アメリカのCOVID-19事情〜オハイオ州での経験から:〈緊急特別寄稿〉 アメリカのCOVID-19事情〜オハイオ州での経験から:〈緊急特別寄稿〉 アメリカのCOVID-19事情〜オハイオ州での経験から:〈緊急特別寄稿〉

私は現在,アメリカのオハイオ州でシニアレジデントとして臨床留学をしています.私の研修は内科と小児科両方の専門医を4年かけて取得するもので,もうすぐ3年目が終わろうとしています.今回は,私がオハイオ州で経験したCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)事情について書かせていただきました.オハイオ州の人口は約1,200万人,北海道より少し大きいくらいの面積で,65歳以上の人口比率は16.2%です.私の病院は300〜400床で,地域では貧困層を含め幅広い患者層を受け入れています.内科“レジデント”だけで100人近くいるので,日本の大規模病院よりマンパワーにはゆとりがあります.オハイオ州で確認された感染者数は2020年4月22日時点で約14,000人,50州中14位と比較的多いです1).アメリカは感染爆発と医療崩壊が数週間で起こっている点で日本とは状況が異なりますので,それを踏まえて読んでいただければと思います.

私の働く病院での変化(

●2月4週目

1日の新規患者数はアメリカで20〜30人以下でした.中国やイタリアの状況はニュースになっていましたが,医療従事者含め国民の多くは楽観的だったように思います.私はちょうど感染症科をローテーションしていたのですが,議論の中心は海外渡航者の隔離や検査基準でした.医療資源,ICUや医療崩壊の可能性について言及する人は私の周りではいなかったです.

●3月1週目

アメリカの患者数が徐々に増加してきました.職員が流行国に渡航した場合,2週間自主隔離するよう病院より指示がありました.この時点では,水際対策でなんとかなるだろう,そこまで酷いことにはならないだろう,と私も思っていました.新規患者数はアメリカ全体で100人/日ほどでした.

●3月2週目

指数関数的な患者数増加を受けて病院の体制が一気に変わりました.予定手術は基本的に延期,外来はほぼすべて電話受診やビデオ受診に移行,病院入口での全職員への検温もはじまりました.入院患者への訪問制限がかかり,原則お見舞いは禁止,産科とNICUの付き添いは1人までと決まりました.入院ベッドにはiPadが設置され,家族や友人と連絡をとってもらうようになりました.また,感染症科感染管理チーム指導のもとで院内PCR検査ができるようになりました.職場でのミーティングやレクチャーはすべてオンラインに移行.新規患者数はアメリカ全体で700人/日まで増えました.

●3月3週目

アメリカでは初期段階から軽症者を自宅療養にしていたため,前週までCOVID-19の入院患者はほとんどいなかったのですが,この頃から入院が必要な重症者が増えてきました.ニューヨークでは放射線科研修医が内科外来に駆り出されたらしい,呼吸器やICU病床が足りなくなるかもしれない,とレジデント同士で話し合ったのを覚えています.先が全く見通せず,職場に緊張と不安が広がりました.CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)が目を見張るスピード感でガイドラインを更新し,院内のルールもそれに合わせて日々変わっていきました.急変対応など細かな改善点が多くあり,その都度ルールの見直しも行われました.職員向けには感染症科からオンラインレクチャーやメールでの説明が毎日ありました.新規患者数はアメリカ全体で6,000人/日を超えました.

●3月4週目

ニューヨークで医療崩壊が一気に進みました.救急は患者で溢れかえり,医療資源も供給が追いつかなかったようです.幸いにもオハイオ州は十分な医療資源があり,何かが足りないという状況はなかったです.私はこのとき新規入院をインターンにアサインする仕事をしていたのですが,陰圧管理病床が日々埋まっていくのがとても怖かったのを覚えています.循環器病棟にCOVID-19疑い患者を入院させたとき,自分の職場がいよいよ崩壊すると本気で思いました.この頃からアメリカ全体で毎日2〜30,000人もの新規患者が出るようになりました.

