TKA・UKA 人工膝関節置換術パーフェクト〜人工膝関節全置換術・人工膝関節単顆置換術の基本とコツ

TKA・UKA 人工膝関節置換術パーフェクト

人工膝関節全置換術・人工膝関節単顆置換術の基本とコツ

  • 松田秀一,岡崎 賢/編
  • 2021年05月25日発行
  • A4判
  • 335ページ
  • ISBN 978-4-7581-1897-2
  • 定価:15,400円(本体14,000円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 これからUKAを始めるために §2 手術手技の実際

2 内側UKA:fixed bearing型

松田秀一
(京都大学医学部 整形外科学)

  • UKAでは,ACL,PCLを温存して正常に近いkinematicsをめざす.
  • 大腿骨内側遠位および後顆部の骨切り厚,脛骨骨切りの後傾角度で靱帯の緊張度を調整する.靱帯実質や付着部の解離は行わない.
  • 脛骨を先に骨切りした後,脛骨の骨切り面を基準として大腿骨の遠位部と後方部の骨切り高位を決定する.

1.内側UKA:fixed bearing型~minimal bone resection technique~のコンセプト

内側型変形膝関節症(膝関節OA)に対するfixed bearing型のインプラントを用いたUKAを紹介する.矯正可能な変形の症例を選び,靱帯解離は行わずに骨切りで調整することがポイントである.

  • 術中の大きな変形矯正はできないので,術前のストレスX線を用いてどの程度の矯正可能かどうかを確認しておく.全下肢のストレスX線を撮影することにより,術後の全下肢アライメントが予測できる1)図1).
  • 脛骨を脛骨機能軸に垂直に骨切りを行う.脛骨の骨切りは4 mm程度に留める.このことで2 mm程度joint lineは上がるが,kinematics上は大きな問題はなく,脛骨を温存できるというメリットがある(図2).
  • 脛骨の後傾は,術前の後傾角度を基準にして設定する.
  • 大腿骨遠位および後顆部の骨切りは,脛骨骨切り後にできたギャップの大きさを指標にして決定する.通常は,後顆部の方が遠位部より摩耗が少ないため,後顆部の骨切りが厚めになる.
図1◆全下肢外反ストレス X 線(a) および術後全下肢X線(b) 図2◆UKA前後のjoint line

2.手技

皮切

皮切は内側よりのややカーブした皮切線を用いる.長さは膝蓋骨上端よりやや遠位から脛骨粗面よりやや近位が目安である.近位の皮切はあまり必要がないので,TKAに比べると遠位から切開を開始した方がよい.

深部の展開

関節包の切開
関節包の切開

関節包を内側で切開し,内側半月板の前角部を切離し,後方へ向けて展開する.関節包付着部の解離は骨棘切除ができる程度に留める.膝蓋下脂肪体は視野の妨げになる部分は切除する.ここで前十字靱帯(ACL)および膝蓋大腿関節の状態を確認する.

関節の展開
関節の展開

膝関節を屈曲させ,レトラクターなどをかけて膝蓋骨を外側にレトラクトし,大腿骨遠位部を露出する.展開が不十分な場合は内側広筋と大腿直筋の間を10 mm程度切開する.

脛骨骨切りガイド設置

冠状面アライメント

本術式は脛骨を先に骨切りし,脛骨の骨切り面に合わせて大腿骨の骨切りを行うため,脛骨骨切りを適切に行うことが本術式の成否を決めると言ってよい.髄外ガイドを用いて,アライメントおよび骨切り高位を慎重に決定して骨切りを進めていく.

冠状面アライメント

脛骨機能軸に垂直に骨切りすることを目標にする.外反に骨切りされるとコンポーネント沈み込みのリスクにもなるので避ける.UKAの場合は関節内のランドマークを参考にしにくいため,脛骨前縁も指標にする.脛骨骨幹部前縁の近位1/3と遠位1/3を結ぶ線は機能軸とほぼ平行であるため2),術前にマーキングをしておくと有用である.

