本当にわかる精神科の薬はじめの一歩改訂第3版〜具体的な処方例で経過に応じた薬物療法の考え方が身につく!

本当にわかる精神科の薬はじめの一歩改訂第3版

具体的な処方例で経過に応じた薬物療法の考え方が身につく!

  • 稲田 健/編
  • 2023年03月24日発行
  • A5判
  • 320ページ
  • ISBN 978-4-7581-2401-0
  • 定価:3,850円(本体3,500円+税)
  • 在庫:あり
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第3部 疾患別 処方の実際

2.処方の実際

稲田 健
(北里大学医学部精神科学)

強迫症

1強迫症とは?

強迫症とは,強迫観念と強迫行為からなる疾患である.

強迫観念とは,本人の意思と無関係に反復性に生じる,不快感や不安感を生じさせる思考である.強迫行為とは,不快な存在である強迫観念を打ち消したり,振り払うための行為で,強迫観念同様に不合理なものだが,それをやめると不安や不快感が伴うために,中止することには大きな苦痛を伴う(POINT).

強迫観念や強迫行為は,強迫症以外にも統合失調症やうつ病,発達障害などでも生じる(図1).強迫症においては,強迫症状が奇異であったり,不合理であると患者さん自身が認識していることが特徴的である.この不合理感の自覚から,患者さんは人知れず思い悩んだり,恥の意識をもっている場合もあり,自分だけの秘密として,周囲にわからないように秘密裏に強迫行為を行ったり,理不尽な理由をつけてごまかそうとすることがある.逆に自身で処理しきれない不安を払拭するために,周囲に強迫行為を強要する場合もある.

2アセスメントと鑑別

強迫観念と強迫行為を確認する.患者さん自らが強迫観念と行為が不合理であると感じていることを確認するが,不合理感を欠くこともある.

強迫行為は,統合失調症の初期症状であることも少なくない.幻覚や妄想など他の精神症状の有無を確認することで鑑別する.

3薬物療法の原則

強迫症の治療

他の不安症と同様に,抗うつ薬による薬物療法と精神療法,特に行動療法や認知行動療法が有効である(図2).

認知行動療法としては,エクスポージャー法と反応妨害法が知られている.エクスポージャー法とは,強迫行為を生じる状況に自ら意図的に曝露するもので,反応妨害法とは,不安や不快感が発生しても,それを低減するための強迫行為を抑制する方法である.さらにエクスポージャー法と反応妨害法を一連の流れで行うものを曝露反応妨害法という.これらは単独で行うこともできるが,患者さんは不快に立ち向かう必要があり,導入には多くの困難を伴う.したがって,通常は薬物療法導入後に行った方が成功する.

薬物療法として,セロトニン系に作用する抗うつ薬が有効で,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬のクロミプラミンの有効性が証明されている.SSRIとしては,フルボキサミンとパロキセチンが適応承認を取得している(p70).

強迫症に対するSSRIの投与量は,抗うつ薬として用いるよりも高用量を要することが多い.

<初回>
パロキセチン(パキシル®)1回10 mg 1日1回(夕食後)

<1週間後>
パロキセチン(パキシル®)1回20 mg 1日1回(夕食後)
以降1週間ごとに10 mgずつ増量し,50 mg/日まで増量

<改善が乏しい場合>
アリピプラゾール(エビリファイ®)1回1.5 mg 1日1回を追加し経過をみる(適応外)

4治療の経過

抗うつ薬全般にいえることであるが,消化器症状の出現が多いため,必要時には制吐薬を適宜用いることも有用である.

上記の副作用の出現を避けるためにも,抗うつ薬は低用量から開始し,適宜漸増する.

効果判定には,最大用量に増量するまでの時間も考慮し,8~12週間を要する.

効果不十分時には,抗うつ薬の併用や置換を検討する.また,保険適用外ではあるが,抗精神病薬による増強療法は,リスペリドンなど一部の薬剤においてその効果が期待されている1)

内服薬中止にあたっては,減量後に半数近くが再発する可能性があるため,症状が安定した状態を1~2年は維持できた際に,減薬・中止を検討する.

5専門医へ紹介するタイミング

重症の強迫症では,抗精神病薬の併用が必要となることがある.この場合は専門医に紹介する.

症例 人間関係をきっかけに,“洗浄強迫”が顕著になった例

20歳女性会社員.もともと本人曰く“潔癖性”であったが,日常生活には困ることなく暮らしていた.18歳で就職をし,以後仕事をこなしていたが,徐々に人間関係などで悩むようになっていった.半年前より,家に帰ってくると“外から汚いものをもち込んでしまった”とすぐに風呂に入り,入念に身体を洗うようになった.職場でも,コピー機に触るたびに手洗いをしないと気がすまなくなるなど,日常生活に支障が出るようになった.家族の勧めもあり,精神科に受診となった.

“自分でもおかしいと思うけれども止められない”と不合理感を訴えていた.外来主治医は強迫症と診断し,抗うつ薬による薬物療法を勧めた.パロキセチン(パキシル®)を1回10 mg,1日1回から処方.1週間ごとに10 mg/日ずつ増量し,50 mg/日まで増量した.徐々に手洗いの回数などが減り,“汚いと思っていたものに近づけるようになった”と話すようになった.そのため,外来主治医は,積極的に汚いと思うものに触れていき,手を洗わないで我慢する練習を開始するように指導した.当初は,つり革を触ることさえも抵抗感が強かったが,徐々に触れられるようになっていった.

強迫症は抗うつ薬が有用な疾患の1つである.また,エクスポージャー法など,認知行動療法も有用であり,忙しい外来診療のなかでも,“汚いものランキングをつくって,下位のものから触る練習をしていく”などは簡便に行うことができ,継続的な治療を行うことが可能となる.強迫症もうつ病を併存することが多く,その可能性を疑い診察することが必要である.

文 献

  • Dold M, et al:Antipsychotic augmentation of serotonin reuptake inhibitors in treatment-resistant obsessive-compulsive disorder: a meta-analysis of double-blind, randomized, placebo-controlled trials. Int J Neuropsychopharmacol, 16:557-574, 2013
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