赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《宮崎県 延岡市》
首藤正治市長 *取材当時

《地域の概要》宮崎県 延岡市
写真は旭化成の赤白の煙突が象徴的な延岡の街並み
《地域の概要》宮崎県・延岡市
人 口:
122,000人(高齢化率32%)
面 積:
868 km2(人口密度141 人/km2
地域の特性:
戦前より県内屈指の工業都市として発展.旭化成の創業地.高千穂から日向灘に流れる水系は県第2の大河で,伝統漁「鮎やな」が息づく.医療面は,460床の宮崎県立延岡病院を中心とする.
宮崎県延岡市の首藤正治市長(2017年12月取材当時)は,地域医療や住民活動の支援,ひいては健康のまちづくりの先進的な取り組みまで,幅広い健康分野の取り組みを手がける敏腕市長さんです! 全国初となる地域医療を守る条例を制定したんだって!! そんな市長さんの思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

外からも中からも“にぎわい”を創出

赤ふん坊や首藤市長,こんにちは! 延岡市って,山も川も海もある,宮崎県北の美しい都市だね! そして,まちのシンボルのように立つ,旭化成の赤白の煙突! ! 市長はやっぱり,当選して「イヒ!」と笑うために,市長選に出馬したんでしょ?

首藤懐かしいけど……(汗).私は地元延岡で,民間企業の社長をしていたんですが,そのとき青年会議所の活動にも精力的に取り組んでいました.青年会議所の取り組みの1つに,community development,つまり“まちづくり”があり,私も特に関心を寄せてまちのことを考えるようになりました.失われていくまちのにぎわい,他の10万人都市と比べて非常に遅れていた高速道路などのインフラ・環境整備….遅れをとり戻したい,このままではまちが危ないと思い,48歳のときに市政に深い関心をもつようになりました.そうなると居ても立ってもいられず,49歳で市長になったんです(笑).

坊や…….

首藤……どうしました?

坊やいや,「イヒ!」って笑わないんだなぁと思って.

首藤笑わないって(汗).

坊やじゃあ市長は,このまちをどんなまちにしたいと思ってるの?

首藤このまちはもともと旭化成を中心とした工業都市で,観光事業には手をつけていませんでしたが,ようやく整備されてきたインフラと,豊かな自然から与えられるアウトドアスポーツ環境や食材を有効に活用すべく,新しく観光事業にも着手しました.また,延岡駅周辺の再開発を手がけ,駅ビルを再建することになりましたが,人口が減少するなか,商業施設の集積では負ける店しかできないと確信し,市民の居場所づくりと位置づけてのカフェ,図書室,おしゃべりスペース,活動場所を用意する方針とし,今春オープンしたばかりです.このように,外からも中からも“にぎわい”が創出できればと考えています.

坊やにぎわいかぁ….ボクも,何かお手伝いしたいなぁ….よし,赤ふん専門店で,にぎわいを創出するね!!

首藤それ,完全敗北の店では……?(涙)

健康づくりを“編み出していく”

坊や延岡市では今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?

首藤きっかけになったのは2009年の県立延岡病院の医師6名の一斉退職でした.が,問題はもっと前から始まっていたのだと思います.特に救急医療の充実が危機にさらされました.そのとき,なぜそんなことになってしまったのだろう,私や延岡市は何をすべきなのだろうと考えました.そこで打ち出したのが,1つは医療を守るための取り組みでした.まずは,自治体初の「地域医療を守る条例」です.これは,市民,行政,医療者それぞれの責務を明示したものとなっており,この条例制定の本質的な目的は,市民の意識改革にあったと思います.次に,「地域医療を守る会」の住民活動支援です.会員で手づくりした「ありがとうカレンダー」を直接医療者に届けて回る活動等を通じて,患者と医療者が感謝し合う関係が生まれました.これもまさに,意識改革の1つの成功事例だと思っています.それからもう1つ,医療を守るだけでなく,そもそも病気にならないように予防・健康増進に取り組むこと,自助努力を皆がすることで,地域医療の負担も減らせるはずという方針のもとでの,健康長寿のまちづくりです.最近では多くの自治体がとり入れ当たり前になりつつある「健康ポイント制」などの健康づくりインセンティブ制度ですが,当市では2012年より取り組みを開始し,注目されました.そのことにより検診の受診率が向上するなどの効果が認められましたが,私としましては,インセンティブという表層的なものをつまむだけではダメで,精神的・意識的なものを本質的に広める必要があると考えています.そうすることで,健康づくりを“編み出していく”ことが可能になると信じています.ただ単に物で釣るようなインセンティブなら,あまり意味はないでしょう.……あれ? この大量の坊やの小さなマスコットは? なになに,「赤ふんどしを買ってくれた方に,もれなくボクのマスコットをプレゼント」! ?

坊やえーっと…………イヒ!

首藤「イヒ!」でごまかさない!(^_^;)

健康のまちづくりを市民主体に推進するきっかけ

坊やでは,延岡市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

首藤そうですね,そもそもの取り組みのきっかけになりました,県立延岡病院の医師数は劇的に改善したとはいえない状況です.これからも,医師はもちろんのこと,医師以外の医療従事者も含めて延岡で勤務いただけるよう努力を怠らないようにしたいと思います.それから何より,現在32%の高齢化率は今後も上がっていきますので,高齢者が元気に過ごせるまちにしなくてはなりません.健康教室推進協議会や「健康長寿人材バンクのべおか」などに取り組んでまいりましたが,健康のまちづくりを市民主体に推進していくことがますます大事になってまいります.行政として,そうなるようにさまざまなきっかけを出していきたいと考えています.

