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第4回 患者の理解をぐっと深めるコツとヘルスリテラシー
その説明,わかってもらえていますか?

木村紀志,阪本直人(つくば家庭医・病院総合医プログラム)

あなたはこれまでに,「病気に対する理解が十分でないな」と感じた患者さんを担当したことはありませんか?

このような状況を患者さんのヘルスリテラシーに問題があるといいます.ヘルスリテラシーとは,端的にいうと「健康情報を入手し,理解し,活用する過程に関連した幅広い能力」をいいます.今回は,ヘルスリテラシーに問題のある患者さんの事例を通して,診療の場で発見されやすい側面の1つ,“理解”に焦点を当て,お話を進めていきます.

Tips 1:ヘルスリテラシー 〜健康を決める力~

ヘルスリテラシーとは,『健康情報を入手し,理解し,評価し,活用するための知識,意欲,能力であり,それによって,日常生活におけるヘルスケア,疾病予防,ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして,生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの』と定義1)されています.近年,多様な情報が容易に入手できるようになった反面,情報に振り回される患者さんも少なからずいらっしゃいます.このような時代だからこそ,医療者による的確な説明と病状理解への支援がこれまで以上に必要となっています.

なお,聖路加国際大学大学院看護学研究科 中山和弘教授によって開設されたヘルスリテラシー専門サイト(外部サイト)が国内で最も充実しています.このサイトは市民がヘルスリテラシーを身につけるための支援をするサイトであり,同教授は,ヘルスリテラシーのサブタイトルに「健康を決める力」(2010)という表現を提唱されています.

Tips 2:患者さん自身が病気をどう理解しているかを捉える

早速,具体例を挙げますので,想像しながら読んでください.

50代女性,動悸を主訴にあなたの外来に受診.心電図で心房細動の診断となり,ワルファリンが開始されました.今もあなたの外来に定期通院しています.

ある日,いつものように検査結果を確認したところ,PT-INRの過延長が見つかりました.「おかしいなあ…,薬を増やしたわけでもないのに,なぜこんなにも上昇するのだろう?」と思い,あなたはお薬手帳を確認しました.すると,別の医療機関からワルファリンが重複処方されているのを発見しました.「どうして,これを?」とあなたは尋ねます.患者さんは「あのぅ,よくならなかったとは言い出しにくくて…」と.患者さんは,あなたの外来へ受診後,動悸がよくならないため,別の医療機関へ受診したとのことでした.その際,受診先には,治療中のことは黙っていたとのことでした.

さて,今回の事例をヘルスリテラシーの視点で振り返ると,どこに問題があるでしょうか? 1つは,薬の使用目的を正しく理解していないことです.患者さんは「動悸を止める薬」だと思い込み,抗凝固薬の説明中も,「何の説明を受けているのかわからなかった」とのことでした.もう1つは,医療機関同士で情報が共有されないことに起因するリスクには考えも及んでいなかった点です.「勝手に通院先を変えてしまい申し訳ない」という思いから治療中である旨を伏せた受診となり,結果的に同効薬の重複が生じ,大出血のリスクをつくり出していました.

このように,患者さんが自身の病態を適切に理解しておらず,医療者側もそのことに気づいていないために思わぬ事態になるケースは少なからずあるのではないでしょうか?

なお,西欧・アジア諸国間の比較研究では,日本人のヘルスリテラシーは低ランク2)に属しています.また,日本人は,健康情報の入手,理解,評価,活用の各プロセスにおける行動を難しいと感じている割合がEUよりも高く,特に4人に1人が処方薬の服用方法を理解することが難しいと回答しています3)

Tips 3:Ask Me 3で要点を整理し,Teach-back法で病状理解を確認する

患者さんへ説明後,「わかりましたか?」と尋ねると,ほとんどの方は「はい,わかりました」と答えます.米国の調査でも,ヘルスリテラシーが十分でない人の約8割が,理解していないことを医療者に言えずにいます4).これは,わからないと伝えると,「頭が悪いと思われるのではないか」,「不快にさせやしないか」と患者さん側が気にすることで質問を控えてしまうから4)です.日本人なら,一層その傾向が強いかもしれません.

われわれ医療者が配慮すべきことは,いつでも質問しやすい環境を整えたり,病状を正しく理解しているかを適宜確認し,補足説明したりすることです.

では,ヘルスリテラシーに問題のある患者さんへ,どんなアプローチができるでしょうか? ここでは,病状理解のポイントを整理したり,理解の現状を確認したりする2つの取り組みである,Ask Me 3とTeach-back法を紹介します.

1)Ask Me 3

患者・家族から主体的に質問するよう習慣づけ,さらに重要ポイントを整理し,理解を促す工夫にAsk Me 3 5)という取り組みがあります.

