即実践!ICUのこれだけ栄養療法〜どんな重症病態にも対応するための基礎知識と判断力が身につく14講

即実践!ICUのこれだけ栄養療法

どんな重症病態にも対応するための基礎知識と判断力が身につく14講

  • 佐藤武揚/著
  • 2026年01月26日発行
  • A5判
  • 318ページ
  • ISBN 978-4-7581-2444-7
  • 4,620(本体4,200円+税)
  • 在庫:あり
本書を一部お読みいただけます

第1講 栄養治療を始めるために:経腸栄養と経静脈栄養の考え方

 

1.はじめに:Eは栄養のE

救命救急のABCというものがあります.重症と思われる患者に対してまず,A:airway(気道の開存)B:breathing(呼吸の有無)C:circulation(循環動態)を,特別な器具を使わずに治療者の感覚で(見て,聴いて,感じて)判断します.さらにD:disability of central nervous system(切迫する中枢神経障害)をあわせて初期評価とすることが多いです.ABC(D)の異常は疾患を問わず死に直結するため,これらの問題が解決するまではその先の治療に進んではいけません.

語呂合わせとしてはつぎにEを言いたくなります.exposure,environmental control(脱衣,保温など)1)や,exercise2),early mobility3)など,いずれも重要です.入院治療全般について言えば,入院治療のためのE,それは栄養(eiyou)です.どんなに手術が上手でも,薬物治療が適切であっても,栄養状態が良くなければ十分な効果は期待できません.

 

本書では著者の私見をマーカーで示します.マーカーを信じてよいかどうかは各自でご判断をお願いします.

 

2.栄養治療を行うために必要な知識

栄養治療は関連するパラメータが多岐にわたりRCT(randomized controlled trial)によるエビデンスの構築が困難です.現時点でわかっていることはあまりに少なく,経験と観察で補う必要があります.

栄養治療を有効に行うためには,その評価法をもつ必要があります.経腸栄養(enteral nutrition:EN),経静脈栄養(parenteral nutrition:PN)の弊害を知る必要があります(第2講を参照のこと).また,EN不耐の対処を知る必要があります(第9,11講を参照のこと).これらのほとんどは部分的なエビデンスしかないため,本書では理論的な仮説をたて,それを明示し,あえて断定的な説明をすることで,実践で迷わないようにします.遂行率が低ければそもそも仮説が正しいかどうかもわかりません.

栄養治療の心構えとして,先進的な知識を常にアップデートするとともに眼前の症例の観察を密にします.こうすることで常にプロトコルは更新されていきます.準備万端整うまで動かないのではなく,準備ができたところから始めます.間違いや不都合があれば,その都度修正して更新します.修正しやすくするために仮説を明示して方針を決めます.

本書はすべての医療者が悩むことなく,未知の病態に少なくとも害をなさない,及第点の対処ができることを目指します.たとえるならば,完璧なコース料理が作れるようになるために学校に通い,学び,修行が終わるまで立ち止まるのではなく,たとえ料理法が拙かったとしても,とりあえず作れるものでまずは空腹を満たすのです.

 

3. 入院患者の栄養管理は科を問わずに必要である

入院患者には,各種の薬物治療や手術治療などが行われますが,さらに栄養治療が必要です.

入院の適応は自力で動けない,食べられない,全身状態が不安定,またはその可能性がある場合です.その対処はリハビリテーション,補液,集中治療です.つまり食べられて(もしくは経管栄養で),補液が不要になれば退院(または急性期病院からの転院)できます.入院治療における栄養治療スキルは科を問わずに必要です.

 

4.食物熱量の基本

炭水化物は4 kcal/g,蛋白質は4 kcal/g,脂肪は9 kcal/gです.熱量を考える際には砂糖と白米などのでんぷん質を区別せず,同じく炭水化物と考えます.炭水化物は健常状態で生体のエネルギー通貨であるATPの基本的な熱源です.急性炎症によりATPの需要が急激に増すと,炭水化物の代謝だけでは足りなくなり,蛋白質や脂肪の異化でこれを賄います.蛋白質は炭水化物と同じ熱量密度ですが,筋肉や酵素を構成しており分解されると生体機能低下を招きます.脂肪はメタボリック症候群などで目の敵にされがちですが,血糖値を上げず,熱量効率がよく,水分制限に役立つ優れた熱源です.集中治療領域では相対的副腎不全など内因性ステロイドの不足が問題となります.ステロイドは脂質でありコレステロールから作られます.入院治療を要するならば脂肪もバランスよく摂取すべきで,入院中は定期的な中性脂肪,コレステロールの計測が望ましいです.

 

5. 重症病態の栄養治療は多職種連携と早期ENが大事

ASPENガイドライン4)によると重症患者の早期ENにより死亡率低下,感染症発症率の低下が期待できます.どのくらい熱量が必要かは体格と炎症の有無で決まります.以下の症例の栄養治療はどう考えたらよいでしょうか.

 

症例1▶︎入院時体重60 kg(BMI 20.7),院外心肺停止蘇生後,第2病日で34℃体温維持療法中です.筋弛緩薬が投与されています.

 

症例2▶︎入院時体重80 kg(BMI 27.0),多発外傷で開腹止血術後,第2病日で開腹管理中です.筋弛緩薬の投与はしていませんが,おなか(腹壁)が開いています.

 

症例3▶︎入院時体重35 kg(BMI 12.9),低体温症で一時的に心肺停止となりました.カテコラミンを必要とするショック状態で,体外式人工心肺を導入しています.カテーテル刺入部より末梢下肢のコンパートメント症候群,肝障害,腎障害があり持続血液浄化療法をしています.下痢しています.

