第1回 応募種目の選び方(2025.07.31更新)

 科研費で基本的な研究種目は「基盤研究」と「若手研究」なので,まずはこれらのどれかの種目に応募することを考えよう.年齢と実績によって基盤研究か若手研究のなかから1つと,それに加えて,もし自分の研究に適した研究領域があれば学術変革領域研究の公募研究に申請することが基本的な応募方法だと思う.

基盤研究への応募

 1章でも書いたように,基盤研究には(S),(A),(B),(C)の4種目がある.基盤研究(S)と基盤研究(A)は採択率がそれぞれ,11.9%,27.2%であり,応募者のレベルが非常に高く激戦である.本書の読者には基盤研究(C)に応募する研究者が多いかと思う.基盤研究(C)が科研費の一番ベーシックなものであるし,採択数も多い.令和6年度の基盤研究(C)の新規採択率は27.5%である.また実際に審査した経験からいうと,基盤研究(B)と基盤研究(C)の間には,かなりのレベルの差がある.両者の採択率はほぼ同じだが〔基盤研究(B)の採択率は28.0%〕,基盤研究(B)になると優れた業績(ということはインパクトファクターの高い雑誌に掲載された論文)をもっていて,これまでにも基盤研究(B)以上の研究費を獲得している研究者が多く,かなりハイレベルの競争になる.一方,基盤研究(C)になるとある程度の発表論文さえあれば十分に採択される.

 本来なら必要とする研究費の額に応じて基盤研究(A),基盤研究(B),基盤研究(C)のなかのどれかに応募するのがよいのだろうが,実際には自分の研究レベルを考慮して選択するのがよい.あまり実績がないのに多額の研究費が必要だからと,いきなり基盤研究(A)に応募しても採択される可能性は非常に低い.基盤研究(C)や後述する若手研究からスタートして,実績を積んで上位レベルの種目にチャレンジするのがよい.もちろん,この数年内にCNS(Cell,Nature,Science)三大誌などの業績があり,自信のある人は積極的に研究費の大きな種目にチャレンジするべきだろう.

若手研究への応募

 平成30年度公募から若手研究(A)が基盤研究に統合廃止され,従来の若手研究(B)をもとにした「若手研究」1種目だけになった.若手研究といっても応募要件が,博士号取得後8年未満の者であるため,必ずしも「若手」だけの研究種目ではない.この「若手研究」に応募する読者も多いと思う.

 注意点は,若手研究に関しては受給回数制限があり,交付決定を受けた場合には2回まで研究費を受給できる.つまり若手研究で2回採択されて研究費を受給したら,若手研究の応募要件を満たしていても基盤研究などに種目を変更して応募しなければならない.「交付決定を受ける」とは,採択されて交付内定の通知をもらった後に研究者が交付申請を行って交付決定されることで,交付内定を受けた後に交付申請を出さずに辞退したときには受給回数に含まれない.

 若手研究は研究者が科研費に最初に応募する種目であり,その採択率は40.1%と高い.当然,論文などの業績はまだ十分ではないことは審査委員も承知しているから,研究計画の内容が重要である.計画している研究内容がその「若手」に実現できるのか,その点をしっかりと示さないといけない.そのためには,身につけている実験テクニックや手法,研究環境などをアピールすることだ.

挑戦的研究(開拓・萌芽)への応募

 挑戦的研究は「斬新な発想に基づき,これまでの学術の大系や方向を大きく変革・転換させることを志向し,飛躍的に発展する潜在性を有する」研究計画が対象である.挑戦的研究の注意点は,研究計画に「斬新な発想」が必要なのは当然であるが,アイデアだけでは採択されることは難しいということだ.申請者が計画している研究内容を,これまでの研究活動から実行可能であることをしっかりと示す必要がある.そのために応募者の研究遂行能力やその他の部分で,これまでの研究業績を十分にアピールしなければならない.挑戦的研究は重複申請が可能で,挑戦的研究(開拓)が“基盤研究(S,A, B),若手研究(2回目)および海外連携研究(令和7年度で募集停止となったので,継続の方のみ)”と,挑戦的研究(萌芽)が“基盤研究(S, A,B)および学術変革領域研究(A)の公募研究,海外連携研究(継続の方のみ)”と同時に申請できる.これらの研究種目に応募する研究者が重複申請できることを考えると,挑戦的研究はやはり激戦である.そのため本当に挑戦的研究にふさわしい研究テーマを挑戦的研究に出すべきだと思う.挑戦的研究に応募すべきか迷っているときには,基盤研究や若手研究の方が採択率がずっと高いため,一般的にはまず基盤研究や若手研究に出すことをお勧めする.

