「この患者さんリウマチ・膠原病かも?」と迷ったときの診断のカンどころ

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第1章 自己抗体などの異常からの紹介

4 抗SS-A抗体が陽性ですが,シェーグレン症候群でしょうか?

安部沙織,坪井洋人,松本 功

  • 抗SS-A抗体陽性は,必ずしもシェーグレン症候群の診断に直結しない
  • シェーグレン症候群の診断には,乾燥症状(腺症状)の聴取と,腺外症状の評価が必要である
  • シェーグレン症候群の診断には,多角的な検査の組合わせが必要である
抗SS-A抗体口腔内乾燥シェーグレン症候群腺外症状

はじめに

抗SS-A抗体は,シェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome:SS)や全身性エリテマトーデス(systemic erythematosus:SLE)に関連する自己抗体の1つです.特にSSでは,厚生労働省改訂診断基準の一項目に含まれる所見1,2)表1)として,その診断に重要な役割を果たします.このため,抗SS-A抗体が陽性である場合,SSの可能性が考慮されます.しかし,抗SS-A抗体が陽性であることは,必ずしもSSを意味するわけではなく,逆に抗SS-A抗体が陰性であってもSSの可能性を否定することはできません.また,抗SS-A抗体はSS以外のさまざまな自己免疫疾患でも陽性になる場合があります.本項では,抗SS-A抗体陽性例の臨床的意義と,シェーグレン症候群の診断における留意点について解説します.

80歳女性.数カ月前からの口渇を訴え,かかりつけ医を受診した.検査にて抗SS-A抗体陽性が判明し,“シェーグレン症候群”の可能性が疑われ,専門医へ紹介された.既往歴に高血圧があり,通院加療中であった.

抗SS-A抗体とは

1)抗SS-A抗体には抗Ro52抗体と抗Ro60抗体の2種類がある

抗SS-A抗体は2種類の異なる分子量をもつRo抗原(52kDaと60kDa)を認識する自己抗体です.この2種類の自己抗体は交差反応を示さず,それぞれに抗Ro52抗体,抗Ro60抗体とも呼ばれますが,現在これら2種類をまとめて抗SS-A抗体と呼ぶのが一般的です.本邦では抗SS-A抗体の測定は,主に化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay:CLEIA)が広く用いられており,その対応抗原としてRo60kDa抗原は含まれますが,Ro52kDa抗原は含まれていません.また蛍光酵素免疫測定法(fluorescence enzyme immunoassay:FEIA)も広く用いられ,こちらはRo52kDa,Ro60kDaをともに抗原として含んでいます.そのため,抗SS-A抗体陽性という結果だけでは,抗Ro52抗体と抗Ro60抗体を区別することは困難です.本邦においてこれら2種類の異なるRo抗原に対する自己抗体を測定することは困難ですが,近年それぞれに臨床的意義が異なると報告されており4),患者背景によって抗SS-A抗体陽性の意味合いを解釈していく必要性があります.

2)抗Ro52抗体と抗Ro60抗体の臨床的意義

Ro52 kDa抗原とRo60kDa抗原は細胞内における局在やその機能に違いがあります.Ro52抗原は主に細胞質に存在し,Ro60抗原は核内に存在します4,5).つまり,抗Ro 52抗体のみが単独陽性の場合,抗SS-A抗体が陽性であるけれど抗核抗体は陰性,という状況がありうるわけです.また抗Ro52抗体は,シェーグレン症候群だけでなくさまざまな疾患で陽性となることが知られています6).抗SS-A抗体を抗Ro52抗体・抗Ro60抗体とそれぞれ区別して測定してみると,それぞれ抗Ro52抗体単独陽性で68%,抗Ro60抗体単独陽性で82%,抗Ro52抗体と抗Ro60抗体両者の陽性で89%の頻度で膠原病疾患の診断を伴い,それ以外は非膠原病性疾患や偶発的陽性例であったという報告があります7).そのため抗Ro52抗体と抗Ro60抗体の両者が存在する場合,より膠原病疾患らしいと考えられそうですが,それらを包括する抗SS-A抗体が陽性であることがSSを含む膠原病疾患の診断に直接結びつかないということがわかると思います.また抗Ro52抗体は診断において有用なだけでなく,SSや皮膚筋炎においての疾患重症度や間質性肺炎の合併と関連することも近年報告されており,臓器障害や予後を反映するマーカーとしての可能性もあると考えられています8,9)