 

栄養治療はどうしましょう.一見してとまどってしまうかもしれません.そうするとなんとなく栄養治療は後回しにしたくなるかもしれません.とりあえず絶食でいいでしょうか.これらが積み重なると,ほとんどの重症患者が絶食となりかねません.

ガイドラインはこのような状況でENの可否を判断することを求めているのです.

栄養障害は基礎疾患の結果起こるもので,原疾患の治療が最優先されます.栄養治療のみで疾患の治癒を目指すことは難しいかもしれません.しかしながら適切な栄養治療がなければ,治療はうまくいきません.栄養治療を進めるためには原疾患の病態を理解する必要があります.しかし,高度に分化した医療すべてを一人で網羅することは不可能です.主治医と栄養治療医は協調して病態の共通認識をもつ必要があります.協調の対象は主治医,栄養治療医だけでなく看護師,管理栄養士,理学療法士や医療ソーシャルワーカーなどを含みます.定期的に多職種で認識のすり合わせをするとともに,主治医,栄養治療医は判断した結果だけでなく,その根拠を何らかの形で施設内に明示する必要があるでしょう.

具体的に言えば,入院時主治医はその症例の疾患について,体動制限(体を起こしてよいか),食事制限(食形態や熱量,蛋白質量に制限があるのか),治療の見込み(抗菌化学療法や手術治療の予定,最終的な予後の見込み)を,皆が見ることのできる指示簿に明示します(Memo1)

 

Memo1 急性腹症入院時指示簿の例

診  断:絞扼性腸閉塞

治  療:小腸部分切除術,麻酔導入時に誤嚥した

体動制限:疾患からくる制限なし

食  事:翌日から可能,疾患からくる制限なし

抗 菌 薬:術後2日間,あとは病態による

今  後:自宅退院の見込み

などと記載します.

 

入院中は定期的に,その症例の何が問題なのかをカルテに提示します(Memo2).これらを見ることで共通認識をもち,他職種が主治医にアドバイスできるようにします.

集中治療を要する患者は投与熱量の減少とICU-acquired weaknessや,廃用の進行に相関があります5).適切な栄養治療を伴わなければ,治療はうまくいっても廃用で寝たきりになった,となりかねません.これを防ぐためにはまず早期ENを確立しましょう.

 

Memo2 同症例術後3日目のカルテ表記例

呼吸:人工呼吸管理中だが肺に問題なし,酸素化悪化の原因は術後肺水腫

循環:昇圧剤使用しているが漸減中,術後経過で問題なし

神経:鎮静しているが脳に問題なし

感染:予防的抗菌薬投与のみ,内臓障害がひどければやめてもいい

創傷:術後創部問題なさそう

栄養:腸管麻痺はあるが改善傾向で,じきにEN可能

社会:自宅退院が目標

などと記載します.ENをするか,ENがうまくいかなかったらどうするか,経口摂取ができそうなのか,など社会的転帰を踏まえて各職種は自分にできることを伝えます.主治医の記載がなければ,周囲が上記観点に基づいて主治医の認識を聴取して周知します.忙しいICUで多職種が一同に会するのは大変で,口答で伝わる情報量は限りがあります.記録の残る掲示板形式が望ましいと考えます.

 

🅰早期EN(early enteral nutrition:EEN)

入院後24時間以内のEN開始と感染症抑制は相関があります6).早期に開始すればEN,PNのどちらも生命予後に差はないとされます7).ENの方がより生理的で,成人で最大の免疫器官である腸管免疫を保つのに役立ち,全身の免疫能維持が期待されます.早期ENは人工呼吸管理期間,ICU在室期間を短縮します8).カテコラミン投与を必要とするショック状態だからENはできない,ということはありません.低速持続投与であれば腸管虚血をきたす可能性は低く,むしろ早期ENによりショック症例の死亡率が低下した報告もあります.ENの禁忌は腸管損傷例です.便を減らしたいからという理由で絶食にする意味はありません.絶食しても便は出ます.要注意は脳圧亢進例です.嘔吐誤嚥が問題になるため,消化機能評価が必要になります.

 

🅱早期ENの弊害

早期ENの弊害を知ることで恐れず進むことができるでしょう.非閉塞性腸間膜虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)をきたすかもしれません.むりやり食べさせると腸が虚血壊死する,という病態です.また,refeeding syndromeをきたすかもしれません.飢餓状態にむりやり熱量を増やすと栄養が身体の負担になる,という病態です.

 

Reference

1) Soltan M & Kim M:The ABCDE approach explained. BMJ, 355:i4512, 2016(PMID:31055337)

2) Blaha MJ, et al:A practical "ABCDE" approach to the metabolic syndrome. Mayo Clin Proc, 83:932-941, 2008(PMID:18674478)

3) Bardwell J, et al:Implementing the ABCDE Bundle, Critical-Care Pain Observation Tool, and Richmond Agitation-Sedation Scale to Reduce Ventilation Time. AACN Adv Crit Care, 31:16-21, 2020(PMID:32168511)

4) Taylor BE, et al:Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). Crit Care Med, 44:390-438, 2016(PMID:26771786)

5) Fetterplace K, et al:Associations between nutritional energy delivery, bioimpedance spectroscopy and functional outcomes in survivors of critical illness. J Hum Nutr Diet, 32:702-712, 2019(PMID:31034122)

6) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会:日本版重症患者の栄養療法ガイドライン.日集中医誌,23:185-281,2016

7) Harvey SE, et al:Trial of the route of early nutritional support in critically ill adults. N Engl J Med, 371:1673-1684, 2014(PMID:25271389)

8) Khalid I, et al:Early enteral nutrition and outcomes of critically ill patients treated with vasopressors and mechanical ventilation. Am J Crit Care, 19:261-268, 2010(PMID:20436064)

 

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