赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《岐阜県 下呂市》
服部秀洋市長

《地域の概要》岐阜県・下呂市
写真は,日本三名泉「下呂温泉」と下呂市街
《地域の概要》岐阜県・下呂市
人 口:
32,000 人(高齢化率39%)
面 積:
851 km2(人口密度37.6 人/km2
地域の特性:
岐阜県北部・飛騨地方に属する,言わずと知れた日本三名泉の1つ下呂温泉を有する市.川魚や鶏肉・米の名物や,山岳地帯(市内の約9割を山林が占める),昭和の町並みを体験できる“筋骨めぐり”など,資源に恵まれている.
岐阜県下呂市の服部秀洋市長は,地域で課題となっていた塩分摂取量や高血圧に対して,官民協働で減塩活動に取り組み,市は厚生労働省からも表彰されているんだって! 総合診療医も気になる減塩の普及,何をして何をしなかったのか,何がないけど何があったのか.温泉・観光のまちでの健康のまちづくり,市長の思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

市全体の心の統一をめざして

赤ふん坊や服部市長,こんにちは! 下呂市って,言わずと知れた日本三名泉の1つ・下呂温泉のまちだよね! 市長はやっぱり,温泉に入り続けた功績が認められて,市長になったんでしょ?

服部市長の仕事を何だと思ってるの(^_^; 私は旧下呂町時代の町議としてまちの未来を考えてきまして,平成16年に4町1村が合併して現在の下呂市となってからも市議を務めていました.そんななか,市庁舎の一本化が議題にあがったんですが,議会で否決されてしまいます.そのとき,形式的には合併していても心がバラバラであることを痛感したんです.市全域の心の統一をめざして,市長選出馬を決意しました.

坊やそれで,全市民で1つの温泉に入って,心を1つにした,と.

服部どこにそんなデカい温泉あるの(汗)

坊やじゃあ,市長は下呂市をどんな市にしたいと思ってるの?

服部下呂市には温泉だけでなく,「清流めぐり利き鮎会」でグランプリと準グランプリを受賞する,「あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト」の最優秀金賞を3年連続受賞するなど,恵まれた自然があり,その他,教育,観光,歴史,山岳など,旧4町1村それぞれのよさを生かしたまちづくりが実現していますが,やはり近年の人口減少や消滅可能性都市といった課題はあります.大学がなく人口の社会減の大きい下呂市では,産業ももちろん大事ですが,健康づくりが何より大事になってくるという確信のもと,役所保健師や地域のさまざまな方とともに取り組んでいるんです.

face to faceのコミュニケーションをもとに,地域ぐるみで取り組んでいく

坊やそれで下呂市は,健康のために,どんなことに取り組んでいるの? 市内のいたるところに100 mおきに温泉をつくって,いつでも入って健康になってね,とか??

服部そんなにつくれないでしょ(汗).下呂市は山間部で,もともと野菜の保存食文化が栄えていて,お漬物もたくさん食べられていますし,「 けい ちゃん」という非常においしい郷土料理があるんですが,これも味付けは比較的濃いものとなっています.しかも,国保加入者の,脳血管疾患および高血圧で受診している人の割合が,平成23~28年の間,岐阜県下42市町村中ワースト5位以内でした.そこで,「下呂・減塩・元気大作戦!」と銘打ち,ロータリークラブや商工会,医師会,JA食農リーダーらと下呂市減塩推進委員会を結成し,毎月の減塩週間を設定する,減塩に協力いただく小売店や飲食店を減塩推進協力店に認定する,その他,減塩レシピの開発や塩分測定器の市民への配布,減塩普及イベントなど,官民一体で減塩を進める総合的な取り組みを展開しているんです.健康づくりは行政だけでできることではなく,face to faceのコミュニケーションをもとに,地域ぐるみで取り組んでいく必要がありますよね.ここ下呂市ではそれが実現していることが自慢です! 結果,高度高血圧の方の割合を約1/3まで減らすなど,成果も生まれました.この取り組みは,令和元年11月には「第8回健康寿命をのばそう!アワード」<生活習慣病予防分野>において,なんと厚生労働大臣最優秀賞を受賞したんですよ!

