第3章 基準読影法
1 基準読影法の概要
中原慶太
1馬場の画像病理診断の概念
基準読影法の設定の基盤として,馬場の“画像病理診断”11)という概念を導入しました.以下に,画像形態の存在から実体の立体組織構築と質を推定する読影プロセスを示します(図1).
まず,誰もが見えている画像上の胃粘膜表面形態の模様・凹凸像の存在を立体的にとらえます.次に,とらえた像を脳内で思考し解釈や分析を行った所見に基づいて,見えていない胃壁の断面を推定します.最終的に表面と断面を統合した全体的な判定を行い,胃の立体組織構築とその質を推定するまでが,基準読影法の作業工程となります.
このような読影・診断の正誤や理由の妥当性については,術後のマクロ,ミクロ,病理組織立体再構築図との比較・対比に立脚した検証を1例1例丹念に行うことが精度向上に不可欠です.
2異型度の概念
1)組織学的異型度の概念
中村の胃癌の構造によると,日常の病理組織学的な良性・悪性の判断は,究極的には“異型”をもってなされていると述べています.また,異型を正常組織からの形態的なかけ離れとし,異型には構造異型と細胞異型という2つの観察水準があり,それぞれ正常組織からどれくらいかけ離れているかを総合的に眺めて,“異型度”というものを判断しているとされています(図2).
A)構造異型
顕微鏡の弱拡大観察による組織の構造水準(腺管,間質)から眺めた異型の総称です.正常とかけ離れた組織所見には,腺管密度の増加,腺管の大小不同,腺管配列の乱れ,不規則形腺管の出現などがあり,これらの重み付けによってその程度が判断されます.
B)細胞異型
顕微鏡の強拡大観察による個々の細胞水準(核,細胞質)から眺めた異型の総称です.正常とかけ離れた組織所見には,核細胞質比の増加,核の大小不同,核配列の異常,核の極性の乱れ,重層化,核クロマチンの増加,核小体,核分裂像の出現などがあります.
臨床画像診断のゴールドスタンダードは組織所見です.病変の最終的な良性・悪性判定は組織学的異型度によってなされ,構造異型と細胞異型の点で正常からのかけ離れの程度が著明な場合,その質は腫瘍性・悪性・上皮性病変であり,胃癌と確定診断がなされます.
2)肉眼的異型度の概念
一方,馬場は中村の組織学的異型度の概念をもとに“肉眼的異型度”を画像形態診断における良性悪性判定の指標とすることを提唱しました.これは,胃粘膜表面の病変の肉眼形態が個々の組織・細胞の集まりによって形成されていること,両者は基本的に1対1の対応関係にあることに立脚したもので,画像病理診断の基盤となっています(図3).
3)組織形態と肉眼形態の空間的な違い
ここで,組織形態(ミクロ)と肉眼形態(マクロ)の空間的な差異を考えてみましょう.
組織形態は胃壁のある断面の平面的な視覚情報であることから空間的に2次元(2D)です.
これに対して,実体の切除標本上の肉眼形態は,胃粘膜の表面をさまざまな方向から眺めた立体的な視覚情報の3次元(3D)です(図4).このような次元の異なる組織形態と肉眼形態の両者が1体1で対応する共通部分が“胃粘膜表面”なのです.
実体の胃粘膜表面の肉眼形態を胃X線撮影や読影において総合的に表現するためには,空間的なXY軸の模様とZ軸の凹凸を基本としてとらえる必要があります.
4) 臨床と病理に共通する異型度の設定
また,対象の観察水準間における相違点を示します(図5).観察水準によって観察対象や観察部位,観察所見などがそれぞれ異なっていますが,異なる観察水準間で共通している点がいずれも視覚上の形態的な異型度を判断しているということです.
そこで,基準読影法ではこれらをすべて包括して以下のように定義し,臨床と病理に共通する概念の“異型度”を軸に,形態の存在から質を推定する流れとしました.
5) 異型の存在を認識するための視覚的条件
胃粘膜表面における異型の存在を認識するために必要な視覚的条件を考えてみましょう.
その条件とは特に限局型異型の場合,模様・凹凸の点で周囲との差異があることです(図6).
例えば,ある限局型異型Aでは視覚的に周囲との差異がないことから,その存在がほとんど認識できません.これに対し,異型Bや異型Cでは程度の差はありますが,視覚的に周囲との差異があることから限局型異型の存在を認識できます.
このような限局的な差異を認識する際の相対的な比較対象は“周囲”であり,周囲が基準の1つとなります.基準=周囲との視覚的な差異が明瞭であればあるほどその認識が容易になります.
ご覧ください
文献
- 11)「発見例100例にみる胃癌X線診断の究極」(馬場保昌,吉田諭史/編著),ベクトル・コア,2016