写真は髄外ガイドを脛骨前面のマーキングに合わせている.
矢状面アライメント:脛骨後傾
矢状面アライメント:脛骨後傾

後傾が大きくなると,脛骨コンポーネント後方の沈み込みや,ACL断裂の危険性が高くなり,小さくなると伸展障害などの原因となるので,基本的には術前と同程度をめざす.術中の関節面も指標になるが,術前の側面X線で脛骨前縁と関節面のなす角度を計測しておくと,髄外ロッドの後傾角度の指標になる.

写真は骨切りの傾きをリセクションガイド()で調整している.
回旋アライメント
回旋アライメント

髄外ガイドの回旋方向は,矢状面骨切りの方向,そして脛骨コンポーネントの回旋設置方向になるため,適切に決定する必要がある.また,脛骨近位部の骨切りは後傾をつけて行うため,髄外ガイドの回旋方向は内外反アライメントにも影響を及ぼす.UKAでは大きく関節内を展開できないが,大腿骨顆間窩の内側壁のラインはAkagi lineにほぼ平行であり3),有用である.内側壁の方向に合わせて髄外ガイドを設置する.

回旋方向は大腿骨顆間窩の内側壁に合わせる.ガイドは1本のピンで固定する.
骨切り高位
骨切り高位

脛骨関節面の中央からの骨切りの厚みを参照にして,骨切り高位を決めてガイドを固定する.関節面がよく見えない場合は脛骨の前方引き出しをかけるとよい.膝関節OAの場合は4 mmの骨切除を基本としている(point参照).

脛骨のガイドの固定ピンを多く使用すると,脛骨骨折のリスクも上がるので,固定のピンは中央付近1本に留めた方がよい.
minimal bone resection technique joint lineをどこに合わせるかは重要なポイントである.UKA再置換で最も多い原因の1つは脛骨コンポーネントの沈み込みであることを鑑み,筆者らは脛骨を温存することを第一義的に考えて手術計画を立てている.したがって,joint lineを生まれもった高さに合わせずに,2 mm程度joint lineを上げることを指標に手術を行っている.コンピュータシミュレーションでは4 mm以内のjoint lineの変化はkineticsに大きな影響を与えないとされ4),2 mm程度joint lineをあげることは臨床上大きな問題ではなく,脛骨の骨切り量を減らし,骨質を維持するには合目的と思われる.
膝関節OAの場合を例にとると,大腿骨側の関節軟骨が消失していれば,大腿骨遠位端の骨表面からインプラントと同じ厚み(6 mm)骨切りを行うと,生来のjoint lineから大腿骨の軟骨消失分(約2 mm)joint lineが上がることになる(図2).2 mm joint lineが上がるということは,脛骨側の骨切り量はコンポーネントの厚みより2 mm,軟骨がすでに消失しているとその分(約2 mm)さらに少なくて済み,合わせて4 mm少ない骨切りを行うことで,生来もっている関節安定性が得られることになる.脛骨コンポーネントが8 mmの予定であれば8−4=4 mmの骨切除となる.したがって,関節軟骨が消失している膝関節OAの場合は4 mmの骨切りを基準として,軟骨が残っていれば,その分厚く骨切りを行う計画とする.

脛骨骨切り

矢状面骨切り
矢状面骨切り

まず,レシプロケーターを髄外ガイドの回旋方向に合わせ,大腿骨顆間窩の内側壁に沿わせるようにして矢状面の骨切りを行う.レシプロケーターが後方に入りすぎないように,インプラントサイズに合わせてマーキングをつけておくのも有用である.

筆者らは大腿骨顆間窩の内側壁に合わせて骨切りを行っている.この骨切り位置を膝屈曲位のMRIで検討したところ,すべての症例(45例)においてACL,PCLの付着部に切り込むことはなく,脛骨骨切り面の内外側幅と前後幅の比も55.2%と,市販のインプラントの比に近いもので,内外側の骨切り位置としては適切であると考えられた3).したがって,大腿骨顆間窩の内側壁は回旋方向だけではなく,内外側の骨切りの位置としても有用なランドマークである.
骨切りの方向と注意点
Clinical Tips骨切りの方向と注意点

この骨切りにおいては決して後方が深く入らないようにする.後方の深い骨切りは術後骨折の原因になるので注意する.
矢状面骨切りのときは手元を上げすぎないようにする.