3)抗SS-A抗体の臨床的意義

抗Ro52抗体と抗Ro60抗体の意義を踏まえると,それらを包括する抗SS-A抗体が陽性であることは,多彩な意味合いをもち,その解釈は個々の検討が必要です.抗SS-A抗体陽性における背景疾患の頻度としてはSSや全身性エリテマトーデス(SLE)といった膠原病疾患の頻度が多く報告されています.一方で,基礎疾患が診断されない例もあり,全体の7%程度が特定の疾患に関連しない偶発性の抗SS-A抗体陽性例であることが報告されています10).膠原病疾患における抗SS-A抗体陽性率を疾患別にみると,SSで60〜70%,SLEで32%,炎症性筋疾患で19%,強皮症で21%,混合性結合組織病で29%,関節リウマチで15%と報告され,ほかにも原発性胆汁性胆管炎,間質性肺炎や未分類膠原病疾患でも陽性が認められます3,4).特に注目すべき点としては,SSにおいても約3割が抗SS-A抗体陰性であることです.さらに,SSの診断に関連する抗SS-B抗体は,そのほとんどが抗SS-A抗体とともに発現するため,抗SS-Aおよび抗SS-B抗体がともに陰性となる血清反応陰性のSSが約3割いることがわかっています11).これらの知見から,膠原病疾患の診断において,自己抗体の陽性・陰性という結果だけでは診断に結びつかないことが明らかです.各疾患に特徴的な臨床所見を確認することが,診断を進めるうえで重要であることがわかります.具体的には,ドライアイ・ドライマウス,発熱,関節症状,筋症状,皮膚病変,肺病変,腎病変を疑う症状や所見の有無を確認するために病歴聴取や診察を行いましょう.いずれの疾患も診断されない場合には,特定の疾患に関連しない偶発性の抗SS-A抗体陽性である可能性があります.偶発的な抗SS-A抗体陽性は,病的意義をもたないことがほとんどですが,挙児希望のある女性では注意が必要です.抗SS-A抗体は,基礎疾患の有無を問わず新生児ループスのリスク因子であることが知られている自己抗体です.そのため,挙児希望のある抗SS-A抗体陽性の女性患者においては適切なカウンセリングが必要であり,専門医への紹介が考慮されます

シェーグレン症候群とは

1)シェーグレン症候群の診断

抗SS-A抗体のみで診断がなされないとすると,SSの診断はどのように進めるべきでしょうか? 自己抗体の測定は診断における重要な所見ですが,それに加えて,まず涙腺や唾液腺に由来する乾燥症状である腺症状の有無,さらに腺症状以外の全身的な腺外症状の有無を確認しましょう.腺症状をスクリーニングするための有効な病歴聴取として,米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)と欧州リウマチ学会(European Alliance of Associations for Rheumatology:EULAR)が提案したSS分類基準の組み入れ項目が参考になります.これには次のような確認事項が含まれます.

《腺症状(乾燥症状)》
・3カ月以上続く眼の乾燥症状
・眼に砂が入ったような異物感の反復
・点眼を1日3回以上使用する
・3カ月以上続く口渇
・乾いた食べ物を飲みこむ際に飲み物が必要になる

これらのうち,いずれか1つでも該当する場合,SSの可能性が示唆されるため,さらなる検査を検討します.腺症状以外の全身性腺外症状は多岐にわたります.特に頻度が高いのは筋骨格系の症状(30〜70%)で,ほかにも間質性肺障害,間質性腎炎・尿細管性アシドーシス,末梢神経障害・中枢神経障害などの重要臓器障害はそれぞれ20〜30%で認められることが報告されています3,12)図1).さらに,乾燥症状が乏しいケースも一定数存在します.SS患者のうち,自覚的に乾燥症状が乏しい例は約10%,他覚的所見が乏しい例は約24%とされています13). そのため,乾燥症状のみでなく,図1に示す全身症状を考慮し,病歴聴取や診察を行うことが重要です.そのうえで,SSが疑われる際には抗SS-A抗体,抗SS-B抗体といった自己抗体の測定に加え,唾液腺・涙腺の評価を行いましょう.診断基準には含まれませんが,抗SS-A抗体・抗SS-B抗体が陰性のSSにおいて抗セントロメア抗体の陽性率が高かったという報告があります14).このため,臨床的にSSが疑われる際には抗セントロメア抗体の追加検査を検討することが有用と考えられています.

2)診断のための検査

本邦のSS診断基準(表1)において,診断に必要な検査項目は以下の4項目があげられています.

