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第6回 生物心理社会モデルと家族や地域の階層に注目したアプローチ
病い(illness)を捉えた視点でみる

和田嵩平,松下 明(岡山総合診療医専門コース)

今回は私の所属する岡山家庭医療センターで家庭医が日々実践している,家庭医ならではの診療を紹介したいと思います.岡山家庭医療センターは岡山県県北にある3つの無床診療所からなります.それぞれの診療所に家庭医が複数名所属し,0歳から100歳までのあらゆる健康問題の窓口となれるような診療に努めています.変わったことを言っているように思われるかもしれませんが,私たち家庭医も日々の診療で,生物医学的(biological)な考え方で解決できる方法を模索します.ただ,それだけではうまくいかない経験をしたことはありませんか?それはなぜでしょうか?患者の抱える健康問題を疾患(disease)として生物医学的に捉えるだけでなく,病い(illness)としてもっと大きな視点で捉えてみることも大事だからです.

Tips 1:生物心理社会的側面に注目したマクロな視点をもつ

大きな視点でとらえる考え方として生物心理社会モデル(bio-psycho-social model)を紹介したいと思います.これはEngelが提唱した概念で1,2),医療において生物医学的な理解は必要だが,同時に人としての側面,かかわる他人との関係や家族,コミュニティといった側面も理解していこうというものです.病いを抱えている人にはどのような現象が起きているのか?生物的,心理的,社会的側面が存在しており,これらの側面は「神経では?臓器では?」とよりミクロな階層で考えていく一方で,「家族内では?地域では?」とマクロな階層で考えていくことができます.それぞれの階層が互いに影響しています.私たちは,病いを抱えている人がこのような複雑なシステムのなかにいることを理解してかかわる必要があります.

のように階層は多数に分かれていますが,ここからは家族の階層,地域の階層について述べていきたいと思います.

図 生物心理社会モデルのシステム階層 1)

Tips 2:家族という枠組みのなかで患者を診ていく

まず家族の階層として,家族志向型ケアを紹介します.これは患者さんに対する医療を家族という枠組みで捉えようとするものです.患者さんを家族という枠組みで捉える理由はいくつかあります.

  • ① 家族は患者さんの健康に関する考えや行動を決定づけます.
  • ② 家族ライフサイクルの移行期にはストレスが身体症状として現れます(例:思春期の子どもをもつ母親は心身のバランスを崩しやすいです).
  • ③ 身体症状は家族の機能を保つために存在することがあります(例:子どもが喘息発作を起こすことで夫婦喧嘩を止めさせることがあります).
  • ④ 家族は患者さんにとって貴重な「資源」であり,治療において強力なサポートとなります(例:糖尿病患者の食事や内服管理で家族の協力は絶大な効果を示します).

このような理由から,私たちは家族という枠組みのなかで患者さんを診ていくことがあります.家族という枠組みの捉え方ですが,まず家族構成を把握することからはじまります.身近な家族だけでなく,遠方の家族も含めた構成員まで把握することが重要です.家族の構成員が把握できたところで,次に家族内での関係性や役割について把握します(例:親が親として,子が子としての立ち位置にいるか,家族内で距離感が近すぎたり,逆に遠すぎたりする関係はないか,家族内での責任者は誰か,など).またどのような家族でも家族ライフサイクルと呼ばれる,ある程度共通した歴史があります.家族ライフサイクルにはそれぞれの時期に対応した発達課題()というものがあり,達成できていないとストレスとなって,関係性や症状に影響を与えることがあります.

表 家族ライフサイクルと各ステージの発達課題 3)

このような情報から,家族という枠組みのなかで患者さん本人を中心として何が起こっているのかを考えていくことが一般的な家族志向型ケアですが,岡山家庭医療センターの診療所では,付き添いで一緒に来院した家族や,また別の日に別の要件で来院した家族を中心に捉え直しながら,家族に丸ごと関わる診療を心掛けています.

Tips 3:コミュニティにともに

次に,地域の階層について説明していきます.英語のCommunityには場所としての地域を意味することもあれば,人の集団を意味することもあります.今回は「地域に住んでいる人の集団」として扱います.