脛骨近位端の骨切り
脛骨近位端の骨切り

続いてガイドのスリットを用いて脛骨近位の骨切りを行う.まずボーンソーで骨切りを行い,ノミにて骨切りの仕上げを行い終了する.

ボーンソーだけで骨切りを終了しようとすると,周囲の軟部組織を損傷したり,顆間隆起の下まで骨切りが及ぶことがあるので注意する.

伸展・屈曲ギャップの調整

伸展,屈曲ギャップの確認
伸展,屈曲ギャップの確認

UKAでは靱帯の解離ではなく,骨切り量で靱帯の緊張度を調整するため,脛骨骨切り後にギャップを評価することは重要なプロセスである.骨棘が残存していれば切除してスペーサーブロックなどを用いて,伸展・屈曲ギャップを確認する.

本術式は,軟骨消失分も鑑みてコンポーネントの厚み分骨切りを行い,生来もっている関節安定性を獲得するというコンセプトである.脛骨骨切り後には,最も薄い脛骨コンポーネントの厚み(8 mm)+生来もっている関節間の弛緩性(1〜2 mm)=9〜10 mmのギャップが獲得されていることを確認する表1部分).計測したギャップに応じて,必要があれば脛骨の追加骨切りを行うとともに大腿骨の骨切り量を決定する(表1).

UKAの適応となる程度の膝関節OAであれば,後顆部の変性が軽度のため,屈曲ギャップが伸展ギャップより小さいことがほとんどである.
表1◆脛骨骨切り後に計測したギャップと追加骨切り
大腿骨後顆部のプレカット
大腿骨後顆部のプレカット

屈曲ギャップが小さい場合は,大腿骨後顆部をplus-cutすることで対処可能であり,2 mmのプレカットを行った後に通常のガイドで骨切りを行えば2 mmのplus-cutになる.屈曲ギャップが適切で伸展ギャップが大きいときは大腿骨遠位をminus-cutすることで対処する.

また,代表的なfixed bearing型UKAの機種であるZimmer Biomet G.KのPersona®では,大腿骨後方の骨切りはインプラントの厚みより2 mm plus cutで骨切りされるように設定されている.機種によって異なることもあるので手術前には確認しておくべきである.

大腿骨遠位の骨切り

大腿骨遠位骨切り
大腿骨遠位骨切り

脛骨骨切り面に対する適切な伸展および屈曲ギャップが確保できたら,大腿骨の遠位および後方の骨切りを行う.まず膝関節伸展位で脛骨骨切り面に並行に骨切りを行う.そのときに膝関節が過伸展や屈曲位にならないように注意する.

大腿骨骨切りガイド固定
大腿骨骨切りガイド固定

続いて大腿骨の遠位骨切り面に合わせて大腿骨コンポーネントのサイズを決定する.顆間部の骨棘を十分に切除した後に,骨切り面の内外側の中央に骨切りガイドを固定する.ガイドと脛骨骨切り面の間にスペーサーを入れておくと,骨切りガイドを大腿骨側に密着して固定することができる.ガイドを固定した後は,ペグホールを作成し,後方および後方シャンファー部の骨切りを行う.

大腿骨ペグホール作成
Clinical Tips大腿骨ペグホール作成

大腿骨の仕上げで重要なのは,ペグホールの作成である.位置を間違えて作成すると,改めて作成することはきわめて困難である.ガイドの固定は必ずしも強固ではないので,1つ目のペグホールを作成したら,ペグホール用のピンを挿入して,次のホールを作成するとよい.また左右にもブレやすいので,ガイドを手で保持して処置を行う.

大腿骨のトライアル

大腿骨のトライアル

大腿骨のトライアルコンポーネントを設置し,適切な骨切りができているか確認する.そのうえで,十分な伸展,屈曲ギャップが獲得できているか,スペーサーを用いて確認する.

