科学する物語・空想する科学

第3回　ファントム・ペインの時代を超える

【2025年，渋谷】

私たち夫婦はいつも，カプセルをひとつ口に放り込んで，渋谷へと繰り出す．幻肢痛を抑える薬だといわれているけれど，ちょっと不思議な副作用があって，私たちのような肢切断者には常用されていた．なぜなのかわからないが，あまり違和を感じなくなるのだ．私たちの義肢を他人が見ていたとしても，自分は社会のマジョリティの側にいるのだと思えるようになる．

★☆★☆★☆

（中略）

バイク事故で左腕を失った26歳のクローディア・ミッチェルさんは，ある記事を読んでシカゴ・リハビリテーション研究所（RIC）に連絡をした．その記事では両腕をなくしたジェシー・サリヴァン氏が，バイオニック・アームを装着し，生活していることが書かれていたのだ．立花隆のNHKスペシャル番組にも登場した人物である．

RICのトッド・クイケン研究局長は，ミッチェルさんに６自由度のアームを装着させた．自由度とはモータの数のことで，６自由度があればそのアームは３次元空間の任意の点を指せる．

※これまでの掲載内容はこちらをご覧下さい