなり退院できるだろう。
  1. Ⓐ同意する・Ⓑ保留する・Ⓒ反対する
  2. 理由:
2)慢性閉塞性肺疾患があるので肺炎の治療に時間がかかり入院はすこし長引くだろう。
  1. Ⓐ同意する・Ⓑ保留する・Ⓒ反対する
  2. 理由:
3)肺炎が持続すると低酸素血症が悪化し気管挿管や人工呼吸器が必要になるかもしれない。
  1. Ⓐ同意する・Ⓑ保留する・Ⓒ反対する
  2. 理由:
4)退院の見通しを考える以前に、山田さんの低酸素血症が急に悪化したり心停止になるかもしれない。
  1. Ⓐ同意する・Ⓑ保留する・Ⓒ反対する
  2. 理由:
Quiz①の解説

山田さんは82歳と高齢で慢性閉塞性肺疾患以外に高血圧と糖尿病の基礎疾患があります。高齢者では細菌に対する免疫反応が低下し感染症になると治りにくくひどくなりやすい傾向があります。さらに糖尿病があると感染症にかかりやすくなり、治りにくくなることから、山田さんの肺炎が抗生剤で簡単によくなり退院できるとは考えにくい状況です。逆に2)のように治療には時間がかかるかもしれないと考えるのが普通です。

3)や4)の意見についてはどうでしょうか? 肺炎が治らずに重症化すると急性呼吸障害の時期を経て急性呼吸不全や敗血症になることがあります。急性呼吸障害は呼吸困難が明らかで酸素投与をしないとSpO2が保てない状態をいいます(酸素なしではSpO2の値が低く、酸素投与でSpO2の値が改善する状態)。急性呼吸障害で酸素投与をしていてもSpO2が低下してくる場合があります。通常、酸素を増加しますがそれでもSpO2の値が改善しなくなる状態を急性呼吸不全といいます。急性呼吸不全では高度な気道確保(気管挿管など)による酸素投与と陽圧換気(人工呼吸管理)が必要になります。

山田さんの病状の見込みを考えるには、肺気腫、肺炎、肺炎の治療、急性呼吸障害、急性呼吸不全、気管挿管、人工呼吸管理といった知識が必要になります。問題の1)、2)、3)は知識があるかどうかと、その知識を山田さん(高齢で慢性閉塞性肺疾患と糖尿病がある)に応用し治療の見込みを考えることができるかを自己評価することを目的としています。

ところで山田さんはいまどのような状況に置かれているでしょうか。状況に関する情報をまとめてみましょう。

  1. a)数日前から発熱と息切れがひどくなり救急外来を受診し、診断は慢性閉塞性肺疾患の急性増悪(低酸素血症の悪化)でその原因は肺炎とされた。
  2. b)抗生剤による肺炎(原因)の治療により低酸素血症が改善することを期待し入院になった。
  3. c)抗生剤投与がはじまったが抗生剤が効果を発揮するかどうかは現時点では不明である。
  4. d)抗生剤が効いて(肺炎の起炎菌が投与する抗生剤によい感受性を示す場合)低酸素血症が順調に改善するという保証はない。
  5. e)山田さんは昨晩入院したばかりで、低酸素血症が今後ますます悪くなることも考えておかなければならない。
  6. f)退院の見込みを考える以前にプランBを考えると、肺炎による低酸素血症から急性呼吸障害になり、さらに急性呼吸不全から呼吸原性心停止に変化することを予測しておく必要がある。

Quiz①の4)は知識を問う1)、2)、3)の問題と異なり、「山田さん」を担当する看護師としての判断力を問うています。緊急入院翌日の山田さんにとって安全な判断は、4)のように考えプランBを組み立てることになります(プランBはQuiz③で組み立てます)。

B.診断・治療プランと指示簿

表2は医師が作成した診療計画を示します。また表3には医師の指示を示します。あなたは看護師として医師が作成した山田さんの診療計画と指示は論理的に正しいかどうかを検証します。診療の補助では医療行為や指示の内容について論理的な根拠を検証し、指示を行った場合は患者の反応を観察し変化を判断し変化に応じた適切な対応が必要になります。これらを前提に山田さんの診療計画と指示をチェックします。

※2
I-SBAR-C:患者の病状を報告するときは、まず状況(situation)を一言で伝え、次に状況に関連する背景(background)、病状のアセスメント(assessment)の主要な情報、そして病状への対応策の提案や要請(request)を行う。このフォーマットをSBARという。I-SBAR-Cという場合のIは報告者と患者を同定する(identify)、Cは医師から指示があった場合は指示を復唱し確認する(confirm)ことを意味している。

Quiz② 診断と治療の整合性

以下の判断で誤っているのはどれか。

  1. Ⓐ 診療計画の病名、入院診断名と治療計画の内容は論理的に正しい。
  2. Ⓑ 山田さんの発熱が続くとき敗血症への進展に注意して観察する必要がある。
  3. Ⓒ アレルギー歴はないので抗生剤の点滴でもアレルギー反応は起きない。
  4. Ⓓ 低酸素血症の悪化や敗血症を疑ったら臨時の観察と評価が必要になる。
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看護学生・若手看護師のための 急変させない患者観察テクニック

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