ここまでの手術手技を適切に行っていれば,十分なギャップが獲得できていることが多いが,もしできていなければ脛骨側の仕上げを行う前に脛骨側の再切骨で対応する.前述のように大腿骨側での調整はこの時点では困難であるため,伸展,屈曲ともにtightであれば脛骨の追加骨切り,屈曲のみtightであれば後傾を強くして骨切りを行うなどの対処を行う.この時点での大腿骨トライアルによる確認は,UKAの手技に慣れてきたら割愛してもよい.

脛骨の仕上げ

脛骨の仕上げ

半月板を切除し,骨棘が残っていれば切除した後にサイジングガイドを用いて脛骨コンポーネントのサイズを決定する.内側でoverhangすると痛みがでることもあるので,内側はできるだけ骨皮質に合わせて設置する.

続いて脛骨トライアルを設置してペグホールを作成する.トライアルの固定時には,トライアルの後方が浮きあがっていないことを確認して手技を進める.

最終トライアル

最終トライアル

大腿骨トライアルおよび予定されたベアリングトライアルを設置して,最終トライアルを行う.2 mmの厚みのテンションゲージが挿入可能なことを確認して,適切な靱帯の緊張度が得られていることを確認する.

ゆるすぎる/きつすぎる場合はベアリングトライアルの厚みを調整する.

10インプラント固定

関節包などを中心に,疼痛軽減目的の関節周囲多剤注射を行った後に,関節内を十分に洗浄する.関節面から水分を十分拭きとった後にセメントを塗布し,まず脛骨コンポーネントを固定する.ここでも後方部分をしっかりと圧着させることが重要である.後方にはみ出たセメントはセメントが硬化する前にとり除いておく.

続いて大腿骨もセメント固定を行う.大腿骨コンポーネントの顆間部側の部位は骨とインプラントの境界の目視が困難なときもあり,少し浮き上がっていることもあるので,十分に確認して圧着させる.

UKAの場合は術野が狭いので,コンポーネントの挿入が困難な場合がある.セメントを塗布する前に,脛骨コンポーネントおよび大腿骨コンポーネントを設置する際の至適な屈曲角度やレトラクターの引き方などを決めておき,コンポーネント挿入に十分な術野を確保するように準備しておく.このようなシミュレーションをしておくと,実際の固定時に慌てなくてすむ.
セメント固定
Clinical Tipsセメント固定

セメントが硬化するまで,TKAでは膝関節伸展位で固着させることが多いが,UKAの場合は過伸展位になると,脛骨コンポーネントの後方が浮き上がる危険性がある.脛骨コンポーネントの後方の浮き上がりは目視で確認は困難である.よって筆者らはトライアルベアリング(+テンションゲージ)を入れて屈曲位で固定している.そうすると大腿骨と脛骨が後方で接するため後方の浮き上がりの危険性は減り,仮に前方が浮き上がっても目視で確認可能である.

11閉創

セメントが硬化したら,再度十分に洗浄し,ベアリングを脛骨コンポーネントに固定する.続いて関節包および皮膚を縫合し,手術を終了する.

3.おわりに

UKAはアライメントの過度の矯正は行わない手術であり,症例の選択がまず重要である.靱帯バランスにおいては,靱帯の解離は行わず,脛骨および大腿骨の骨切りで適切な靱帯の緊張度を獲得する.

文献

  • Tashiro Y, et al:The coronal alignment after medial unicompartmental knee arthroplasty can be predicted:usefulness of full-length valgus stress radiography for evaluating correctability. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 22:3142-3149, 2014
  • Fukagawa S, et al:Anterior border of the tibia as a landmark for extramedullary alignment guide in total knee arthroplasty for varus knees. J Orthop Res, 29:919-924, 2011
  • Kawahara S, et al:Is the medial wall of the intercondylar notch useful for tibial rotational reference in unicompartmental knee arthroplasty? Clin Orthop Relat Res, 470:1177-1184, 2012
  • Kwon OR, et al:Importance of joint line preservation in unicompartmental knee arthroplasty:Finite element analysis. J Orthop Res, 35:347-352, 2017
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