赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《青森県 五所川原市》
佐々木孝昌市長

《地域の概要》青森県・五所川原市
写真は津軽の雪原を走るストーブ列車
《地域の概要》青森県・五所川原市
人 口:
55,000 人(高齢化率34%)
面 積:
404 km2(人口密度136 人/km2
地域の特性:
津軽半島のほぼ中央に位置する地方都市.縄文時代からの長い歴史,文豪太宰治,五所川原立佞武多などの観光や,米,りんご,しじみ貝などの産地として名を馳せる.
青森県五所川原市の佐々木孝昌市長は,経営的視点を存分に生かして,病院再編後の医療提供体制を充実させようと奮闘されている市長さんです! 若い世代に選んでもらえる,安心・安全に子育てができるまちをめざしているんだって!! そんな市長さんの思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

大切なふるさとの次世代の土台をつくりたい

赤ふん坊や佐々木市長,こんにちは! 五所川原市って,津軽平野の中央にある,美しいまちだね! そして,五所川原といえば,かねてより高さを競い合ったという独特の ねぷた ・・・ 立佞武多 たちねぷた や,果肉まで赤いリンゴ・ 赤~いりんご,津軽鉄道のストーブ列車,積もった粉雪が強い西風で煽られて吹雪く地吹雪,そしてあの,太宰治の生誕の地として,とっても有名だよね~☆ 市長はやっぱり,地吹雪の中を進む立佞武多風ストーブ列車で,赤~いりんごをかじりながら,太宰治の「人間失格」を読みたくて,市長になったんでしょ?

佐々木どんな状況ですか,それは(汗).私は地元五所川原市の出身で,38年間地元五所川原や青森市で会社を経営しておりました.県議会議員で市長選出馬経験もある父親の影響で,中学時代にはおぼろげに,将来は市長になりたい,父の果たせなかった夢を果たしたいと思っていましたが,近年の人口減少や飛び地合併など,市行政にも経営の視点が必要だと感じることが多く,大切なふるさとの次世代の土台をつくりたいと思ったため,経営者の視点を市政に吹き込むことを訴えて出馬し,昨年市長になったんです.

坊やなるほど~,ふるさとの土台ですね! 土台がないと,立佞武多もすぐ倒れちゃうから☆

佐々木いや,立佞武多のためではなく…….

坊やじゃあ,市長はこのまちをどんなまちにしたいと思ってるの?

佐々木五所川原市は西北五地域,つまり,西津軽郡,北津軽郡,五所川原市からなる生活圏域の中心都市で,医療面だけでなく生活面においても都市機能が集約されていて一番便利で恵まれているはずですが,人口が減り続けています.将来的には,「子育てをしやすいまち」づくりに,とにかく注力したいと考えています.五所川原市が圏域を支えるコンパクトシティとして次世代においても機能できることを目標にしたいのです.

坊やそうだよね,まわりの地域とはストーブ列車でつながっているんだし! 人口も,そう すっと ・・・ イ字回復,なんちゃって☆

佐々木か,考えもギャグも,強引だねぇ……(汗)

医療機能確保は行政責任

坊や五所川原市は今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?

佐々木当市を含む西北五医療圏は,2016年の調査では人口10万人あたりの医師数が123.3人と,全国平均240人の約半分であり,慢性的な医師不足が問題となっています.その限られた医師を各自治体に分散配置していては,結局各自治体・医療機関・医師への負担を増やしてしまい,ひいては経営の悪化や医療機能の限定など,よい効果は生まれないと言われていました.そこで,当医療圏での医療資源を有効に活用するために,もともと医療圏に5つの公的病院がそれぞれ運営されていたところを,医療圏で広域連合を結成し,1カ所の中核病院と,4カ所のサテライト病院・診療所へと再編することとしました(次頁参照).その結果,中核病院の診療科目や各診療科の常勤医が増加して充実し,圏域内の医師数も増加するという効果が生まれました.中核病院であるつがる総合病院の先生方には,圏域内の救急を一手に引き受けていただき,心から感謝しています.

全国で病院群の再編統合がさまざまな結果を生んでいるなかで,公的な病院や連合として,一番難しいけれども重要なのが経営だと思います.施設管理的運営と,経営的運営を分けて考えていくことが不可欠だと感じております―つまり,医師確保のためには医師にとって魅力的な病院である必要があり,そのためには,医師の望む治療を提供できる施設管理体制が重要です.そうなると,経営的運営は施設管理的運営の基盤となり,最重要となるかと考えます.市民の安心安全を守る行政として,医療機能確保は行政責任であると考えていますので,2019年度からはさらに病院の経営的運営についても充実させていきたいと検討しております.

坊やなるほどね~,ただでさえ貴重な赤~いりんご,経営戦略は欠かせないよね! ! 赤~いりんごで染めた,赤~いふんどし販売なんてどうでしょう♪

佐々木き,貴重なりんごを,そんなことに! !(゚Д゚)

医療連携を,地を這うように横に展開

坊やでは,五所川原市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

佐々木そうですね,広域での病院再編が実施され,システムとして連携体制はできたように見えますが,やはりそれは中核病院からサテライト医療機関までの公的施設間での連携です.これからは,サテライトから民間かかりつけ医療機関までの連携を強化していく必要があると考えています.中核病院での経営強化を,サテライトを含めた経営戦略へ,ひいては民間かかりつけ医療機関までを見据えた経営強化へと,地を這うように横に展開していくことで,医療圏全体が機能的に進化していくと思います.