坊やすばらしいですね! ! 「鶏ちゃん」って,そんなにおいしいんですか!?

服部〔そこかいな(汗)〕うんうん,そりゃあもう.某有名県民紹介番組にも取り上げられてますよ.〆の焼きそばがまた格別で……って,どこ行くの(ガシッ)

坊やえ!? べ,別に,今から食べに行こうなんて,思ってないですよ~(汗)

課の連携のもと横の展開を計画

坊やでは,下呂市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

服部そうですね,食への意識は向上してきているように感じていますので,今後は運動意識の向上や外出機会の増加の仕掛けをみんなで考えていけたらと思っています.長寿化,高齢化の社会変化に対応するためには,高齢者はもちろんのこと,それを支える成年層や,将来を担う児童層も元気・健康でないといけません.高齢者の体力づくりや介護予防,児童の体力測定,成年層への運動指導などが一体となって,課の連携のもとで取り組んでいくべく,横の展開を計画しているところです.

坊やなるほど~,横のつながり,大事ですよね! ! ではボクは,「鶏ちゃん」のお店への横の展開を担当してきまっす! ! (^^ゞ

服部ちょっと待って(ガシッ),まだ終わってないよ~(--#)

視線を下ろして地域に広く溶け込む

取材の記念に,服部市長と.「健康寿命をのばそう! アワード」の表彰状・トロフィーも!
取材の記念に,服部市長と.「健康寿命をのばそう! アワード」の表彰状・トロフィーも!

坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください! !

服部はい,当市は決して都市部ではなく,人材不足がなかなか解決されませんが,昔から医師会の先生方が地域の取り組みに非常に協力的で,ありがたく感じています.行政と専門職との連携は不可欠である時代です.ぜひ地域に視線を下ろしていただき,地域に広く溶け込んでもらえる,つまり,地域の課題に関心をもって自分から地域のアクターとして取り組んでもらえる,そのような人材を期待したいです.

「鶏ちゃん」ちゃっかりいただいてきました♪ 味噌ベースの秘伝のたれで焼く地元の鶏モモ肉とキャベツ,そして焼きそばのハーモニー♪ 嗚呼,ビール飲みたかった……って,いやいや何言わしてんの! 永遠の6 歳ですからお酒だなんて! !
「鶏ちゃん」ちゃっかりいただいてきました♪ 味噌ベースの秘伝のたれで焼く地元の鶏モモ肉とキャベツ,そして焼きそばのハーモニー♪ 嗚呼,ビール飲みたかった……って,いやいや何言わしてんの! 永遠の6歳ですからお酒だなんて! !

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

服部先日,地域医療をめざす医学生と会談する機会があったんですが,地域への想いに感銘を受けました.同時に,下呂市はそのような地域への想いをもったお医者さんが活躍できる土台がたくさんあるとも感じました.地域医療を守るのは大変ですが,ぜひ一度下呂市に来ていただければ,地域のよさである温かい人柄に触れ,当地のことが好きになっていただけると思います.

坊や温泉も人柄も温かい,お後がよろしいようで☆ じゃあボクは先を急ぎますので! ! 市長,後はよろしくです~☆

服部ちょ,ちょっと! ? もう,本当に行っちゃいました…….えー,なになに? 次回は,茨城県・大洗町の小谷隆亮町長にお話を聞いてきます,とのメモが(^_^; 皆さん,お楽しみに~☆☆☆

自治体,住民,企業,専門職が一体となった取り組みで,「当たり前の減塩」を.
赤ふんウォッチ
健康フォーラムで減塩食品を紹介・配布する市民の様子

実際に,下呂市の「下呂・減塩・元気大作戦!」の様子を拝見してきました☆ この日は市の健康フォーラムが実施されていて,地域住民の皆さんが,自分 たちで考えた減塩メニューを紹介したり減塩食品を試供配布されたりしていたよ.皆さんいきいきと,生き甲斐を感じていらっしゃるようでした! 「鶏ちゃん」の減塩レシピも考えているんだって! ! やめる・禁止するのではなく,工夫するというところがとってもいいよね☆ ボクも,万が一ふんどしがダメって言われたら,パンツっぽいふんどしを考案しようっと!