①生検病理組織検査:口唇・または涙腺の生検
②口腔検査:唾液腺造影,唾液分泌量かつ唾液腺シンチグラフィー
③眼科検査:シルマー試験かつローズベンガルテストもしくは蛍光色素試験
④自己抗体検査;抗SS-A抗体,抗SS-B抗体

この診断基準は国際的なほかの分類基準と比較しても感度・特異度ともに優れている基準ではあリますが15),唾液腺シンチグラフィーや唾液腺造影検査,眼科検査におけるローズベンガルテストが可能な施設が限られているなどといった問題点や,近年報告されている唾液腺超音波検査の記載はなく,今後議論が必要な部分です.

各検査に関してですが,生検病理組織検査は口唇腺生検が一般的で,外来で局所麻酔を用いての施行が可能です.なお病理組織の所見は巣状であり,採取する検体によって病変のばらつきが観察されます.そのため,正確な診断のためには少なくとも4片以上の検体採取が推奨されています3).SSの診断における口唇小唾液腺生検は,感度80〜92%,特異度88〜97%と高い診断精度が報告されています16).さらに,病理組織検査は診断に寄与するだけでなく,リンパ球浸潤の程度が強いほど将来的な悪性リンパ腫のリスクが高まることが報告されており,病勢や予後を反映する所見としても有用とされています17).口腔検査では,唾液分泌量の測定が簡便なスクリーニング法として用いられます.ACR/EULARのSS分類基準では,無刺激唾液分泌量の測定が推奨されていますが,本邦ではガムテストやサクソンテストといった刺激下での唾液分泌量測定が採用されており,それぞれ10分間に10mL以下,2分間に2g以下で陽性となります.眼科検査では,濾紙を下眼瞼結膜に挟み涙液量を測定するシルマー試験(5分間に5mm以下で陽性)がスクリーニングとして用いられます.それに加え,角結膜上皮障害の評価としてローズベンガル試験,もしくは蛍光色素試験での評価が必要になります.このように,SSの診断は,自己抗体の測定に加えて,涙腺・唾液腺の評価を目的とした検査を組合わせ,総合的に判断します.

薬剤性口渇

最終診断に至ったプロセス
本患者は抗SS-A抗体が陽性であり,3カ月以上持続する口渇感を訴えていた.病歴聴取や身体所見上では,腺外病変を疑う所見や,ほかの膠原病疾患を疑う臓器障害は認められなかった.追加の病歴聴取により,昨年夫が他界した頃から食思不振,不安感,気分の落ち込みを認め,かかりつけ医でスルピリド内服を開始されていたことが判明した.口渇は内服開始後から強く自覚していた.SSに対する精査では,口腔検査では唾液分泌量の低下を認めたが,唾液腺シンチグラフィーおよび唾液腺造影検査は陰性であった.眼科診察でもドライアイの他覚的所見は認められなかった.口唇小唾液腺生検では,導管周囲の巣状リンパ球浸潤をはじめとするSSに特徴的な病理所見は認められなかった.

おわりに

抗SS-A抗体はシェーグレンをはじめとする自己免疫疾患の診断に重要な役割を果たしますが,その解釈には個別での注意が必要です.本項では,抗SS-A抗体が陽性の際に考慮すべきことと,シェーグレン症候群を疑った際の診断方法に関して説明しました.抗SS-A抗体陽性という結果だけでは自己免疫疾患の診断に結びつかず,またシェーグレン症候群患者のなかにも抗SS-A抗体陰性例がいることは覚えておきましょう.

ひとことパール

自己抗体陽性は必ずしも診断と直結せず,その逆もまた然りです.まずは臨床症状を確認し,総合的に判断しましょう.

文 献

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  • 厚生労働省:シェーグレン症候群(SjS)改訂診断基準,1999(2025年2 月閲覧)
  • 「シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第3版」(日本シェーグレン症候群学会/編,竹内 勤,他/監),診断と治療社,2018
  • Lee AYS, et al:Anti-Ro60 and anti-Ro52/TRIM21: Two distinct autoantibodies in systemic autoimmune diseases. J Autoimmun, 124:102724, 2021[PMID:34464814]
  • Wada K & Kamitani T:Autoantigen Ro52 is an E3 ubiquitin ligase. Biochem Biophys Res Commun, 339:415-421, 2006[PMID:16297862]
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「この患者さんリウマチ・膠原病かも?」と迷ったときの診断のカンどころ