赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《福井県 鯖江市》
牧野百男市長

《地域の概要》福井県・鯖江市
写真は,鯖江市の中心部に位置する西山公園に咲き誇るツツジ.
《地域の概要》福井県・鯖江市
人 口:
68,500 人(高齢化率27%)
面 積:
84.59 km2(人口密度810 人/km2
地域の特性:
福井県北部の内陸に位置するまち.鎌倉時代に誠照寺の門前町として発展.「めがねのまちさばえ」をキャッチコピーとする,全国シェア95%以上のメガネフレーム産業のほか,漆器や繊維が地場産業として根付く.近年は女子高校生視点によるまちづくりプロジェクト「鯖江市役所JK課」の設置など,積極的に地域活性化と市民協働を推進.
福井県鯖江市の牧野百男市長は,ものづくりのまちに根付く地場産業・メガネフレーム産業を生かして,目の健康づくりを推進しているんだ! 市民協働のまちづくりと相まって,地域の健康と地元意識がどんどん上向きになっているんだって!そんな市長の考え・思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

市民の融和と協働をめざして

赤ふん坊や牧野市長,こんにちは! 鯖江市って,便利な市街地も心安らぐ自然もあって,住みやすそうなまちだね! そして,鯖江と言えばやっぱりメガネ!! 市長はやっぱり,メガネを売って売って,メガネで世界征服するために市長になったんでしょ?

牧野うーん,ちょっと,言い過ぎかな(汗).私は長年県庁の職員を務め,その後小浜市の副市長,その次は県議会議員として活動しておりました.平成16年当時,鯖江市は自治体の合併問題に際して,合併賛成と合併反対とで市民感情が二方向に分かれていました.その市民感情を一本化することに努めたいという思いが,市長選への出馬を後押ししたんだと思います.市民が主役で市民が来たくなる明るい市役所をめざして市長に就任したんです.

坊やへえ~,じゃあ,市長は鯖江市をどんな市にしたいと思ってるの?

牧野鯖江市には,メガネ,漆器,繊維の三大地場産業があり,また,人口あたりの社長数が日本一など,まち全体に起業やものづくりの精神があふれており,まちそのものが会社・工場という印象です.それに,市の面積は県下で2番目に小さくコンパクトで,市全体にまとまり感があります.このような状況で,私の掲げる直接民主主義―直接市民の声を聞く,市民参加のまちづくり―を推進しながら,メガネ,漆器,繊維のものづくりが持続できるまちをめざしているんです.

坊やメガネも気になるけど……やっぱり繊維が気になりますなあ!! 繊維と言えば,ふんどし! もちろん製造を!?

牧野えーっと……(大汗)

「めがねのまちさばえ」として,「眼育」を推進

坊やそれで鯖江市は,健康のために,どんなことに取り組んでいるの?

牧野当然ながら,健康づくりや介護・福祉など,どのまちにも重要な健康関連の施策に保健師を中心として取り組んでいますが,当市では健康づくりにもまちの特徴を生かしていくべく,「めがねのまちさばえ」だからこその「目の健康づくり」に取り組んでいます.具体的には,パソコンやスマートフォンなどのメディアの適正使用をうったえかける,目の健康体操を開発して広く市民に啓発する,3歳児健診への屈折検査の導入により視覚異常の早期発見・早期治療につなげる,などの取り組みを行っています.特に,3歳児健診への屈折検査の導入については,平成27年度に導入するまで眼科的な要治療者が年間0~3名程度だったのが,導入後は年間13~15名程度となっています.このことは,将来弱視などで困るであろう市民を毎年10人以上救っていることとも考えられ,大きな成果であると感じているところです.これからも「めがねのまちさばえ」として,食育ならぬ,「眼育(めいく)」を推進し,「目と言えばさばえ」と言われるように励みたいです.

坊やへぇ~,スゴい成果ですねえ!!  「眼育」いいなあ……☆ ボクも,「褌育(ふんどしいく)」,取り組んでみます!!

牧野が,頑張ってね……(汗)

分野の壁を越えてまちに深く浸透した取り組みへ

坊やでは,鯖江市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

牧野そうですね,もちろんのことながら,今後押し寄せるであろう急激な高齢化や人口減少に対応すべく,地域包括ケアシステムの推進や医療介護連携の発展は必須であると感じています.加えて,市が推進している市民協働も,このような状況下ではますます重要な意味をもつようになると確信しています.「眼育」についても,さらなる発展を期待していて,現在,NPO法人「みるみえる」の皆さんに,目の健康体操の拡散等,精力的に活動いただいていますし,地元の公立病院の眼科の皆様にも活動を支援いただいています.今後は,さらに広い範囲の連携を構築し,職域や企業など,分野の壁を越えてまちに深く浸透した取り組みとなることを願っているところです.

坊やなるほど~,もう,いっそのこと,目玉にからだが生えたような,新しいキャラクターを設定してはどうでしょう!?

牧野それ,もういるよ……(汗)

地域住民や行政とともに地域の健康づくりを

取材の記念に,牧野市長と.さっすが,メガネが決まってるぅ~☆
取材の記念に,牧野市長と.さっすが,メガネが決まってるぅ~☆

坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

牧野今後ますます増える高齢者は,複数の病気をもつ方が多いです.専門医だけでなく,総合的に診療できる総合診療医が必要ですし,何でも相談できる身近なかかりつけ機能担ってほしいと願っています.それに,総合診療医には,ぜひとも地域住民や行政とともに地域の健康づくりを,ひいてはまちづくりを支援していただきたいですね.

