赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《福井県 高浜町》
野瀬 豊町長

《地域の概要》福井県・高浜町
写真はブルーフラッグを取得した若狭和田ビーチと町の全景
《地域の概要》福井県・高浜町
人 口:
10,500 人(高齢化率30%)
面 積:
72 km2(人口密度146 人/km2
地域の特性:
アジアではじめてビーチの国際環境認証「ブルーフラッグ」を取得した,8 km続く海岸が自慢の,福井県最西端に位置する町.町内に病院1(急性期40床),診療所3(無床).主な産業は漁業,農業,観光業,発電所関連産業.
福井県高浜町の野瀬豊町長は,当時県内最年少の48歳で町長になった,元パティシエさんです! 市区町村単独では全国初となる医学部寄附講座を福井大学に設置したんだって! ! そんな町長さんの思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

町民が住んでいることを誇れる町へ

赤ふん坊や野瀬町長,こんにちは! 高浜町って,2016年4月にアジアではじめてビーチの国際環境認証「ブルーフラッグ」を取得した若狭和田ビーチをはじめ,8 km続く8つの海水浴場が印象的な町だよね! 夏は海水浴,冬は海の幸,とってもいいところだよ!! 皆さん,ぜひ高浜町に遊びに来てくださいね~♪ 読んでいただきありがとうございました!(第1回 終)

野瀬ちょっとちょっと! 今日は取材じゃなかった?

坊やはっ! そうでした!! つい本業のくせが☆ 町長は,元パティシエなんだよね! おとなしくケーキつくってりゃよかったものを,どうしてまた調子に乗って町長なんかに?

野瀬地元だからって失礼すぎでしょ(笑) 私は高浜町に生まれ育ち,いったん東京に出ましたが,22歳で高浜へUターンで戻ってきました.パティシエとして懸命に働いて,地元の人に喜んでもらおうとさまざまな洋菓子をプロデュースしていました.がむしゃらに頑張ってきて,30代後半になり,ふと気になったのが,住んでいる地元高浜町の今後の在り方でした.減少に転じる人口,にわかに減少する海水浴客…….そんな39歳のときに,町議会議員補欠選挙があり,思い立って立候補して当選し,約4年間町議会議員として地域のプロデュースについて発案していきました.そのなかで町への思いがどんどん膨らんでいき,自然と町長をめざすようになりました.44歳で町長選に初出馬したものの惜敗し,町の皆さんの応援もあって,48歳のときに初当選したんです.

坊やへ~〔意外とちゃんと考えてたんだぁ(汗)〕.じゃあ町長は,この町をどんな町にしたいと思ってるの?

野瀬この町はとにかく景観がきれいな町です.さっき紹介してくれたブルーフラッグ取得をはじめ,海が自慢なことは確かですが,若狭富士と称される町の西端の青葉山も素晴らしく,とにかく自然が豊かです.そこに住むわれわれは,漁業や農業,観光業などの恩恵を受けて生活しています.人口規模的に日本のちょうど1万分の1の縮図の町として,地方の小さい町だけど町民が住んでいることを誇れる町にしたいですね.

坊やボクも,町民が赤ふんを締めていることを誇れる町にしたいです! 赤ふん条例の制定,よろしくお願いします!!

野瀬か,考えとくね……(汗)

住民・行政・専門職がバランスよく取り組む

坊や高浜町では今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?

野瀬私が町長になった平成20年(2008年)は,まずとにかく町の医療が危ない状況でした.平成13年に町内に13名いた医師は,平成20年には5名にまで減少し,社会保険高浜病院(現・JCHO若狭高浜病院)は一時期2名まで医師数が減少して,存続が危ぶまれていました.私はマニフェストにも地域医療の充実を掲げ,当選してすぐに地域医療対策ワーキンググループを結成,そこで出た地域医療対策専任部署および全国初の市区町村単独医学部寄附講座の設置案を実現させ,「地域医療推進室」および「福井大学医学部地域プライマリケア講座」が誕生しました.ワーキンググループで特に重要な課題としてあがっていた「医師不足」と「住民の関心のなさ」について,町と大学がタッグを組んで「医学教育」と「住民啓発」に取り組み,年間120名以上の学生・研修医の訪れる町となりました.そのなかから町に残ってくださる医師が現れ,平成29年度の医師数は13名まで回復しました.

