実験医学2022年1月号 カレントトピックス

臓器チップを用いた平面内細胞極性制御と気道疾患モデルへの応用

曽根尚之,後藤慎平
Sone N, et al: Sci Transl Med, 13: doi:10.1126/scitranslmed.abb1298, 2021

臓器チップを用いた平面内細胞極性制御と
気道疾患モデルへの応用
曽根尚之,後藤慎平
線毛上皮細胞は細胞間の協調的な線毛拍動により,病原体等を一方向性に除去する機能を担うが,分化誘
導した気道上皮細胞シート上で平面内細胞極性を制御し,協調運動を再現する方法はこれまで確立されてい
なかった.今回われわれは液流刺激により線毛上皮細胞の平面内細胞極性を制御し,疾患モデルに応用でき
る方法を開発した.

線毛上皮細胞は上気道・下気道に侵入した病原体や

ている報告 3)4)を参考に,ヒトの生体内により近い状態

異物を一方向性に除去する機能を担っているが ,その

での培養が可能な「臓器チップ」としてマイクロ流体

機能を発揮するためには線毛上皮細胞間での協調的な

気道チップを用いることを試みた 5).これにより ,液

線毛拍動※が必要となる 1).この線毛拍動が減弱したり

流による方向性のある物理的な刺激を加えながら分化

協調運動が乱れたりすると ,病原体や粘液が効率的に

誘導を行うことで,多細胞間の平面内細胞極性と線毛

排泄されず感染・炎症を引き起こし ,くり返す肺炎や

協調運動の制御が可能か調べることや,平面内細胞極

気管支拡張症といった慢性呼吸器疾患の原因となる .

性の制御メカニズムの解明や線毛機能不全症候群を例

これまでヒト iPS 細胞や基底細胞から気道上皮細胞へ

に細胞シートレベルでの疾患モデルを作製することで,

の分化誘導法は報告されているが ,線毛上皮細胞の一

新規の診断法や治療法に役立てることができないかと

細胞レベルでの機能は再現できても ,生体内で観察さ

考えた.

れるような多細胞間の線毛協調運動を再現することは
できていなかった 2).特に線毛協調運動の障害が原因と
なる気道疾患を培養皿内で再現することは困難だった.
そこで液流刺激や機械的刺激により線毛上皮細胞や
脳室上衣細胞の協調運動が形成されることが示唆され

液流刺激により気道上皮細胞シート内で
平面内細胞極性が制御されて
一方向性の線毛協調運動が形成された
マイクロ流体気道チップを用いて ,まだ平面内細胞
極性の形成前である気道上皮幹細胞の時点から一定強

※ 線毛拍動

モータータンパク質であるダイニンが ATP の加水分解エネルギーを利
用して起こす,時間的・空間的に制御された規則正しい周期的な線毛の
屈曲運動.この屈曲運動により病原体や異物を除去するのに必要な粘液
流が形成される.

度かつ一方向性の液流刺激を与え続けながら 14 日間の
培養を試みた .細胞間の協調運動が形成されたかどう
かの評価には ,代表的な平面内細胞極性コアタンパク

Multicellular modeling of ciliopathy by combining iPS cells and microfluidic airway-on-a-chip technology

Naoyuki Sone1)/Shimpei Gotoh1)2):Department of Respiratory Medicine, Graduate School of Medicine, Kyoto University 1)/
(京都大学大学院 医学
Department of Drug Discovery for Lung Diseases, Graduate School of Medicine, Kyoto University 2)
研究科 呼吸器内科学 1)/ 京都大学大学院 医学研究科 呼吸器疾患創薬講座 2))
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実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022
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この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画