まず,次の3つの質問を患者・家族から,医療者側に質問してもらいます.そして,医療者はその質問に答えます.

  • 私のおもな問題は,何ですか?
  • 私は,何をする必要がありますか?
  • それは,なぜ重要なのですか?

この3項目を患者さんがしっかり理解できていれば,「何が」重要なのかを整理でき,セルフケア指導に活かせると思いませんか?

この質問には,患者さん自身が普段から答えられるように指導しておくとよいでしょう6)

筆者らは病院の外来ブースに図のポップアップディスプレイを設置して患者さんの説明に役立てています.

図

重要なことは,“患者さんから”質問をしてもらうこと.このAsk Me 3の取り組みは,「質問をしてもよい,質問をしても恥ずかしくない」というメッセージを伝えるのにも役立ちます.

2)Teach-back法

これは,医療者から説明を受けた患者さんに自身の言葉で改めて話してもらうプロセスを通して,医療者の説明がどの程度理解されているかを確認する方法です.

とはいえ,「では,今話したことを私に説明してください」と医療者に言われたら,患者さんは緊張してしまいます.そこで「今の説明内容をご家族に伝えるとしたら,どんなふうにお話しされますか?」と柔らかい表現に変えて確認をするのがよいでしょう6)

もちろん,すべてにおいてTeach-back法を用いる必要はありません.しかし,喘息発作時のレスキューの行い方やインスリン自己注射の開始時期の指導など,セルフケアの手法やその意義に対する理解が不十分だと生命を危険にさらすような事項であれば,この手段を活用して,理解の現状を把握する必要があります.なお,手技の理解を確認する場合も同様に行います.この場合は,実際に手技をやってみせてもらうので,Show-me法といいます.

最後に

ヘルスリテラシーの問題解決には,患者・家族と医療者双方の歩み寄りが必要です.健康問題に対して患者さんから主体的にかかわってもらう一方で,われわれ医療者もまたコミュニケーションの齟齬を減らす工夫が必要です.

多職種協働を活用し,すべての患者さんが少なくとも自身の病気と処方薬の名称・目的を説明できるレベルをめざしたいものです.

担当患者さんは,あなたの話を理解できていますか? もう一度,今回の視点で振り返ってみてください.少し疑問をもつだけで,ヘルスリテラシーの問題を見過ごしていることに気づくかもしれません.今日から皆さんも,Ask Me 3とTeach-back法を実践してみませんか?

文献

  1. Sørensen K, et al:Health literacy and public health:a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health, 12:80, 2012
  2. Duong TV, et al:Measuring health literacy in Asia: Validation of the HLS-EU-Q47 survey tool in six Asian countries. J Epidemiol, 27:80-86, 2017
  3. Nakayama K, et al:Comprehensive health literacy in Japan is lower than in Europe:a validated Japanese-language assessment of health literacy. BMC Public Health, 15:505, 2015
  4. 「Health literacy and patient safety:Help patients understand. Manual for Clinicians. 2nd ed.」(Weiss BD),American Medical Association and AMA Foundation, 2007
  5. The Institute for Healthcare Improvement(IHI)and the National Patient Safety Foundation(NPSF):Ask Me 3:Good Questions for Your Good Health(外部サイト)
  6. 「ヘルスリテラシー 健康教育の新しいキーワード」(福田 洋,江口泰正/編著),pp1-22,大修館書店,2016

Profile

木村紀志(Noriyuki Kimura)
筑波大学附属病院 総合診療グループ/恒貴会大和クリニック
東京出身.茨城県厚生連水戸協同病院で初期研修.現在はつくば家庭医・病院総合医プログラムにて後期研修中.日常診療の場でヘルスリテラシーについて介入できるようになるべく,修行の日々.
阪本直人(Naoto Sakamoto)
筑波大学 医学医療系 地域医療教育学 講師/筑波大学附属病院 総合診療グループ
関西出身.星ヶ丘厚生年金病院〔現:星ヶ丘医療センター(大阪)〕で初期研修.亀田メディカルセンター(千葉)で岡田唯男プログラムディレクターのもとで家庭医後期専門研修を受ける.その後,亀田ファミリークリニック館山の創設にかかわり,同初代医長を経て,2008年 筑波大学(茨城)総合診療グループへ移籍.2009年より同大学院 地域医療教育学 講師となり,現在に至る.日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・指導医・代議員.日本ヘルスプロモーション学会 常任理事・評議員.サブスペシャリティーはヘルスプロモーション.研究テーマはヘルスリテラシー.詳しくは『つくば 総合診療』で検索.
  • WEB限定(2018年6月公開)