また,住民の立場で地域医療のためにできることを模索し実行する有志団体「たかはま地域医療サポーターの会」が立ち上がり,地域医療を守り育てる五 条( 心を持とう, かりつけを持とう, らだづくりに取り組もう, 生教育に協力しよう, 謝の気持ちを伝えよう)を提言され,町内での普及啓発活動に取り組んでいただいた結果,町民の医療への関心も高まったように感じています.そしてさらに最近では,「まちに出るほど健康になれるまち」をめざした取り組みを“地域主体”に,つまり,住民も行政も専門職も,みんなが一体となって取り組んでおり,その1つが,通称「 健高 けんこう カフェ」と呼んでいる「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」という集会です.分野・立場に関係なく自由参加で月1回まちなかのコミュニティスペースに集まり,毎回テーマを設定して自由におしゃべりをするなかで,それぞれの立場でできることを掘り起こし,無理なくできる範囲で実現させていく取り組みです.専門職だけ,行政だけが頑張っている地域は数多くあると思いますが,住民・行政・専門職がバランスよく前向きに取り組んでいるのが,うちの町の自慢です.そんな取り組みのきっかけを出してくれている高浜町内の総合診療医の先生方には感謝していますし,逆にわれわれ行政は総合診療医の先生方が動きやすい環境を用意する必要があるのでしょう.

坊やじゃあ,ボクにも動きやすい最高級赤ふんを用意してくれるんだね!? わーいわーい\(^o^)/

野瀬ら,来年度の予算案に入るといいね……(汗)

100年後も存続できる町をめざして

坊やでは,高浜町はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

野瀬そうですね,今,健康分野において,地域のつながりや絆といった「ソーシャル・キャピタル」を地域主体に醸成させていく流れができつつあります.これは,人口減少社会において,地域全体の取り組みとして発展させないと十分に効果が発揮されないと思いますし,健康以外の分野のためにもそうすべきだと感じているところです.例えば今,健高カフェから発信された取り組みとして,高浜町オリジナルの「赤ふん坊や体操」を健康分野×教育分野で開発し,これをただ単に介護予防体操とするのではなく,あらゆる年代のあらゆる機会に体操を通じて地域のつながりを醸成するようなきっかけにできればという動きがあります.このような全町的な動きを行政として全力で支援し,100年後も存続できる町をめざしていきたいと思います.

坊やそうそう,ボクの体操ができたんだよね!! もちろん赤ふん一丁でやる体操でしょ?

野瀬そんな町,10年ともたないよね……(涙)

専門職側から距離を近しく

坊やでは,町長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

野瀬そうですね,医療や健康の分野は,箱モノのような成果が目に見えにくい分野ですよね.しかも,専門的で難しく,非専門職からは敬遠されがちかとも思います.そんな分野だからこそ,専門職側から距離を近しくしてくださることは,行政として非常に嬉しいことです.距離が近いというのは,仲がよい,気が知れているということだけではなく,医療や健康分野に固執せずに,幅広い視点でかかわってきてくれるということも含んでいます.高浜町では,“いか☆やん”こと井階友貴先生をはじめ,総合診療医の先生方が私ともあだ名で呼び合うほど本当にフレンドリーで,しかも驚くほど地域全体に目線が向いています.そのように,健康分野と分野外とのギリギリのところを攻められる総合診療医の先生が各地に増えれば,地方自治体,ひいては日本が救われると確信しています.

坊やそうだよね,いか☆やんは,赤ふん一丁のボクに白衣を着せたりして,ギリギリのところを攻めてるもんね! ギリセーフだけど☆

野瀬アウトだと思います……(汗)

取材の記念にウチのめいやーと,赤ふん型ケーキの開発をお願いしておきました!
取材の記念にウチのめいやーと,赤ふん型ケーキの開発をお願いしておきました!