●4月1週目

手術の延期によって患者数が減った外科病棟を縮小することでCOVID-19専用ICUが新設され,シニアレジデント(内科研修3〜4年目のレジデント)とICU指導医がCOVID-19専用ICUで働くこととなりました.自主隔離の目的もあり,12時間×7日勤務の後は7日完全休みという体制です.これらの変更によってICU指導医やフェローが不足したため,比較的病状が安定しているICU患者は内科ホスピタリスト(病棟医)が代役で担当することとなりました.

この週は体調不良を訴える医療者が増え,複数のバックアップが必要になりました.3月から緊張しっぱなしだったので,みんな精神的に疲弊していたように思います.

一方でよいニュースもあり,感染者数ピークの見通しが立ちました.同僚たちと「あと2週間頑張ったら減っていくね」と合言葉のように話したのを覚えています.

●4月2週目以降

新設されたCOVID-19専用ICUや病棟の稼働率は常に高かったですが,ピークや必要な医療物資の見通しが立っていた分,職場の雰囲気はよくなってきました.病床や人員についても,十分なバックアップ体制が整ってきました.感染のピークが過ぎたと考えられている現時点(4月22日)では,段階的に外来を再開しようとしています.今後の状況によってどうなるか,まだまだ気は抜けません.

社会の変化(

オハイオ州では早期から外出禁止令が発令され,レストランでは持ち帰り以外営業禁止となりました.トイレットペーパーの買い占めは少しだけあったようですが,個人的に生活物資が不足して困ることはなかったです.Social Distancing(社会的距離戦略)は対応策の軸となり,他人との距離を6 feet開けるルールが徹底されました.アパートのエレベーターはできるだけ一緒に乗らない,スーパーマーケットの入店者数制限,レジに並ぶときは間隔を開ける.Social Distancingは1〜2週間のうちにごく当たり前のものとなりました.CDCの推奨に異論を唱えるメディア・市民はあまりおらず,CDCへの信頼の高さが伺えました.

4月22日現在,外出禁止になって4週間が経ちましたが残念ながら治安が悪くなってきたようです.PCR検査をするふりをして家に入ろうとする案件もあったと聞きました.生活必需扱いで営業を許可された業種には銃販売も含まれており,COVID-19による治安悪化を受けて銃の売り上げが伸びています.

学校に関しては現時点で大半の州が9月までの休校を決めており,子どもたちはオンラインで勉強をしています.私の病院では,医学生・看護学生も9月まで院内実習ができなくなりました.

人の変化

COVID-19によってアメリカ人の生活や意識も,変化してきているように思います.昨年まで街中でマスクをする人はほとんど見ませんでしたが,今は街中で見るほとんどの人がマスクをしています.友達同士でのハグや握手もなくなりました.仲のよい同僚と病院の廊下で会うといつも握手をしていたのですが,3月になると「今はこうやってやるんだよ」と肘と肘をぶつけ合うだけの挨拶になり,今ではとうとうそのコンタクトもなくなってしまいました.6 feet離れてマスク越しに話すだけです.COVID-19が落ち着いたあと,アメリカやヨーロッパの文化はどうなっていくのでしょうか.

参考にしていたリソース

  • CDC COVID-19情報サイト:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/index.html
    →院内対応だけでなく介護施設や患者搬送などさまざまな角度から実践的な対応策がまとめてあり,国も病院もCDCの推奨を中心に方針を決定していました.ガイドラインが毎日更新されるので頻繁にチェックしていました.
  • COVID-19 Projections:https://covid19.healthdata.org/united-states-of-america
    →University of Washingtonが作成したサイトです.感染ピークや医療資源需要の予想がまとめてあります.残念ながら日本は含まれていません.
  • Johns Hopkins Coronavirus Resource Center :https://coronavirus.jhu.edu/map.html
    →新規感染者数,死者数の統計はこのサイトで確認していました.

文献

著者プロフィール

吉井 光
2013-2015年 亀田総合病院 初期研修
2015-2016年 横須賀海軍病院 フェロー
2016年より渡米.現在はオハイオ州の病院勤務
本記事の掲載号

Gノート 2020年6月号 Vol.7 No.4
現場で知っトク!歯と口腔の基礎知識

弘中祥司/編
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