「コラム:家庭医が心療内科を学ぶと最強!」:内科診療の幅がグンと広がる! 心療内科的アプローチ:Gノート

1心療内科研修で学ぶことになったきっかけ

こんにちは.私は今医師14年目で,診療所で家庭医をしています.家庭医療の後期研修2年目に関西医科大学附属病院心療内科で3カ月間研修しました.

精神科研修を終えていた私ですが,研修で診たのは統合失調症や認知症の患者さんが主で,外来でよく出会う「過敏性腸症候群」「慢性疼痛」といった心身症の患者さんの対応に不安を抱えていました.そんなとき日本プライマリ・ケア連合学会の秋季生涯教育セミナーで心療内科のワークショップに参加し,その悩みを解決するのはここしかない! と思い立ち,研修させていただくこととなりました.

2研修の概要

入院は主治医,外来は予診とシュライバー(カルテを書く係)を担当しました.ほかに教授回診,スタッフミーティング,月に1回は外部の多職種も交えたケースカンファレンスなどがありました.正直,私の人生で最も血尿がでた3カ月で,ストレスによる身体化を自分の体で実感しました.しかし流した血の分,得るものも大きく,その後の診療だけでなく自分のストレスマネジメントにもよい影響を感じています.

3大きな気づきを得た患者さんとの葛藤

入院では「Basedow病を伴ううつ病」「低K血症を伴う摂食障害」「自閉症スペクトラムを疑う摂食障害(思春期)」「自己愛性パーソナリティ障害を伴う重症糖尿病」といった疾患をもつ患者さんを受け持ちました.

特に「低カリウム血症を伴う摂食障害」をもつ木村さん(仮)に対しては強い葛藤を感じ,苦悩しました.木村さんは30代の女性で,るいそう著明で非常に弱々しい印象の方でした.夫と発達障害をもつ4歳の子どもの3人暮らし.母親がよく付き添っており,木村さんから聞く限りは親子関係も夫婦関係も良好のようでした.育児について悩んでいる様子でしたが,言葉数が少なく会話ははずみませんでした.入院しても病状はあまり改善しませんでしたが,治療によりK値が安定したため退院で外来フォローの方向となりました.もともとは受診も入院も拒否的だったため,すんなり受け入れられると思い,退院を伝えると「じゃあ帰って死にますよ!」と怒りを露わにされました.

「どうしたらいいんだろう…」と頭を抱えて指導医に相談したら「その気持ちが患者さんが抱えている気持ちだよ」と言われ…すとーんと「そうか,患者さんもこんなに悩んでるんだ」と納得できたことをとてもよく覚えています.それまでは「こんなに関係性がいい家族に囲まれているのになにが不満なんだろう」とよくわからない木村さんの気持ちに,得たばかりの知識で“疾病利得”や“愛着障害”といった枠組みにはめて逃げていました.その逃げによる木村さんの怒りに直面化して悩んでいる私を,本来の医師−患者関係に戻してくれた一言でした.

思い返せば,この一言の前にも指導医は何度も気づきを得られるようにジャブを打ってくれていました.プレゼンをするごとに「もっと話を聞いてきてね」と指導医から注意されており,そのたびに「聞いてるっちゅーねん」と思いながら患者さんの話を聞きに行く毎日でした.「自分の枠組みにあてはめずに,正面から話を聞いてきなさい」という意味だったと最後にはわかるのですが.

4ふりかえり

研修を行う前は「心療内科にはすごい画期的な方法論があって,それを学べば心身症の患者さんを治すことができる」と思っていた部分がありました.しかし実際に研修してみると,疾患や治療方法を学ぶ以上に,診療を通じて自分の内面をとことん見つめた3カ月でした.家庭医の研修のなかでも「ふりかえり」は何度も言われたり言ったりする言葉ではあるのですが,言うほど簡単ではありません.自分のプライドや陰性感情と向き合うことは辛く,大きなストレスです.この自分のふりかえり(内省)を通して,心身症を抱えている患者さんも同じようなストレスを感じている,また診療において感じさせていると実感できたことは大きな気づきでした.

5今にも生きる心療内科の研修

診療以外にも,生きているとさまざまな苦難に出会います.他人との関係に悩んだり,自分の感情にふりまわされたり,そんなときにも心療内科で得た経験が私を内省に導いてくれます.内省できない状況でも,「今自分はそういう状態じゃないんだな.もう少し時間をおいてみよう」と冷静に対応することができるようになりました.家庭医療研修のなかで培われたものもありますが,大きなきっかけを得たのは心療内科での体験だったと思います.

心療内科の研修医でも,関西医大の卒業生でもない私を受け入れてくれた医局の皆さんには頭が上がりません.研修での学びがみなさまに伝われば幸いです.

プロフィール

玉井友里子(Yuriko Tamai)
湯郷ファミリークリニック/岡山家庭医療センター
家庭医療専門医.医療のかたわら,岡山県美作市上山で棚田の再生とにんにく生産を行っています.春にはウグイスが啼き,秋には雲海が出て桃源郷のようです.民泊もキャンプ場も温泉もあるので遊びに来てくださいね.
本記事の掲載号

Gノート 2020年12月号 Vol.7 No.8
内科診療の幅がグンと広がる!⼼療内科的アプローチ
これって⼼⾝症?患者さんの“治す⼒”を引き出すミカタ

大武陽一,森川 暢,酒井清裕/編
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