Gノート:感染症診療これだけエッセンシャル〜外来・在宅・高齢者施設でなにを?どこまで?
Gノート 2021年4月号 Vol.8 No.3

感染症診療これだけエッセンシャル

外来・在宅・高齢者施設でなにを?どこまで?

  • 関 雅文/編
  • 2021年04月01日発行
  • B5判
  • 178ページ
  • ISBN 978-4-7581-2353-2
  • 定価:3,080円(本体2,800円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

特集にあたって 〜ウィズコロナ時代の地域における感染症診療

関 雅文
(東北医科薬科大学医学部 感染症学教室)

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はじめに

2020年シーズン以降,いわゆる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(coronavirus disease 19:COVID-19)が感染症診療のみならず一般地域診療の中心となり,世界的に猛威を振るっています.

われわれは,これまでインフルエンザに代表される急性の流行性ウイルス感染症を少なからず経験してきましたが,これほどのパンデミックは,まさに100年前のいわゆる「スペイン風邪」以来です1).ただし,その特徴はHIVやインフルエンザでわれわれが経験してきた感染症の特徴と共通するものも多く,その対応は既存の感染症と同様のノウハウで可能と考えられます.

本稿では,今後避けることができないCOVID-19の特徴について概説し,この後本特集でそれぞれのエキスパートに記載いただいた,さまざまなシチュエーションや地域の特性を念頭においた肺炎など一般感染症の診療のコツとの関連につなげたいと思います.

1COVID-19の疫学


感染症の病原性を規定するのは,主に感染力(伝染性)と致死力(病原性)です.現在のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)については,これまでの2つの重症コロナウイルス感染症〔SARS-1(重症急性呼吸器症候群),MERS(中東呼吸器症候群)〕に比べると,感染力・伝染性は比較的強い一方,致死力・病原性はそれほど高くなく,当初はわれわれが毎年経験している季節性インフルエンザに近いウイルス感染症との認識がありました.しかし今,それほど単純な感染症ではないことが経験的に明らかになってきました1〜3)).

すなわち,感染力は平均するとインフルエンザと同等程度ですが,「3密」といわれる密着・密集・密閉した条件下では,「麻疹」に比肩するスピードで,ほとんどの居合わせたメンバーが罹患し,「クラスター」を発生することが判明しました.これには,感染後1週間程度は無症状で,その間にヒトの免疫機構を逃れながら増殖する「HIV」にも似た巧妙な機序を有することが影響するかもしれません.

一方で,全体な致死率はわが国で数%とされていますが,一般のインフルエンザの致死率より十分高く,また高齢者での重症化が多数報告されており,油断できません.若年者では比較的軽症な感染者が多く,ほぼ無症状でも胸部CTなどで特徴的な両側スリガラス陰影を呈する,いわゆる肺炎を有することが明らかになりました5).はっきりした「両面性」をもつ,侮れない感染症といえるでしょう1,6)

2COVID-19の病態と治療

今回のCOVID-19に関しては,数多くの治療薬が開発されつつあり,現時点で抗ウイルス作用そのものを有する薬剤として,まずレムデシビル(ベクルリー®)が使用されて効果を挙げています7,8).今後,ファビピラビル(アビガン®)など他の抗ウイルス薬の保険適応も期待されています.

しかし,これらはインフルエンザ同様,これまでの抗ウイルス薬のように病原体そのものを標的とする根本的治療の発想に沿った戦略薬であり,また実はこれまでも使用されたことのある既存薬ばかりです.今後の感染症治療の本質は変わらないといえるでしょう.

一方でCOVID-19では,インフルエンザ以上にサイトカインストーム・過剰免疫の病態への影響が確認され,その重症化病態はARDS(急性呼吸促迫症候群)のほか,肺水腫(alveolar flood),そして強い血管障害性であることがわかりました.一連の抗免疫薬・免疫調整薬の有効性,特に重症呼吸不全症例でのステロイドの有効性が認められ,これらを使用することが感染症として推奨されたのは急性呼吸器感染症では初めてです.

今後,「抗ウイルス薬+免疫調整薬+α(抗凝固薬)」の治療レジメン−バンドルとしての感染症診療の確立が待たれ,新たな感染症治療の糸口をつくったといえます.

3予防・感染対策

またウイルス感染症に対しては,治療よりもむしろワクチンなどによる予防,もしくは「かからないための」感染対策がきわめて重要となります9)

インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンに匹敵,もしくはそれを上回る効果的な新規の機序を有するSARS-CoV-2ワクチンの登場,一般外来での接種が現実のものとなりつつあるのは画期的です.人類の危機がかえって感染症診療の飛躍的進歩をもたらしたともいえるでしょう.

また同じ飛沫感染を主とする呼吸器ウイルスとして,これまでのインフルエンザ対策以上に手洗いやマスクがきわめて有効であることが実証されつつあります.これまで同様,他の感染症に共通する標準予防策,飛沫感染対策を基本に,さらなる対応をしっかりと進めていくべきなのです.

おわりに

今後,「新しい生活様式」のなかで,自分たちや地域を守る感染症対応を進めていく時代が来ました.しかしそれらの方策は,実はCOVID-19対応も含めて,われわれが既存の感染症診療の中で培ってきたノウハウを応用し堅実に進めていくことで多くが対応可能なのかもしれません.

本特集では,診療所・在宅診療・高齢者介護施設といった『シチュエーション別』での感染症診療や対策,また『部位別』に上気道炎,肺炎,心内膜炎などのほか,消化器感染症や尿路感染症,性感染症,そして皮膚軟部感染症を診療する際のポイントを,各領域のエキスパートから概説いただきました.これらは,常にCOVID-19の存在に気をつかわねばならない「ウィズコロナ時代」においても普遍の原則からなり立つ知識―すなわち的確な診断と治療薬選択です.

さらに「トピックス」としてとりあげたワクチン投与によって住民を守る予防医学の観点は地域医療では必須であり,比較的稀な寄生虫疾患や熱帯感染症の懸念は常にもっておかねばなりません.

今後,地域医療,感染症診療を支える医師,医療従事者の責務は,ますます大きくなるでしょう.今特集が,読者の先生方やスタッフの感染症診療・総合診療の一助となれば,われわれにとって大きな喜びです.

文献

著者プロフィール

関 雅文 Masafumi Seki
東北医科薬科大学医学部 感染症学教室
1994年長崎大学医学部卒業,大阪大学,米国ネブラスカ大学,米国ミシガン大学などを経て2015年より現職.東日本大震災後に新設された医学部での学生教育や地域医療に邁進中です.グローバルな視点からも情報を発信していきたいと思います.

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