日本では小児の誤食としてタバコ誤食がきわめて多い.国民の喫煙率が高いことと,生活様式(畳の上にタバコや灰皿を置くこと)などが,その主な原因と考えられる.日本中毒情報センターへの電話での問い合わせ件数も常に上位を占め,2004年の5歳以下の小児についての問い合わせ件数は,化粧品(20%)についでタバコ関連品(16%)が第2位を占めている7).
自律神経作動薬に属するニコチンは,自律神経系,中枢神経系,運動神経末端において二相性に作用する.初期(タバコ誤食後約15~60分)は刺激症状を呈するが,ニコチンの分解が遅く脱分極が持続するため,後期(60分~4時間)は抑制作用を呈する,
一本のタバコに含まれるニコチン量は約10 mgであり,これは小児の中毒量に相当する.タバコのパッケージに記載されているニコチン量は,喫煙したときに吸入されると推定量であり,服用した際のニコチンの量はその約10倍量となる(表2).
しかしながら,タバコを誤食しても口腔内への刺激が強いために吐き出してしまうことと,胃でのニコチンの吸収は少ないことと,嘔吐により排出されることにより多くは軽症である.一方,ニコチンが溶出している灰皿の水や,タバコを捨てた缶ジュースの残りなどを服用した場合は,急性ニコチン中毒となる危険性が高い.また,禁煙を目的としたニコチンパッチからの経皮的な吸収や,ニコチンガムの誤食によっても中毒は生じうる.
急性ニコチン中毒の初期症状は誤食後,約15~60分以内に生じる.これを過ぎても症状が出現しない場合は,その後も症状が発現する危険性は少ないといわれている.しかし,遅発症状が出現するとされている4~6時間は経過を観察する.
中毒症状を有する場合は,気道確保,酸素投与,輸液などの基本的な治療を行う.タバコの嘔吐中枢刺激作用で嘔吐することが多いことと,中毒症状でも嘔吐することから催吐は不要といわれている.初期からけいれんを生じることもあるので,催吐は行わない方が望ましい.水や牛乳を飲ませて希釈を期待する方法もあるが,かえって胃内での溶出を促進する危険性があり,また,嘔吐で飲めないことが多い.
胃洗浄や活性炭投与については,重症度と誤食後の経過時間で考慮する(急性中毒の一般的治療に準ずる).
強制酸性利尿が有効ともいわれているが,ニコチンは代謝が早く(主な代謝産物はコチニン)すみやかに尿中に排泄されるのであえて施行する必要はない.分布容量が大きいので血液浄化法は無効である.
特異的な解毒薬や拮抗薬はないとされていたが,欧米ではmecamylamineというニコチンの拮抗薬が使用されている.ただし,経口製剤であるため,嘔吐している間は投与できない.徐脈などの副交感神経刺激作用には硫酸アトロピンを投与する.
銘柄 | ニコチン含有量(mg) | 喫煙時のニコチン量(mg)パッケージ表示 |
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ピース | 23.9 | 2.3 |
ハイライト | 14.6 | 1.4 |
ホープ | 13.3 | 1.1 |
キャスターマイルド | 12.9 | 0.4 |
マイルドセブン | 12.6 | 0.8 |
マイルドセブンライト | 10.8 | 0.7 |
セブンスター | 12.4 | 1.2 |
キャビンマイルド | 11.9 | 0.7 |
キャメル | 15.4 | 0.8 |
マールボロ | 12.8 | 1 |
紙巻きタバコ1本には約1.5%(約10~15 mg)のニコチンが含まれる. 成人の中毒量は30~60 mg,小児の中毒量は10~20 mgであり,紙巻きタバコ1本のニコチンは小児の中毒量に相当する.〔文献3および日本たばこ産業ホームページ(http://www.jti.co.jp/)より改変引用〕 |
1.救急診療のポイント |
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2.問診 |
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3.診察 |
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4.初期治療 |
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文献5より引用 |
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