「コラム:病院総合医が心療内科を学ぶ意義」:内科診療の幅がグンと広がる! 心療内科的アプローチ:Gノート

はじめに

筆者は病院総合医ですが,病院総合医として心療内科を学ぶ意義はとてもあるように感じます.その理由を述べてみたいと思います.

1診断力を強化する

心療内科は内科の一部門であり,身体症状を主に扱います.よって,臨床推論能力がまずは基礎になります.例えば倦怠感を主訴にやってきた方をどのように心身症と診断するのでしょうか? まずは内科疾患の除外が優先されます.例えば体重減少があれば悪性腫瘍を念頭に置く必要があります.さらに副腎不全では非特異的な倦怠感,食欲低下,抑うつなどで発症することもあり,うつ病との鑑別が難しいこともあります.甲状腺機能低下症やビタミン・微量元素の欠乏もまた,うつ病との鑑別が難しいことがあります.またCRPや血沈が上昇していればリウマチ性多発筋痛症や結核などを疑うきっかけになります.

では,どこまでも徹底的に検査をすべきなのでしょうか? ここで心療内科的な考え方が役に立ちます.つまり,病歴聴取と身体診察,侵襲性の少ない検査で異常がなく,心理社会的要因がきっかけとなり症状が発症し,さらに心療内科的なフレームワークで症状が十分に説明可能である場合はひとまず心身症として扱うことは妥当だと思います.そして心身症としての治療介入を行うことで症状がよくなる場合は,不要な検査を行わずにすむかもしれません.

2BPSモデルを強化する

BPSモデル(Bio-Psycho-Social model)は総合診療医の基本となる考え方です.日本語でいえば,生物,心理,社会の3つの要因で考えるということです.当たり前かもしれませんが,生物,心理,社会とただ分類して考えるだけではBPSモデルは真価を発揮しません.そこで大切になるのは生物,心理,社会の3つの要因がシステムとして相互に連携し影響しあう円環図であることを意識することになります.例えば,50歳の男性が配置転換をきっかけとして,仕事がうまくいかなくなり,うつ病を発症し,ストレスで過食となることで糖尿病が悪化した症例を考えましょう.この場合,糖尿病を改善するためには,ただ糖尿病治療薬を導入するだけでは難しいことがあります.よってまずは少ない力で大きな作用をシステムに及ぼすポイントを探す必要があります.昇進という社会的要因がレバレッジポイントだとすると,産業医と連携して再度の配置転換を模索する必要があります.配置転換で元の仕事に戻ることで,抑うつが軽減され,さらにそれによって過食がなくなることで糖尿病も改善しさらに抑うつも改善するという好循環が回りはじめます.

このように円環的にBPSモデルを捉えることは病院総合医の本質的な能力の1つです.心療内科もBPSモデルを使用しており両者の考え方は非常に似ているといえます.そのうえで病院総合医が心療内科の考え方を学ぶと心理的な側面についてより深くかつ鮮明に理解することが可能になります.特に認知のゆがみや行動についての理解が進みます.その結果BPSモデルが強化され,より心理的な問題への対応ができるように感じます.

3漢方診療を強化する

心身症を疑ったときに外来で漢方薬を使えるようになると幅が広がります〔「心身症の治療に漢方薬も使いこなします!!」も参照(p.1332)〕.漢方薬の最もよいところは,採血の検査結果待ちの間でもマネジメントを先に進めることができることだと思います.検査結果が当日に出ない場合,結果が出るまでは特にやることがなくなってしまいます.ここで,まずは漢方薬で症状に対応することで,次に起こすべきアクションの視界が格段に開けます.例えば,冷えを伴う倦怠感では 真武湯 しんぶとう が著効することがあります.コルチゾールなどの採血結果を待ちつつ,真武湯を試すことで検査結果待ちの間でも次のステップに進めることができます.認知行動療法をとり入れることで漢方薬の効果も相乗作用で増強されるように感じますし,心療内科領域で多用される漢方薬の使い方を学ぶことでよりよい診療ができるようになります.

おわりに

最後に岩井 寛先生の森田療法(講談社現代新書)1)という本が非常に興味深かったので紹介します.精神科医であり森田療法の第1人者である精神科医が,末期がんに侵され足も不自由になり失明状態となったにもかかわらず口述記述で死の間際に書き上げた異色の書であり,森田療法の入門書です.われわれには日々,不安や葛藤などの苦悩があります.それらの苦悩を完全にないものにしようと努力すればするほど,「苦悩にとらわれます」.よって,苦悩を「あるがまま」としいったん受け止めることで,逆に自己実現に向けて「目的本位」の選択を日々行うことが可能になるという考え方です.その選択の先に「人間の尊厳」があり,それを選択する姿勢こそが「自由」です.

病院総合医はまだ確立されていない領域であり,日々コンフリクトにさらされることが多いと思います.だからこそ,「あるがまま」にそれを受け止め,自己実現あるいは他者貢献のためによりよい道を選択する.それこそが病院総合医の「自由」ではないでしょうか.

文 献

  • 1)「森田療法」(岩井 寛/著),講談社,1986

プロフィール

森川 暢(Toru Morikawa)
市立奈良病院 総合診療科
地元の奈良市に戻り病院総合医を行って2年目になりました.総合内科をベースに家庭医療学を融合した病院総合医像を模索しています.Wixで市立奈良病院総合診療科のホームページができました.さらに,インスタグラムも市立奈良病院総合診療科として始めました.最近はWeb勉強会もガンガンしていますので,ぜひ奈良に遊びに来てください!
本記事の掲載号

Gノート 2020年12月号 Vol.7 No.8
内科診療の幅がグンと広がる!⼼療内科的アプローチ
これって⼼⾝症?患者さんの“治す⼒”を引き出すミカタ

大武陽一,森川 暢,酒井清裕/編
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