小噺その9:初めての科研費(Dくんの場合)

 科研費は宝くじみたいなものだから…そんな考えがあったためか採択されたい強い気持ちのある割には軽い気持ちで申請書を書いてきました.このため,忘れたころに送られてくる不採択通知を見ては,くじ運のない自分にもどかしさを感じる日々が続いていました.

 あるとき,くじ運の強い,つまりはよく科研費に採択される先生の申請書を見せてもらう機会に恵まれました.そのとき,自分の文章とあまりにも違いがあることに驚くとともに,もしや科研費の申請書にも文章のコツみたいなものがあるのではと感じたのです.さっそく採択率の高い先生方と,(大変失礼だとは思いましたが)そうでもない先生方の申請書を集めて自分なりに比較してみると,職位に関係なく差ははっきりしていました.そこで,この比較をもとにして申請書を作り直したところ,前年までとほぼ同じ内容,同じ業績だったにもかかわらず科研費に採択されることができたのです.わずか数枚の紙に,言葉遣いをちょっと工夫して,真剣な想いを詰めただけでこれだけの研究費を手に入れることができた驚きと喜び,そして不採択グセから抜け出ることのできた安心感を得ることができました.採択後これまでの申請書を見直してみると,どれも廃墟の中を彷徨うかのような文章でどこが目的なのかもわからない,不採択でしかるべきものばかりでした.もし,このような申請書で採択されたらそのときこそ宝くじだと感じましたし,また,宝くじ状態で研究室の家計が成り立っていたら大変だということにも気がつきました.

 こうして,初めての科研費は,私に科研費が宝くじではないことを教えてくれ,同時に採択されないことへの恐怖心も植えつけました.これから先,研究者でいられたとして,あと何度採択されなければならないのか,またPIとして自立できるのかなどと悩みもつきません.今後,魅力的な研究を立案する力,業績,文章力などを身につけ,そうはいっても最後には申請書を大安の日に提出するというツメも忘れずに,科研費の採択を祈願していきたいと思っています.

科研費小噺 〜十人十色の体験記〜:目次

児島 将康

(久留米大学 分子生命科学研究所)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演.理系・文系を問わず申請書の添削指導も行っており,指導した人の採択率は6~7割にもなる.

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