実験医学2022年1月号 カレントトピックス

TSLP刺激されたT細胞は皮脂分泌を促進させ,体内脂肪を減少させる

上林 拓
Choa R, et al: Science, 373: doi:10.1126/science.abd2893, 2021

TSLP 刺激された T 細胞は皮脂分泌を促進させ,
体内脂肪を減少させる
上林 拓
免疫細胞が熱発生により脂肪代謝を促すことは以前より知られていたが,今回,われわれは違う機序でも
免疫細胞が体内脂肪を減少させることを発見した.TS L P というサイトカインで刺激された T 細胞は,皮膚
に移行し,皮脂腺から脂肪の放出を促進させることで体内脂肪を減少させる.このしくみは,脂肪代謝や皮
膚バリア機能の向上につながると考えられる.

近年,肥満症はますます深刻な健康問題となってい

わせる 3)〜 7).すなわち,1 型免疫反応を 2 型や抑制型の

る.世界の成人の 33 %以上が太りすぎまたは肥満であ

免疫反応に転換させれば肥満の治療に結びつく可能性

り,肥満合併症の 2 型糖尿病,脂肪肝疾患,動脈硬化,

がある.われわれは以前 ,2 型免疫反応を誘導するサ

心臓病などが急増している .肥満症は取り込みエネ

イトカインで知られる thymic stromal lymphopoietin

ルギーが放出エネルギーを超えることによるアンバラ

(TSLP)が制御性 T 細胞も増殖させると報告した 8).今

ンスで引き起こされる.もしエネルギー代謝を上昇さ

回は TSLP による 2 型免疫反応と制御性 T 細胞の双方

せることが可能ならば,放出エネルギーが増え,肥満

の促進が肥満合併症の改善につながると仮説を立てた.

1)

の解消につながる.脂肪組織のエネルギー代謝は免疫
反応による炎症が大きくかかわっていることは以前か
ら知られている 2).さまざまなタイプの免疫反応のな
かには,1 型,2 型と抑制型が存在する.1 型は細菌や

TSLP は皮脂を促すことで脂肪を減少させる
TSLP の肥満合併症に対する効果を検証するために,

ウイルスに対する免疫反応 , 2 型は寄生虫の排除など

マウスに高脂肪食を10 週間食べさせて太らせ,TSLP を

粘膜や皮膚バリア機能の向上にかかわっている.抑制

ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルス:TSLP-AAV)

型は過剰 ,もしくは誤った免疫反応を抑えるために存

で過剰発現させた.コントロールベクター(CTRL-AAV)

在する.肥満とその合併症を悪化させる一因として慢

を打 たれたマウスはそのまま体 重 が増 加 したが ,

性的な 1 型免疫反応(Th1 ヘルパー T 細胞,M1 マクロ

TSLP-AAV を打たれたマウスはみるみる体重が落ち,

ファージ , NK 細胞など)の誘導があげられる .逆に

4 週間後にはもとの体重に戻った(図 1)
.同時に,イ

2 型(Th2 ヘルパー T 細胞,ILC2,好酸球,M2 マクロ

ンスリン抵抗性,血糖値,脂肪肝の正常化がみられた.

ファージなど)や抑制型(制御性 T 細胞)はインスリ

普通食を食べさせたマウスにも同様の効果がみられ ,

ン感受性や脂肪燃焼を高め,肥満合併症を解消に向か

TSLP-AAV により2 週間で体内の白色脂肪組織がすべ

Thymic stromal lymphopoietin induces adipose loss through sebum hypersecretion

Taku Kambayashi:Department of Pathology and Laboratory Medicine, Perelman School of Medicine at the University of
Pennsylvania(ペンシルベニア大学医学部病理学分野)

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

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この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画