まずはこれだけ! 内科外来で必要な薬剤

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総 論

2 自家薬籠リストの記載例

木村琢磨
(東京医科歯科大学医学部 介護・在宅医療連携システム開発学講座)

  • 「自家薬籠」として選択された薬剤は,各医師の自家薬籠リスト(多くは “頭の中” に “抽斗” として)に加えられる
  • まず,疾患名や症状ごとに,類似薬剤との分類・関係や,臨床薬理学的,あるいは臨床的分類(妊娠中・授乳中,腎機能障害など)について確認しておく
  • 次に,各薬剤における,剤形,禁忌,頻度の高い副作用などについて認識しておく
  • そして,薬剤を処方後に,効果や副作用について経過観察し,必要に応じて薬剤リストの評価・吟味を行い,更新を重ね洗練していく
自家薬籠臨床薬理学的分類臨床的分類

はじめに

「自家薬籠」として選択された薬剤は,自家薬籠リストに加えられます.本来,この自家薬籠リストは,おのおのの臨床医の頭の中に “抽斗(引き出し)” として存在するものであり,当然,筆者も厳密なリストを作成しているわけではありません.ただし,近年は,電子化したリストが容易に作成できるようになっており,例えば,世界保健機関(WHO)の必須医薬品モデルリスト(Model List of Essential Medicines)」(総論1参照)1)は,ExcelやWord形式で出力して,個々のリスト作成に活かすことが可能です.

本項では,自家薬籠リストの記載例について解説いたします.

自家薬籠リストの記載例

医師は患者の疾患名や症状に基づき,患者の意向を踏まえたうえで,保険適用のある有効薬剤の処方箋を作成して薬物療法を開始します.その際,迅速かつ適切に薬剤を選択するためには,自家薬籠リストが実用的に記載されている必要があります.

筆者は,自家薬籠リストの記載を,1)類似薬剤との分類・関係,2)各薬剤に対する記載項目に分けて考えることが有用であると考えています.ここでは例として,抗ヒスタミン薬であるデスロラタジン(デザレックス®)をとりあげます2)

1)類似薬剤との分類・関係

疾患名や症状ごとに,類似薬剤との関係を,臨床薬理学的,あるいは臨床的分類にまとめておくと有用です.本書の各論では,これに準じた形式にしています.

臨床薬理学的分類は,文字通り,薬理学的な分類であり,デスロラタジン(デザレックス®)では表1の通りです.薬剤の種類によっては,分類が,より細目化されることがあり,例として消化性潰瘍治療薬について表2にあげます.

臨床的分類として,疾患名や症状,おのおのにおける薬物療法に関連した臨床的課題について,まとめておくことは有用です.例えばデスロラタジンが属する抗ヒスタミン薬では「眠気」についてが該当します.そのほか,妊娠中・授乳中などについては処方時に悩ましいことが多く,臨床実践を行いつつ確認しておくとよいと思います(表33)

2)各薬剤に対する記載項目

服用法,用量・用法は,各薬剤において疑問点があれば,その都度,確認した方がよいでしょう.そのうえで,あらかじめ認識しておくと有用な項目を記載しておくと有用です.表4にデスロラタジン(デザレックス®)における記載例を示します3)

まず,剤形,禁忌,頻度の高い副作用,合併症(腎機能障害,妊娠中・授乳中など),第二選択薬などについては,個々の臨床医が理解しておくべきでしょう.

次に,剤形として,錠剤以外,シロップ,粉などや,(類似薬を含む)坐薬の有無について,確認しておくとよいでしょう.禁忌,頻度の高い副作用については,必ず認識しておくべきです.頻度の高い副作用については,患者に情報提供しつつ不安を煽らないために,具体的な説明法を “準備” しておくとよいでしょう.

合併症については,特に腎機能障害は高齢者では多く,薬剤の使用可否,減量の必要性について熟知しておきます.日常診療で,妊娠中・授乳中の患者に対して処方した「安全性について検討されていることが明らかな薬剤」について,次に活かすべくメモを追加しておくとよいでしょう.自家薬籠リストに加えられた薬剤は,いわばおのおのの医師にとっての標準治療薬と言えますが,合併症や入手不可能な場合を想定して,代替薬など第二選択薬も明確にしておくと役立ちます.これは,非常勤で診療する際をはじめ,災害時などにも有用です.

そのほか,薬剤の特徴として,「このような際に使用するとよい」という “自分なり” のコツについて,箇条書きやメモ程度に記銘しておくと糧になると思います.さらに,薬価についても,ある程度は認識しておくべきです.一般に,比較的,新しい薬剤は思いがけず高価であることがあり,その際,治療期間を踏まえコスト意識をもつようにしたいところです.

自家薬籠リストの更新

臨床の真髄は,経験に裏打ちされた診療であり,当然,経験を重ねるにつれリストに変化が生じていきます.例えば,高齢者などへの微妙な “匙加減” などは現場でしか習得できないことが多く,それが薬物療法を実施するうえで最も重要な個別化へつながります.そして,実際に薬剤を処方した後は,効果や副作用について経過観察し,必要に応じて薬剤リストの評価・吟味を行い,更新を重ね,洗練していきます.リスト化が目的ではないことを,筆者自身も肝に銘じるしだいです.

おわりに

薬剤の処方に限りませんが,筆者自身,経験の浅いうちは,諸先輩方からの指導のもと,知識のみでは適切な薬剤処方が行えないことを痛感しました.そして,経験が重なるにつれ,今度は,新しい知識や情報の更新が十分ではない状況があることがあります.そして,「新しい薬剤ではなく古くからある薬剤」,あるいは「長年使用している(リスト化した)薬剤」だから処方しても大丈夫だろうという論理に陥らないよう自戒しています.特に,薬剤の適応,用法・用量について,最新の知見を,成書や,インターネット上で容易に閲覧可能である添付文書などによって,労をおしむことなく確認することを心がけたいと思っています.

文 献

まずはこれだけ! 内科外来で必要な薬剤