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

野瀬地方は人口減少など暗い話題が多いですが,逆に,人が求められている,舞台が用意されている,実現できるというよさも秘めているところです.皆さんが活躍できる場は東京ではなく高浜です! ぜひ高浜町での勤務をご検討ください♪

坊やボクからもお願いします,ボクと一緒に赤ふんを世界に広めてくれる人を募集します! 20名まで,役場で責任もちますので☆

野瀬え?(汗)

坊や野瀬町長,今日は忙しいなかありがとう! 次回は,宮崎県延岡市の首藤正治前市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

健康分野にとらわれない,つながり・絆・近接性のある地域志向アプローチで,人も地域も健康に.
赤ふんウォッチ
健康カフェの様子.「ふんどし」をテーマに開催してくれないかな〜☆

実際に,「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」にお邪魔しました! 平日の夜にもかかわらず,20人以上の人が集まっていました.たかはま地域医療サポーターの会や役場ヘルスケア関連部署,病院・診療所の皆さんだけじゃなく,公民館やまちづくり系NPO法人,役場総合政策・教育・産業関連部署の皆さんなど,バラエティ豊かな参加者でした.この回は海の町・高浜らしく,「魚」をテーマにおしゃべりしていたよ.さまざまな食材を使ったつみれ鍋の屋台をやろう!とか,町オリジナルのたい焼きを開発しよう!とか,楽しそうなお話だったけど,正直,これって健康に関係あるの? って思っちゃった(^_^;) 町から健康のまちづくりプロデューサーを委嘱されて健高カフェを提案している,福井大学医学部地域プライマリケア講座の井階友貴先生曰く,「世の中のあらゆる事象は健康に結びついているんです.健康と関係なさそうなことをきっかけに地域のつながりや社会参加が増えることが,町民と町が健康になっているということなんですよ.最近では,いかに“健康”という言葉を使わないかに固執しています(笑)」とのこと.その方が,健康に無関心な人とも一緒にやっていけるんだって! ボクも,いかに赤ふんと言わずに赤ふんを普及できるか,考えよっと!

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 「ソーシャル・キャピタル」

日本語で「社会関係資本」などと訳される,人々の協調・協力関係を促進し,社会を円滑・効率的に機能させる要素の集合概念のこと.人々の結束や絆,互助,社会参加,信頼関係,付き合い・交流などによってもたらされる効果・利益を指します.このソーシャル・キャピタル,これからの日本に非常に重要だと考えているのですが,その理由は,優れている地域はそうでない地域と比して死亡率が低いなど,健康分野での強力な効果が確認されているだけでなく,教育や治安,経済といった分野にまで効果をもたらすことがわかっているからです(図).また,健康にとらわれない広い概念なので,健康の切り口では引っかからない無関心層へのアプローチとしても優れた視点です.ただし,強制的につながったり,経済的負担の大きいつながり方をしたりすると,逆の効果も発生しうるので,注意が必要です.総合診療医として,このあたりの効果を知りつつ地域にかかわっていくことで,より深い地域志向アプローチを実施できるでしょう.

図 ソーシャル・キャピタルの幅広い効果
野瀬 豊(Yutaka Nose)
野瀬 豊町長

福井県高浜町長
昭和35年6月4日,福井県高浜町生まれ.
福井県立若狭高等学校を卒業し,調理師専門学校へ進学後,東京でパティシエの道へ.
昭和57年,町内に洋菓子・イタリア料理店「ラ・プラージュ」を創業.
平成12年4月高浜町議初当選し町議を4年務めた後,平成20年に高浜町長に初当選.現在高浜町長3期目を務める.全国初の市区町村単独医学部寄附講座「地域プライマリケア講座」の福井大学への設置や役場組織内に地域医療推進室を設置するなど,地域医療問題への効果的な取り組みを実現させる.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.