「コラム:心療内科研修へのいざない」:内科診療の幅がグンと広がる! 心療内科的アプローチ:Gノート

はじめに

今回の特集,いかがでしたでしょうか?

『心療内科・心身医学の魅力を,ぜひ総合診療医の先生方に知っていただきたい!』というふとした思い(妄想?)から,この企画が実現しました.

このコラムでは,わたし自身がどのように心療内科に出逢い,心療内科研修で何を学んだのか? についてお伝えすることで,少しでも心療内科や心身医学の世界に興味をもっていただければと思います.

1心療内科に出逢うまで

私は大学時代より「ジェネラルマインドをもったスペシャリスト(腎臓内科医)」になろうと思っていました.問診や身体診察を重要視した研修に力を入れている市中病院で初期臨床研修をした後,腎臓内科の後期研修を行いました.そこでは上司の理解もあり,腎臓以外の疾患も多く診させてもらっていました.しかし,壁に当たります.慢性腎臓病の患者さんのさまざまな訴えに対応できない,また腎代替療法(透析や腎移植)の療法選択がうまく進められない,などです.

そんな折に,とある勉強会で心療内科の先生方に出逢いました.当時のわたしは卒前・卒後教育で一度も“心療内科”に出逢う機会がなく「心療内科=プチ精神科」と思っていました(今ではとても恥ずかしい過去です…).しかし「心療内科は内科である」ということを知り,これは自分の診療を見直すよい機会かもしれないという直感で,心療内科の門を叩くことにしました.

2心療内科研修中の指導医の名言

心療内科での研修中はとにかく衝撃の毎日でした.診療のスタイルや,回診のしかた,カンファレンスのあり方,などなど,すべて初期研修医に戻った気分で臨みました.研修のすべてをお伝えすることは誌面の関係上難しく,指導医からいただいた名言(迷言)とともに心療内科研修を振り返ります.

「Not Dr.ペース,But患者ペース」

往々にしてわれわれ医療者は患者を“管理”する傾向にあります.しかし,実際に“病”をもつのは患者自身であり,“病”とどのように向き合うかを患者自身が我が事として考えられるよう“援助”する立場に身を置く必要もときにあります.

「誰が困っている? 患者さん? 家族? 先生?」

家族療法の考え方でIP(Identified Patient)という言葉があります.直訳すると「患者とされた人」となりますが,家族システム論では,困っているのは実は患者自身ではないということもしばしば経験します.全体構造を把握し,どこにアプローチするかを見極めるのが大切です.

「先生は,この患者さんのこと,どう思ってるの?」

患者さんに対しての自身の感情の振り返りはとても大切です.ネガティブな感情だけでなく,ポジティブな感情も解釈し,なぜそのような体験が生まれるのか,患者自身はどのように体験しているのかを理解することで,治療に活かしていくのが心療内科医の強みです.

「患者さんにとっての病気の“意味”は?」

病の意味を理解し,語りだすことで治療が進む患者さんにも,ときどき出会います.「◯◯(病気)になったから,…できない」から「◯◯(病気)になったから,…できた」というパラダイムシフトが起こる瞬間まで,この患者さんの成長を待つ姿勢はとても大切です.

3心療内科研修を終えて…

3年間の心療内科の研修を終えて,再び腎臓の診療に戻ったときの衝撃はいまだに忘れません.今までいかに狭い視野で医療をしていたか,ということを思い知らされた心療内科研修でした.現在は腎臓内科の道からは少し外れて,一般内科医として勤務しつつ,非常勤で心療内科・緩和ケア診療に携わっていますが,現在でも診療の1つひとつに心療内科研修で学んだことが活かされていると思います.

「心療内科研修を行ってよかったこと」は,3つあります.

  • ① 患者さんのことが,より深くわかるよう(わかろうと思うよう)になった
  • ② 自分の診療を「観の目」を用いながら見直す習慣がついた
  • ③ 自分のメンタルヘルスに注意を向けられるようになった

ほかにもさまざまな「よかったこと」はありますが,また別の機会にいたしましょう.

おわりに

いかがでしょうか? あなたも心療内科研修をしたくなったでしょう? そんなあなたには,全国各地の心療内科医がお待ちしております〔心療内科医はシャイな人が多いので,自分からはあまり人に絡みませんが(笑),話しかければ皆,気さくな人たちばかりです〕.

ようこそ心療内科・心身医学の世界へ!(強引過ぎる勧誘…)

文 献

  • 1)「心療内科初診の心得 症例からのメッセージ」(中井吉英/著),三輪書店,2005
  • 2)「からだと心を診る 心療内科からの47の物語」(中井吉英/著),オフィスエム,2001
  • 3)「心療内科」(池見酉次郎/著),中央公論社,1950

プロフィール

大武陽一(Yoichi Ohtake)
伊丹せいふう病院 内科/堺市立総合医療センター 心療内科・緩和ケア科
今回の特集,皆さまいかがでしたでしょうか?今回の特集で,少しでも心身医学や心療内科に興味・関心をもっていただき,心療内科の研修を考えてくださる先生がおひとりでもいれば,これ以上の喜びはありません.執筆いただいた方々は全国各地の第一線で心療内科診療に当たっておられる先生方です.研修のご希望や,心身症の診療でお困りの際にはいつでもお問い合わせください.Twitter:@naikaitakeo
本記事の掲載号

Gノート 2020年12月号 Vol.7 No.8
内科診療の幅がグンと広がる!⼼療内科的アプローチ
これって⼼⾝症?患者さんの“治す⼒”を引き出すミカタ

大武陽一,森川 暢,酒井清裕/編
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