坊や坊や なるほど,まるで地吹雪が地を這うように! と言いたいわけですな!?

佐々木言いたいわけじゃないです……(涙)

住民に安心を与えられるお医者さんに

これがウワサの立佞武多! すごい迫力☆ ボクもここまで大きくなりたいな~
これがウワサの立佞武多! すごい迫力☆ ボクもここまで大きくなりたいな~

坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

佐々木そうですね,昔は五所川原にも開業医さんがたくさんいらっしゃったんですが,近年次々に閉院となり,かかりつけ機能が失われてきていまして,やむをえず中核病院がかかりつけ機能を担わなければならないという状況も発生しています.総合診療医の先生方にはぜひ,当市でも全国でも重要になっている課題,例えば糖尿病の方が病状を悪くして透析が必要にならないように予防したり,がん検診をすすめて重症化を予防したりといったヘルスメンテナンス機能を担っていただき,地域にかかりつけ機能をもたらしていただきたいです.

取材の記念に,五所川原市のマスコット・ごしょりんも駆けつけてくれました! ! やってまれ,医療連携のまちづくり☆
取材の記念に,五所川原市のマスコット・ごしょりんも駆けつけてくれました! ! やってまれ,医療連携のまちづくり☆

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

佐々木五所川原市は伝統や文化のまちではありますが,ショッピングや飲食など,アメニティが充実した地域です.力を入れている子育てに関しても,きっと満足していただけると思います.今回お話ししたように経営面での取り組みを重視してまいりますので,やりたいことのできる満足な働き方がきっと実現するでしょう.そんな西北五地域での勤務を,ぜひともご検討ください!

坊やこんなに素晴らしい地域に満足できない人は,まさに「人間失格」ですよ☆……ってことでいいですか?

佐々木ちょっと! そんなネガティブなこと言わないで! !

坊や佐々木市長,今日は忙しいなかありがとうございました! 次回は,沖縄県・読谷村の石嶺傳實村長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

地域の実状と病院に求められる役割を察知して,自分の能力を変容・適用させよう.
赤ふんウォッチ
つがる西北五広域連合立・つがる総合病院(上)と,再編前後の模式図(下)

実際に,つがる総合病院にお邪魔してきました☆ もともとあった5つの自治体の公的病院のうち,五所川原市立西北中央病院を中核病院・つがる総合病院として機能強化,公立金木病院と鰺ヶ沢町立中央病院を急性期後の医療やプライマリ・ケアに特化したサテライト病院へ,つがる市成人病センターと鶴田町立中央病院を同様の機能の無床診療所へと再編したんだって.そうすることで,大学からも派遣を受けやすくなり,診療科も16から21へと充実,お医者さんも増えたんだって.県内で上位3位の救急の多さで,その理由は救急の機能を医療圏で集約したから.お医者さんは忙しいと思うけど,住民からすると,いざというときにしっかりした病院があって安心だし,お医者さんも設備の整った病院で働きがいを感じていらっしゃるようでした☆ ボクも,きれいに生まれ変わりたいなあ…….あ,何でもないよ,着ぐ○みじゃあるまいし☆ (汗)

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 病院医療機能と総合診療医

近年,病院を統廃合する動きが散見されます.その理由の多くは,医師不足等に伴い,病院のもつ医療機能の再考が必要になったためであるようです.病院再編・統合の形式には,今回の西北五地域で行われたような機能分化型のほか,複数の病院を1つにまとめる統合型,有床診療所等へ変換する縮小型等いくつかあります.われわれ総合診療医は,このような病院の統廃合,つまり,「診療規模や求められる役割の変化する病院」に関連して,どのような役割を果たすべきなのでしょうか.

日本プライマリ・ケア連合学会では,病院総合医養成プログラム認定施行事業において,その期待される医師像として,表1に示す通り4つの項目をあげています.また,日本病院会の病院総合医育成プログラムでは,表2に示す5つのスキルの獲得をめざしています.これらの内容からも,われわれ総合診療医が地域の病院にかかわる際,診療の質の向上や多職種連携の推進はもちろんのこと,地域から求められる病院の役割を敏感に・正確に察知し,そのあり方について主体的に適正化にかかわる必要があることが見てとれます.

私の師匠の1人,寺澤秀一・福井大学名誉教授(同大医学部地域医療推進講座 特命教授)の教えに,「置かれた場所で咲きなさい」という言葉があります.地域の情勢は近年,あるいはこれからも,刻一刻と変化し続けることでしょう.それに伴って,病院の形態や求められる役割も変容します.この面での地域志向アプローチは,地域のニーズに合わせて自分を変容させることに他なりません.総合診療医の植え付けられた鉢は,激動の時代にどのような場所に置かれるかわかりませんが,どんな場所でもきれいな花を咲かせられるのが,総合診療医なのでしょう.

表1 日本プライマリ・ケア連合学会 病院総合医養成プログラム認定試行事業で示す,期待される医師像
表2 日本病院会 病院総合医育成プログラムの到達目標として身につけるべき5つのスキル
佐々木孝昌(Takamasa Sasaki)
佐々木孝昌市長

青森県五所川原市・市長
1954年五所川原生まれ,県立五所川原高校卒業.大学生活を経て1977年より五所川原市,青森市内の会社で勤務,その間,五所川原青年会議所理事長,五所川原法人会会長,青森県法人会連合会副会長を歴任する.2018年7月より現職.セールスポイントは,民間の視点を生かしたこれまでにない市政.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.