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 地域における減塩対策

今回紹介した下呂市では,地域ぐるみでの減塩対策が功を奏していました.日本では高血圧患者は約4,300万人いると推定されています,そしてその生活で改善すべき重要点は減塩であることは,皆さんご存じのことと思います.診察室では減塩食やDASH食,運動習慣,減量,節酒,禁煙などの指導が必要として,あらゆる地域で課題となっていると言っても過言ではない減塩の普及について,われわれ総合診療医はどのように地域にかかわるべきなのでしょうか.

地域の減塩対策としてよく見受ける,減塩に関心をもってもらうための教室や講演会,ワークショップ.もちろんこれらも地域住民にとって重要な減塩の機会とは思いますが,ここでわれわれが知っておくべきことは,高血圧対策における減塩の重要性についての認識は高いが,患者の減塩の主観的意識は食塩摂取量の低下に必ずしも関連していないという事実です1).つまり,関心をもって取り組んでいただくことはもちろん重要ですが,それで本当に減塩できているかどうかは不確実ということ.これに対策を打つならば,関心の有無,取り組みの有無にかかわらず減塩が実現する,あるいは,減塩という概念を考えなくても減塩できている,このような地域・国を実現していくことでしょうか.

そのためには,人々の生活のなかに減塩を「溶け込ませる」必要があります.例えば,レストランや小売店,コンビニなどで,減塩メニューや減塩食品が多く占めるようになる,もっと言うと,製造段階で減塩されていることが当たり前になること.イギリスでは,パンやチーズに含まれる食塩量を低下させることに国レベルで成功しているそうです.1人の総合診療医が国や大企業に働きかけることは難しいかもしれませんが,自治体や議会,商工会に地元医師会や医療機関として働きかけ,地元企業などとタッグを組むことは夢物語ではなく,実際にそのように取り組まれている事例もあります.また,学校給食等での食育を推進し,塩分が低いことが当たり前を導くという手もあります.食育は多くの地域で現場・自治体の方で取り組まれていると思いますが,そこに総合診療医として文献的情報(例えば,3gの減塩はタバコ・肥満・脂質異常症改善と同等の心血管疾患抑制効果2)など)を盛るなど,その効果を高めるためにできることはありそうです.

地域が一体となった「当たり前の減塩」,進めていきましょう!

文 献
  1. Bibbins-Domingo K, et al:Projected effect of dietary salt reductions on future cardiovascular disease. N Engl J Med, 362:590-599, 2010
  2. Ohta Y, et al:Relationship between the Awareness of Salt Restriction and the Actual Salt Intake in Hypertensive Patients. Hypertension Research, 27:243-246, 2004
服部秀洋(Hidehiro Hattori)
服部秀洋市長

岐阜県下呂市・市長
昭和33年12月1日,岐阜県下呂市生まれ.岐阜県立益田南高等学校を卒業後,愛知学院大学商学部経営学科中途退学.昭和58年尾張屋製菓(家業)取締役就任.平成15年10月に旧下呂町議会議員に初当選し,平成16年の町村合併により下呂市議会議員となり平成28年1月まで務める.平成28年4月に下呂市長に初当選し現在第3代下呂市長の1期目(4年目)を務める.就任当初から健康をキーワードとした政策に取り組み,行政と市内各種団体とが一体となって先進的に取り組んだ減塩推進活動が評価され,厚生労働大臣最優秀賞を受賞した.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.