書 評
岡本華枝
(京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学部看護学科 准教授/日本医療教授システム学会 理事)
羊土社より発刊された『できる看護師の頭の中のぞいてみた』は、臨床で卓越した判断力と実践力を発揮する“できる看護師” の「心」と「頭」の構造を、認知科学・教育心理学・神経科学・教育工学・メタ認知理論といった最新のサイエンスを基盤に体系化した、意欲的かつ実践的な一冊です。
本書の最大の特長は、「物語思考」「思考リハーサル」「看護実践アプリ」といった独自の概念を通じて、従来は暗黙知として捉えられていた看護師の高度な実践知を、誰もが学び取れる“形式知”として提示している点にあります。単なる看護技術や疾患知識にとどまらず、「どう考え、どう判断し、どう動くか」といった看護実践能力の本質に迫り、読者自身の思考習慣を見直す機会を提供します。
なかでも、患者観察から異変の察知、「何か変?」と感じた瞬間の思考展開、そしてそこから導き出される代替案(プランB)といった臨床推論のプロセスを扱った章は、若手看護師や看護学生にとって非常に実践的かつ刺激的です。看護実践における意思決定の裏側を言語化し、“考える力”を育む手引きとして活用できます。
さらに本書は、演習やリフレクション、OSCE、シミュレーション教育における教材としての導入にも適しており、学生や新人看護師の主体的な学びを支えるとともに、学習支援者にも寄与する構成になっています。新人教育にも活用できる内容であり、看護実践能力と臨床推論力を段階的に育成する教育ツールとして高く評価されます。GOLD メソッド(ゴール達成型学習デザイン)に基づく教育設計の枠組みは、現場教育と基礎教育をつなぐ橋渡しとしても有用です。
本書は、「どんな仕事にも、“できる人”に育つ方法がある」という理念のもと、啓発的な知見と科学的根拠を融合させた“育ち方の科学”を体現しています。看護師のみならず、医師、臨床工学技士、理学療法士など、あらゆる医療専門職にも応用可能な普遍的フレームを持ち、臨床判断力の育成に取り組む教育現場に、強く推薦したい一冊です。