坊やそうなんだね~! あ,そうそう,その大事なきっかけに,かつての海水浴スタイル・赤ふんの配布はどうですか? 今なら特別価格・1万円ポッキリでのご提供です♡

首藤(高っ! !)え,遠慮しときます……(汗).

総合診療医がコンダクターに

坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

首藤そうですね,首長はじめ行政の立場の者は,一般的に医療に疎いんです.医療はやはり専門的で,しかも制度変化の激しい分野なので…….なので,行政としてはビジョンが確立しにくいんです.それではいけないと,市医師会や地元病院などと一緒に会議体を形成して取り組んではいますが,それだけでは全体を俯瞰できていないと感じています.総合診療医が行政職と一緒になってコンダクターとなってくださるなら,こんなに心強いことはありません! 新しい専門医制度も始まり,19番目の領域として確立されるということで,われわれとかかわってくださる総合診療医が増えることを期待しているところです.

坊やそっか,医療分野は変化が激しくて把握しにくい分野なんだね……ご当地キャラ分野に似てるね! まあ,ボクは昭和生まれの不動の人気キャラだけど☆

首藤(し,知らなかったとは言えない……)(汗)

取材の記念に首藤市長と 赤ふんを世に広める使命を共有して!!

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

首藤皆さん医師をめざして社会に出ていらっしゃるということは,何かしら使命感をもってのことと思います.おのおの自分なりの使命感を掘り下げていただき,医療の現場だけでなく,何かしら医療の外の社会にも貢献していただけることを,心より願っております.そして,ぜひ延岡にも足を運んでみてください! お待ちしています♪

坊やその通りだと思います! ボクも赤ふんについて使命感を掘り下げた結果,こんなに社会に貢献してるんだから☆ えっへん!

首藤あ,ありがとう(とりあえず)(^^;

坊や首藤市長,今日は忙しいなかありがとう! 次回は,新潟県・粟島浦村の本保建男村長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

楽しく長続きできる住民活動の支援は,住民も医療者も地域も元気にする.
赤ふんウォッチ

実際に,「宮崎県北の地域医療を守る会」の活動にお邪魔しました! 恒例になっている「ありがとうカレンダー」の作成をされていたよ.ハンコづくりから組み立て・包装まで,自分たちですべての工程を手がけるんだね! このカレンダーをきっかけに,医療者との直接のふれあいが何年も生まれて,とても距離が近くなったんだとか.最近では,子どもに医療体験をしてもらう「Dr.キッザニア」や,関係者でつくり上げる「親と子のあした音楽会,人形劇」まで手がけていらっしゃいます.会の設立以来事務局長をされている福田政憲さん曰く,「興味のない人でもいかに取り込めるかを考えて,最近ではDr.キッザニアや音楽会のような,地域医療とは一見関係なさそうなことばかりをしています(笑).当会が『もっと頑張ってほしい』の住民要求型ではなく,『自分たちにできることを』の住民解決型であったことは,会の活動に意義をもたせる非常に重要な点であったと感じています」とのこと.お互いに感謝が伝え合える関係,素敵だよね☆ ボクも,赤ふんを体験してもらう「赤ふんキッザニア」,赤ふん着用の出演者のみで実施する「赤ふん音楽会」「赤ふん人形劇」をやるっきゃないな!

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 住民活動(支援)

地域に根ざす医療関係者として,地域住民からの支援や協力が得られることは,このうえなくありがたいことです.地域医療・ケアへの住民の参画が叫ばれて久しいですが,われわれ総合診療医や行政関係者は,どのように住民活動を支援すべきなのでしょう? ややもすると支援は促進・強制にも変化してしまいがちですが…….

福井県高浜町でも,地域医療のために活動する住民有志団体「たかはま地域☆医療サポーターの会」が活動されており,活動は早9年にもなろうかとしています.そのような長年にわたる活動はどのように支えられているのか,調査してみたことがあります(図1).その結果,「無理しなくてよい」「自由参加」「達成感」「役立っている自覚」「交流」「楽しみ・レクリエーション」などの要素が,「居心地のよさ」ならびに「活動への意欲」へとつながっていると考えられました(図2).専門職として,まずは信頼や親近感をもってもらうこと,それから,自分のやってほしいことを押しつけるのではなく,また,成果を過度に期待するのでもなく,住民一人ひとりにライフワークとしてまず楽しんで参加してもらえる,そんな話題提供や活動のきっかけを自然に提供できると,住民活動はより本質的で長期的なものとなるのかもしれません.さらに,時代が刻一刻と変わり続けるなか,長年ずっと同じ活動を続けていればよい,というものでもないと感じています.時代の変化や社会ニーズの変容についての気づきを促し,1つの活動で成功したからといって足踏みせずに進み続けることも,支援者側に求められているのでしょう.

図1
図2
文 献
  1. 井階友貴:住民協働・住民活動 〜住民のパワーを引き出すきっかけづくり.Gノート,5:357-363,2018
首藤正治(Masaharu Sudo)
首藤正治市長

前 宮崎県延岡市長
1956年延岡市生まれ.京都大学工学部物理工学科卒業後,小西六写真工業株式会社(現コニカミノルタ)勤務を経て帰郷し,父親創業の事務機器販売会社に入社.1993年から12年間社長を務めた.社業の傍ら,延岡青年会議所理事長や延岡商工会議所常議員,まちづくりNPO法人理事などを経験.1994年,京セラの稲盛和夫氏を塾長とする「盛和塾宮崎」創設に際し塾生として参加した.2006年延岡市長に初当選し3期12年務める.エンジン01文化戦略会議メンバー.セールスポイントは,世界の誰にも負けない努力と心のこもった仕事.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.