Gノート:睡眠問題、すっきり解決!〜ライフサイクル別「眠れない」へのアプローチ
Gノート 2018年12月号 Vol.5 No.8

睡眠問題、すっきり解決!

ライフサイクル別「眠れない」へのアプローチ

  • 森屋淳子,喜瀬守人/編
  • 2018年12月03日発行
  • B5判
  • 156ページ
  • ISBN 978-4-7581-2334-1
  • 定価:2,750円(本体2,500円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

不眠診療における総合診療医の役割とは

森屋淳子
(東京大学 保健・健康推進本部)

昨年度,好評だったGノート特集「便秘問題,すっきり解決!」(2017年6月号)に引き続き,今回は睡眠の問題を,ライフサイクル×家族ケアという総合診療医ならではの切り口でとり上げました.本稿では総論として,不眠と不眠症の違い,不眠の原因,睡眠問題に対する総合診療医の役割について述べたいと思います.

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不眠と不眠症の違い


「眠れない」は日常診療でもよく遭遇する愁訴です.過去に行われた疫学調査では,成人男性の17.3~22.3%,成人女性の20.5~21.5%に不眠が認められると報告されています1).また,厚生労働省の平成28年国民生活調査2)によると,のとおり,不眠の訴えはすべての年代において女性に多く,高齢になるほど増えています.

なお,不眠を自覚しても必ずしも医療機関に受診しているとは限らず,実際に医師に相談する人は不眠を有する人の一部です.20〜79歳の男女7,827名を対象とした不眠に関する意識調査3)によると,不眠の症状があっても約7割が「医師に相談したことはない」と報告されています.そのため,不眠の訴えがなくても,定期的に「最近,眠れていますか?」と睡眠状況を確認することが重要です.

その一方,「不眠の症状がある=不眠症,ではない」という認識も必要です.不眠症の分類/診断基準にはDSM-5,ICD-11,睡眠障害国際分類(ICSD-3)の3つがありますが,ここではDSM-5の診断基準4)を表1(※)に示します.不眠症の診断のポイントは,A(不眠症状)と,B(日中の機能障害)がともに揃っていることです.不眠を訴える人のなかには「8時間眠れない.ぐっすり眠れない」と睡眠に対する誤った知識やこだわりが強いことも多いですが,よくよくうかがうと日中機能は障害されていない人がかなりいます.「日中の生活に支障があるかないか」が治療の要否判定のポイントとなります.また,精神的なストレスや身体的苦痛のため一時的に夜間よく眠れない状態は,生理学的反応としての不眠ではありますが,不眠症とは言いません.

不眠の原因は?

不眠の原因の分類にはさまざまなものがありますが,「5つのP」による分類がわかりやすくて覚えやすいでしょう.physiological(生理学的),psychological(心理学的),physical(身体的),psychiatric(精神医学的),pharmacological(薬理学的)の5つに分類されます(表2(※)).不眠をきたす身体疾患や薬物は想像以上に多いことがわかります.患者さんの「眠れないんです」という訴えに対し,「では睡眠薬を出しておきますね」といった安易な対応をするのではなく,包括的な視点で不眠の原因を検討することも,総合診療医の腕の見せどころだと思います.原因となる薬剤の調整や疾患の治療,生活環境の調整を含めた睡眠衛生指導を適切に行えると,不要な睡眠薬を処方する必要もなくなります.

ライフサイクルや家族ケアの視点も大切に

「眠れない」という訴えには,ライフサイクルによってさまざまな背景要因を考慮して対応することが重要です.睡眠の質や量は年齢とともに変化していきます.乳幼児期の睡眠は,脳の発達に伴い,多相性睡眠から単相性睡眠へと変化していきます.思春期・青年期には徐々に就床時刻が後退し,中学生頃より夜型化が進行する傾向にあります.慢性的な睡眠不足,インターネットやスマートフォンなどのメディア接触の増加,勉強に追われる生活,大人の生活習慣からの影響などもあり,起床困難や日中過眠が増えます.成人期には生活習慣や勤務体制との関連も出てきますし,ホルモンバランスの失調による不眠も出てきます.また,高齢期には,乳幼児期のような多相性睡眠へとふたたび移行し,中途覚醒,早朝覚醒が増えますし,基礎疾患や薬剤との関連も出てきます.

また,「眠れない」は本人の問題だけではありません.その人のお世話をする家族や,ベッドパートナーへの影響も見逃せません.子育てによる不眠,介護による不眠…産後うつ病や介護うつ病を早期に発見し適切に対応することや,ライフサイクルに応じた家族の問題に対応することも,総合診療医の重要な役割だと思います.

本特集のねらい

不眠は日常診療で多く経験しますが,睡眠薬を処方する前に総合診療医ができることは,たくさんあります.小児から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんを,疾患を限らずに診ている総合診療医だからこそ,できることもたくさんあると思います.本特集では,一般的な不眠症に対する薬物治療はあえて割愛し,ライフサイクルごとの対応,家族ケア,非薬物療法や生活指導を中心に,総合診療医の先生のみならず,精神科・心療内科・老年科の先生,薬剤師の先生,教育学の先生にもご執筆いただきました.本特集が,読者の先生方が総合診療医として包括的なアプローチを行うことに少しでも役立てれば幸いです.


【謝辞】本特集を編集するにあたり,著者をご紹介くださった東大心療内科の吉内一浩准教授,共同編集くださったCFMDの喜瀬守人先生に厚く御礼申し上げます.

※本ウエブサイト上では表1,2を割愛しています

文献

著者プロフィール

森屋淳子 Junko Moriya
東京大学 保健・健康推進本部
家庭医療専門医,心療内科専門医・指導医,認定産業医.医学博士.
今回の特集を担当し,不眠診療の幅広さ・奥深さを改めて認識しました.限られた診療時間のなかで,医師のみですべてを実践するのは難しいため,多職種で対応していただけると嬉しいです.

〈共同編集〉
喜瀬守人 Morito Kise
医療福祉生協連・家庭医療学開発センター/久地診療所
プロフィールはp.1360参照

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