第3回 アイデアのまとめ方のポイント(2023.07.14更新)

 どのような内容で応募するか,科研費に応募すると決めた時点で多くの人は,普段行っている研究から申請書の内容を考えているだろう.しかし申請書全体の構成を考えずに,いきなり申請書の最初の部分から書いていく人も案外いるようだ.ぜひ,まずどのような内容で応募するのか,全体の構想を考えて,おおまかなアウトラインをつくってから申請書を作成していってほしい.

 アウトラインをつくるうえでお勧めのアイデアのまとめ方を以下にあげておく

ノートに書く

 応募内容をまとめていく方法として,アイデアを視覚的にノートに書いていくことをお勧めする(図1).

図1●アイデアを視覚化する例

図1 アイデアを視覚化する例

アイデアをまとめるには,頭で考えるだけでなく,文字や図表にして視覚化するとよい.何でもよいからノートに書いてみて,目で見て考えると,よいアイデアが浮かぶことが多い.

 それは,ただ研究内容を頭の中で考えているのと,実際にその内容を文字や絵で視覚化してみるのとは大きく違うからだ.アイデアの断片だけでもノートに書いて目で見ていると,さらに必要な実験とか,こういった実験も可能なのでは,などのヒントを得やすい.どのようにアイデアをノートに書いていくかは各人によって異なるだろう.私の場合は研究内容で思いついたことを,形式も何も考えずに,何でもよいから書いていくようにしている.ただアイデアを書き留めておく.きれいでなくても,わかりにくくても,気にしない.ともかく文字や文章や絵にして書いていくことだ.

 私個人の感想だが,アイデアを書いていくのはアナログに限る.パソコンを使ってワープロソフトやプレゼンテーションソフト,その他のソフトでアイデアをまとめていく方法もあるが,なぜかペンとノートというきわめてアナログな手法の方がアイデアが浮かびやすい(と,思っているのは私だけだろうか?).

Post-it® を使う

 Post-it®(付箋)を普段も使っていることと思う.これをアイデアをまとめるために利用する方法がある.75 mm四方の大きめのものに,キーワードや図を記入していく.記入したものを壁やボードに貼って,並べ替えたり,項目を追加したりして,全体の構成を組み立てていく(図2).

図2●Post-it®を使ってアイデアを書き留め,壁に貼って構成を考えていく

図2 Post-it® を使ってアイデアを書き留め,壁に貼って構成を考えていく

マインドマップでまとめる

 「マインドマップ」という思考の整理手法を知っているだろうか? これもアイデアをまとめていくのに非常によい方法である.アイデアをどんどん出して,関連したものを視覚化していく(図3).マインドマップに関する書籍もたくさん出ているので,一度調べてみることをお勧めする.

 以上のものに共通しているのは,アイデアやその断片を,目に見える形で視覚化していくこと.不思議なもので,頭で考えるだけよりも,目や耳などの五感を総動員して考える方が,はるかによいアイデアが生まれる.

 申請書の内容をどのようにするかアイデアが浮かばないというときは,「その研究計画で何をやるのか」がまだ自分のなかで決まっていないのだ.まず自分が行っている研究をしっかりと再検討して,申請書のアイデアをまとめていこう.

図3 マインドマップの見本

図3 マインドマップの見本

マインドマップはアイデアをまとめるのに役に立つ.その奇妙な形は最初,抵抗を覚えるかもしれないが,なかなか面白い.

3つずつアイデアを出す ―初心者におすすめの方法

 科研費の申請書をみてくれる適当な指導者がまわりにいない,科研費に採択された人がまわりにいない,手元に科研費申請書の見本がない,などの環境にいる科研費申請の初心者は,どうしても内容の薄い申請書になりがちだ.科研費申請の研究テーマを決めても,経験が少ないため,どのような内容で申請書を書いていったらいいのかわからない,申請書のスペースが埋まらないと訴える人が多い.それは研究内容をはっきりと自分の中で確立していないのが本当の理由なのだが,確かに初心者には申請書に向かって書こうとしたときに,そのスペースの大きさに戸惑ってしまうことが多いようだ.

 こういったときには「研究テーマに関して3つの研究項目を出してみて」とアドバイスする.アイデアを3つ出してと言えば,誰でもなんとかひねり出すものだ.そうして出された3つの研究項目について,詳しく内容を書いていくと申請書のスペースを埋められる.基盤研究(C)や若手研究では申請書のスペースに3つくらいの具体的な研究項目を中心に書いていけば,少なくとも全体の構成は整う.さらに「研究目的,研究方法など」の部分では,研究項目ごとに,それぞれさらに3つくらいの具体的な実験方法を書いていけばよい.

 例をあげてみていこう(実例をもとにした架空の内容である).

 申請予定の研究テーマ:「創傷の持続洗浄療法による感染予防」

 実験内容:感染創モデルを作製して,持続洗浄療法を行った群と行っていない群とで創傷部の感染状態や治癒を比較する.

 このような内容で相談を受けたとする.正直これだけでは内容が弱すぎると思う.ただ単に治療を行った群と行っていない群との比較だけだからだ.初心者にありがちなのだが,「~を測定する」「~と~を比較する」「~を調べる」といった簡単なレベルの記述で終わっている例が多い.そこをもう少し踏み込んで,そのためにどのような研究を行うのか,具体的にどういった実験を行うのかまで,詳しく書いてほしい.

 相談しながら,3つの研究項目を考え出したとする.

①感染創における菌の種類によって持続洗浄療法の効果は異なるのか?

②創傷治癒を速めるFGF(線維芽細胞増殖因子)を加えることで,創傷治癒の効果は高まるのか?

③抗菌ペプチド投与による感染防止や,循環調節ペプチド投与による血流改善によって,治癒は進むのか?

 ③は,私の専門である生理活性ペプチドの分野と無理矢理関連させた感があるが,許してほしい.

 こうやって3つの研究項目をあげると,その後の内容が非常に書きやすくなる.菌の種類はどのようなものがあるか? 投与するFGFの濃度は? 他の増殖因子は創傷治癒に使えないか? ペプチドは何を使うのがよいのか? このように次々に関連項目が浮かんで書く内容が広がり,内容が充実したものにできるだろう.1つの研究テーマに関して,大きな枠組みで書いていくよりも,3つくらいの研究項目をつくって,いくつかの部分に分けていくと初心者には書きやすい.

※本コーナーは『科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版』(2022年7月発行)から一部抜粋・改変し,掲載したものです.記載内容は発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,最善の努力を払っております.しかし,本記事をご覧になる時点において記載内容が予告なく変更されている場合もございますのでご了承ください.

科研費獲得のための応募戦略:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
研究生活の役に立つ書籍なども少しご紹介しています.