地域に住んでいる人の集団に対する医療のアプローチにはさまざまなものがありますが,いずれも一医療者として,その地域・集団の持続的な発展や幸福,安心のためにコミュニティとともに活動を行うものだと思います.

この「コミュニティとともに」が重要です.世界保健機構(WHO)は2008年にプライマリヘルスケア改革を提唱しています4).このなかの「サービス提供体制のあり方の改革」では,疾患や臓器ではなく「人」を中心に据え,包括的で統合されたケアを提供し,継続的な人間関係を重視すること,医療サービスの入り口としてこういった能力をもつ医師(家庭医・総合診療医)を含むプライマリ・ケアチームが地域・コミュニティの健康に関するハブとして機能すべきであるとしています5).わかりやすい例としては,他の診療科や医療機関に紹介することも1つのハブ機能でしょう.気になる患者さんがいた場合に地域包括支援センターなどの公的機関を紹介することもハブ機能の1つです.

医師がハブとしての機能を果たすためには,人と人とのつながりが必要ですが,診療所や病院の中にいるだけでは限界を感じませんか?時には私たちが診察室から出て,人とのつながりを求めていくことも必要です.敷居が高いものと感じられる人も多いかと思います(私も大変苦手です)が,コミュニティとともに持続的な発展や幸福,安心を実現していきたいという思いがあれば,まず大丈夫です.最近の私の例としては,町や社会福祉協議会,外部の法人と連携しつつ,町内の高齢男性と一緒に住みよいまちづくりに取り組んでみたり,市内の薬剤師や看護師,介護支援員などとカフェ形式で意見交換を行う会に参加したりしています.いずれの会も肩ひじ張らずに楽しく参加させてもらっています.

おわりに

今回,岡山家庭医療センターで家庭医が日々実践している,家庭医ならではの診療ということで,生物心理社会モデルと家族や地域の階層に注目したアプローチの一部を紹介しました.家庭医療専門医を特徴づける5つの能力のうちの3つを一度に紹介しているため,かいつまんだ紹介となっていますが,これを読んだ皆さんに,家庭医の行う診療が少しでもリアルに想像していただけたら幸いです.

文献

  1. Engel GL:The clinical application of the biopsychosocial model. Am J Psychiatry, 137:535-544, 1980
  2. 横谷省治:第2章 基本研修リスト.第2節 生物心理社会モデル.「日本プライマリ・ケア連合学会基本研修ハンドブック.改訂2版」(日本プライマリ・ケア連合学会/編),pp70-78,南山堂,2013
  3. 若林英樹,訳:第3章 家族システムの概念-プライマリ・ケアにおいて家族を評価するツール.「家族志向のプライマリ・ケア」(McDaniel SH, 他/著,松下 明/監訳),pp26-39,丸善出版,2012
  4. World Health Organization:The World Health Report 2008 Primary Health Care – Now More Than Ever. 2008
  5. 山田康介:第6章 地域・コミュニティを視野に入れた包括的アプローチ.「家庭医療のエッセンス」(草場鉄周/編),pp205-246,カイ書林,2012

Profile

和田嵩平(Takahira Wada)
社会医療法人清風会 岡山家庭医療センター 湯郷ファミリークリニック
病気だけでなく,患者さんや家族のことも考えた医療を提供すること,長い付き合いになることを視野にいれ関わっていくことに魅かれ,私は家庭医療という道を選択し,岡山家庭医療センターの門を叩きました.家庭医療に興味のある方はもちろんですが,家庭医療とは?と疑問に思われている方もぜひ一度見学に来てみませんか?
松下 明(Akira Matsushita)
社会医療法人清風会 岡山家庭医療センター 奈義・津山・湯郷ファミリークリニック所長 日本プライマリ・ケア連合学会理事
岡山県の田舎で生物心理社会モデルを意識して,家族図を駆使した診療と教育を心がけています.
  • 第7回は9月28日に公開予定です.どうぞお楽しみに!
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