実験医学2022年1月号 特集「夜明けを迎えたヒト免疫学〜臨床検体からヒトの免疫応答機構の実態を知り、疾患制御に挑む」

ヒトがん免疫療法の発展と課題

種子島時祥,小山正平,西川博嘉
特集

夜明けを迎えたヒト免疫学

ヒトがん免疫療法の発展と課題
CD8+ T 細胞からの視点
種子島時祥,小山正平,西川博嘉
細胞表面に CD8 を発現する細胞傷害性 CD8+ T 細胞は,抗腫瘍免疫応答において最も強力に腫瘍を攻撃する.現
在効果をあげている多くのがん免疫療法は,CD8+ T 細胞の細胞傷害機能を増強させるものである.免疫チェッ
クポイント阻害薬は主に,免疫応答を制御する免疫抑制性の受容体を標的としており,キメラ抗原受容体 T 細胞
療法は,細胞傷害機能を高める目的で,がん表面に発現する抗原分子に対する抗体の認識部位と T 細胞受容体を
遺伝子改変により融合してがん抗原を特異的に認識する CD8+ T 細胞を使用している.本稿では,がんおよびが
ん免疫療法において重要なプレーヤーである細胞傷害性 CD8+ T 細胞にスポットをあて,これまでの研究のあゆ
みとこれから解決するべき課題について述べる.
キーワード

細胞傷害性 CD8+ T 細胞,抗 PD-1 抗体,抗 CTLA-4 抗体,
CAR(chimeric antigen receptor,キメラ抗原受容体)-T 細胞療法

はじめに

定づける重要な因子であり,抗腫瘍免疫細胞の腫瘍局
所への浸潤,または抑制性免疫細胞の腫瘍局所からの

ヒトの体内では 1 日数千個の単位で遺伝子異常を
もった細胞がつくられているが,ヒトに備わったがん

排除は,がん免疫療法が効果をあげるうえで非常に重
要である 2).

免疫監視※ 1 システムにより,異常な細胞は排除されて

適応免疫に寄与する細胞傷害性 CD8+ T 細胞は,抗

いる 1).しかしながら ,がん免疫監視システムが働い

腫瘍免疫応答において強力なプレーヤーであり,がん

ていたとしても,しばしばがん細胞は排除されず,結

免疫療法の作用点となっている.免疫チェックポイン

果として体内でがんが顕在化する.免疫細胞は,がん

ト阻害薬は,抑制的な免疫受容体を遮断し,C D 8+ T

細胞や腫瘍微小環境※ 2 に由来する多数の活性化シグナ

細胞を含む機能不全に陥った T 細胞を活性化させるこ

ルおよび抑制性シグナルに応じて,その働きを変化さ

とを目的としている 3).また,キメラ抗原受容体(chi-

せる.免疫細胞の腫瘍に対する作用は,臨床転帰を決

meric antigen receptor,CAR)T 細胞療法は,遺伝子
改変された抗体の抗原認識部位と T 細胞受容体の融合

※ 1 がん免疫監視
細胞自身の遺伝子異常に対する修復力が間にあわなくなった場合に,
T 細胞などの免疫細胞の力を借りて,がんになりかけている細胞を
排除しようとするしくみ.

※ 2 腫瘍微小環境
腫瘍細胞やその周囲に存在する正常細胞,免疫細胞をはじめとする
さまざまな細胞および非細胞成分から構成され,腫瘍増殖や免疫療
法の効果に大きく影響する.

によってがん抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容
体をもつ C D 8+ T 細胞を使用する治療である 4).これ
ら 2 つの治療法は ,多くのがん種の治療戦略に組み込
まれ,がん治療に革命をもたらした.また,単剤によ
る治療だけでなく,複数の治療方法を組合わせたコン

Developments and challenges in human cancer immunotherapy : perspective from CD8+ T cells

Tokiyoshi Tanegashima1)2)/Shohei Koyama1)/Hiroyoshi Nishikawa1)3):National Cancer Center Japan1)/Kyushu University
(国立がん研究センター 1)/ 九州大学
Graduate School of Medical Science2)/Nagoya University Graduate School of Medicine 3)
大学院医学研究院 2)/ 名古屋大学大学院医学研究科 3))

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

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続きは本誌にて御覧ください.
この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画