学術変革領域研究への応募

 令和2年度から創設された学術変革領域研究は,前身である新学術領域研究と同様,研究費の額が大きく魅力的である.計画研究に入ることができれば年間数千万円で(A)で5年間,(B)で3年間の研究費があり,これだけでゆとりをもって研究に打ち込める.また公募研究も研究期間は2年間だが研究費が年間300万円以上のものが多くあり(ときには1,000万円のものもある),基盤研究(C)や若手研究よりも金額が大きい.学術変革領域研究(A)の公募研究は2領域に応募できる.

 私自身,新学術領域研究のときに計画研究と公募研究で採択された経験があるが,単に研究費の1つというだけでなく,領域メンバーとの情報交換や共同研究の実施などによって,非常に得るところが多かった.自身の研究に適した領域があれば,ぜひ応募することをお勧めする.

 学術変革領域研究(A)の公募研究は,令和7年度現在は文部科学省が審査を行っていて,申請書も文部科学省のホームページから入手する.

研究活動スタート支援

 研究活動スタート支援だけは応募期間が異なり,通常は3月から5月までなので注意しておこう.

複数の種目への応募

 科研費は1つしか応募できないのではなく,複数の種目に応募することが可能である.重複制限にならないで複数応募できる研究種目の組合わせを一覧表にしてある(表1表2).

応募が可能な研究種目
来年度の継続分はなく,新規で応募する種目 基盤研究(S) 基盤研究(A) 基盤研究(B) 基盤研究(C) 若手研究(1回目) 若手研究(2回目) 挑戦的研究(開拓) 挑戦的研究(萌芽) 学術変革領域研究(A)の公募研究
基盤研究(S) ○〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(S)のみ実施する〕 × × × ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(S)のみ実施する〕
どちらか1つ応募できる
基盤研究(A) ○〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(S)のみ実施する〕 × × × ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(A)のみ実施する〕
どちらか1つ応募できる
基盤研究(B) × × × × ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(B)のみ実施する〕
どちらか1つ応募できる
基盤研究(C) × × × × × × ×
若手研究(1回目) × × × × × ×
若手研究(2回目) ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤 (S) のみ実施する〕 ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(A)のみ実施する〕 ○ 〔同時に応募できるが,採択された場合は基盤(B)のみ実施する〕 × ×
挑戦的研究(開拓) × × × ×
基盤研究のいずれかの種目に応募できる.ただし基盤研究(S)と(A)は同時に応募できる.
挑戦的研究(萌芽) × × × ×
基盤研究のいずれかの種目に応募できる.ただし基盤研究(S)と(A)は同時に応募できる.
学術変革領域研究(A)の公募研究 ×
挑戦的研究(開拓)以外のすべての種目と同時に応募できる.ただしそれぞれの種目の重複制限がかかる.
研究活動スタート支援
どちらか1つ応募できる
どの種目にも応募できるが,それぞれの種目の重複制限がかかる.
表1 複数応募できる研究種目の組合わせ(新規)
挑戦的研究は開拓と萌芽のどちらかしか応募できない.○は重複して応募可能な種目を,×は重複して応募できない種目を示している.○をつけたもので,ただし書きのないものは,同時に受給できる.学術変革領域研究(A)の公募は2領域に応募可能である.なお,海外連携研究は令和7(2025)年度公募から新規の公募は停止となっている.
応募が可能な研究種目
現在,1課題が採択されていて,来年度も継続の研究種目 基盤研究(S) 基盤研究(A) 基盤研究(B) 基盤研究(C) 若手研究(1回目) 若手研究(2回目) 挑戦的研究(開拓) 挑戦的研究(萌芽) 学術変革領域研究(A)の公募研究
基盤研究(S) × × × × ×
どちらか1つ応募できる
基盤研究(A) × × × × ×
どちらか1つ応募できる
基盤研究(B) × × × × ×
どちらか1つ応募できる
基盤研究(C) × × × × × × ×
若手研究(1回目) × × × × × ×
若手研究(2回目) × × × × ×
挑戦的研究(開拓) × × × ×
基盤研究のいずれかの種目に応募できる.基盤研究(S)と(A)は同時に応募できる.
挑戦的研究(萌芽) × × × ×
基盤研究のいずれかの種目に応募できる.基盤研究(S)と(A)は同時に応募できる.
学術変革領域研究(A)の公募研究 ×
挑戦的研究(開拓)以外のすべての種目と同時に応募できる.ただしそれぞれの種目の重複制限がかかる.
海外連携研究 ○ 〔応募できるが,採択された場合は基盤(S)のみ実施する〕 × ×
どちらか1つ応募できる
研究活動スタート支援
どの種目にも応募できるが,それぞれの種目の重複制限がかかる.
表2 複数応募できる研究種目の組合わせ(継続)
挑戦的研究は開拓と萌芽のどちらかしか応募できない.○は重複して応募可能な種目を,×は重複して応募できない種目を示している.○をつけたもので,ただし書きのないものは,同時に受給できる.学術変革領域研究(A)は2領域に応募可能である.なお,海外連携研究は令和7(2025)年度公募から新規は公募停止となっている.