ボクもメガネを買っちゃいました♪ どう? ますます人気,高まっちゃう!?
ボクもメガネを買っちゃいました♪ どう? ますます人気,高まっちゃう!?

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

牧野鯖江市は人情豊かでおもてなしの市民性があり,まちそのものが参加と協働であふれる,活気ある市です.ぜひとも一度お越しいただいて,そのあたたかさに触れてみてください.一緒に取り組んでくださる総合診療医をお待ちしています.ものづくりがお好きなら,メガネや漆器,繊維の産業の後継者としてもご活躍いただければと思います!

坊やじゃあ,まずはボクが移住して,繊維業をふんどし一色に…….

牧野そ,総合診療医の皆さんを,お待ちしておりますので~~(涙)

坊や牧野市長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,京都府・舞鶴市の多々見良三市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

地域の特性を生かした健康づくりに取り組んで,地域の健康と地元意識を醸成.
赤ふんウォッチ
さばえ食と健康福祉フェアでの目のトレーニングの様子(2019年秋撮影)

実際に,鯖江市の目の健康づくりの取り組みを拝見してきました☆ この日はまちの健康関連のイベントが開催されていて,そのなかの一部のブースで目の健康づくりの体験が提供されていたよ.NPO法人「みるみえる」の皆さんが,来場された市民の皆さんに,目の健康を守るゲームやトレーニングを体験してもらっていました.特別な道具や技術が不要なものもあって,誰でも簡単に取り組めそうで素晴らしいと思ったよ.ボクも今から目を鍛えておいて,老後に備えなきゃ!! あ,ボク,永遠の6歳なんだった☆

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 地域の特色を生かした健康づくり

今回紹介した鯖江市では,地元のメガネフレーム産業を生かした「目の健康づくり」を推進されていました.産業のみならず,全国各地で地域の特色を生かした健康づくりが推進されています.その題材はさまざまで,ある地域では地元の有名食材,またある地域では地元のアクティビティといった具合に,健康との関連付け方やその効果の程度,成果やエビデンスを含め多種多様と言えます.地域に根差す総合診療医として,地域の特色を健康づくりに生かすことには,一体どのような効果があるのか,また同時に,何に注意すべきなのかについて考えてみます.

〈地域の特色を健康づくりに生かす利点〉

○地域全体の取り組みに発展させやすい

一般的に健康によいことを地域で推進しようとしてよく躓くこととして,健康に関心のない住民や行政職員の協力が得られないことがあげられます.しかし,地元がイチオシの食材やアクティビティ,産業等を組み込むことによって,健康に関心や関連のない人物や部署が,一転して協力してくれるようになる可能性があります.

○地元意識の醸成がひいては健康につながる

地元で昔ながらに親しまれてきた食材やアクティビティ,産業等は,住民にとって誇らしいものです.その題材がさまざまな形に活用されることで,さらに誇らしく感じていただけるでしょう.さらに,地域の皆さんが共通の話題でつながれる効果も生まれます.このように地元意識が醸成され地域のつながりが促進されれば,本連載で何度か述べているソーシャル・キャピタル(社会関係資本:つながりや絆によって得られる健康等へのよい効果)による健康効果も期待できると考えます.

〈地域の特色を健康づくりに生かす際の注意点〉

○目的や計画,予想される効果や実際の成果をきちんと示す,報告する

食材やアクティビティ,産業等を健康づくりに取り込んで活動することは,その意義や効果等について,一部の層から疑問視されることがしばしばあります.その“層”とは,地域住民のなかにも,行政職員のなかにも,そして同業者のなかにも存在します.前述の利点を含め,目的,計画,効果,成果についてはできる限りおのおのの“層”にわかりやすく響きやすい形で示しておく必要があります.

○他分野にかかわる際には,相手の専門領域を侵さないようにする

食材やアクティビティ,産業等を健康づくりに取り組んで活動する際には,自ずと健康以外の分野の専門職やスペシャリストとかかわることが増えます.その際,医師の立場で非専門分野のことを要求しすぎると,その分野の専門職や行政担当者からは煙たがられます.まずは自分が非専門分野のことにかかわらせていただく,勉強させていただくという低い姿勢で関係をもちはじめることをお勧めします.意見が違っても最初から無理をせず,こちらの仕事を認めてもらってから要望する方がよいと考えます.

地域の特色を生かした健康づくりの取り組みは,うまく進めば得られるものが多く,その後の新しい展開も期待できます.ぜひ皆さんの地域でも検討してみてはいかがでしょうか.

牧野百男(Hyakuo Makino)
牧野百男市長

福井県鯖江市・市長
1941年生まれ,福井県鯖江市出身.福井県総務部長,福井県小浜市副市長,福井県議会議員を経て,2004年より現職.大学のないまちでの「学生連携によるまちづくり」,市民が主役の「市民参加と協働によるまちづくり」,市民との情報共有による「オープンデータによるITのまちづくり」を推進.「地方から国を変える」高い志と強い意気込みで,「河和田アートキャンプ」,「地域活性化プランコンテスト」,「鯖江市役所JK課」,「オープンデータ」など,全国に先駆けてさまざまな事業に挑戦し続けている.セールスポイントは,内面には強い情熱と意志を秘めており,心に決めた目標に向かって全力投球するところ.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.