 複数応募について,応募者の多い種目からまとめていこう.なおここでは学術変革領域は公募研究のみを解説する(領域申請は扱わない).学術変革領域(A)の公募研究は2領域に応募可能である.

 まず基盤研究(C)の新規応募者は,学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる.基盤研究(C)を継続する者も,学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる.これらは採択されれば重複して受給できる.

若手研究は1回目の応募と2回目の応募では,応募できる種目が異なっている.

 若手研究(1回目)に新規応募するものは,学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる.

 若手研究(2回目)に新規応募するものは,基盤研究(S,A,B),学術変革領域研究(A)の公募研究,挑戦的研究(開拓)に応募できる(2025年3月現在).ただし基盤研究は(S)と(A)には同時に応募できるが(もちろんどちらか1種目でもよい),基盤研究(B)は(S)または(A)とは重複して応募できない.そして若手研究と同時に基盤研究に採択された場合,基盤研究を実施する.

 若手研究(1回目)を継続するものは,学術変革領域研究(A)の公募研究のみ応募できる.若手研究(2回目)を継続するものは,学術変革領域研究(A)の公募研究と挑戦的研究(開拓)に応募できる.

 海外連携研究の継続の応募者は,基盤研究(S,A,B,C)と挑戦的研究(開拓・萌芽)および学術変革領域研究(A)の公募研究に応募でき,両方同時に採択された場合は基盤研究(S)を除いて両方を実施可能であるが,基盤研究(S)だけは同時に受給できない〔基盤研究(S)のみ実施する〕.なお,海外連携研究は令和7(2025)年度公募から新規の公募は停止となっている.

 挑戦的研究(開拓)の(新規または継続の)応募者は,基盤研究(S, A, B),若手研究(2回目)に応募できる〔基盤研究は(S)と(A)には同時に応募できる〕が,学術変革領域研究(A)の公募研究には応募できない.

 挑戦的研究(萌芽)の(新規または継続の)応募者は,基盤研究(S, A, B),学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる〔基盤研究は(S)と(A)には同時に応募できる〕.

 基盤研究(S)と基盤研究(A)の(新規または継続の)応募者は,挑戦的研究の(開拓)か(萌芽)のどちらか,学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる.

 また,基盤研究(S)と基盤研究(A)の新規の応募者は両方同時に応募できる.両方同時に採択された場合には,基盤研究(S)だけ実施する.

 基盤研究(B)の(新規または継続の)応募者は,挑戦的研究の(開拓)か(萌芽)のどちらか1つと,学術変革領域研究(A)の公募研究に応募できる.

学術変革領域研究(A)および研究活動スタート支援の重複に関しては表1表2を参照.

 このように科研費は複数の種目に応募することが可能なので,重複制限をよく理解して,できるだけチャンスを活かして応募しよう.

日本学術振興会特別研究員の科研費への応募

 日本学術振興会特別研究員(DC・PD・RPD)は,科研費の一部種目に応募できる.もちろん科研費自体の応募資格を満たしている必要がある.すなわち,1章の繰り返しとなるが,①応募時点において,所属する研究機関から次の3つの要件を満たす研究者であると認められ,e-Radに研究者情報が登録されている者で,②科研費やそれ以外の競争的資金で,不正使用,不正受給または不正行為を行ったとして「その交付の対象としないこと」とされていない者は応募できる.

 3つの要件とは,

ア 研究機関に,当該研究機関の研究活動を行うことを職務に含む者として,所属する者(有給・無給,常勤・非常勤,フルタイム・パートタイムの別を問わない.また,研究活動そのものを主たる職務とすることを要しない.)であること

イ 当該研究機関の研究活動に実際に従事していること(研究の補助のみに従事している場合は除く.)

ウ 大学院生等の学生でないこと〔ただし,所属する研究機関において研究活動を行うことを本務とする職に就いている者(例:大学教員や企業等の研究者など)で,学生の身分も有する場合を除く.〕

〔令和7(2025)年度 科研費公募要領より引用〕

である.なお,応募できる種目は基盤研究(B, C),若手研究,挑戦的研究(萌芽のみ),学術変革領域研究(A)の公募研究,国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に限られる.

「特別研究員奨励費」は,日本学術振興会特別研究員の申請時のみ応募可能で,採択されると研究費が配分される.特別研究員としての採用期間の2年目以降に改めて応募することはできない.

現在,特別研究員の者はいずれは科研費に応募しなければならなくなるので,経験を積む意味でもぜひともチャレンジしてほしい.

※本コーナーは『科研費獲得の方法とコツ 第9版』(2025年6月発行)から一部抜粋・改変し,掲載したものです.記載内容は発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,最善の努力を払っております.しかし,本記事をご覧になる時点において記載内容が予告なく変更されている場合もございますのでご了承ください.

科研費獲得のための応募戦略:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
研究生活の役に立つ書籍なども少しご紹介しています.