「突然変異→淘汰→増幅」というダーウィン進化の考え方を試験管内実験系として作り出し,生体高分子の配列空間の最適化によって,機能性分子を得ようとするもの.変異体作製,選択技術,対応づけ技術が主要な要素技術となる.生体内での抗体の特異性,親和性上昇のシステムはこのサイクルと類似しており,抗体の進化という見方ができる.抗体の進化工学にはCDRへの部位特異的変異導入法やランダム変異導入法,chainシャフリング,CDR walkingなどの手法が用いられる.
ランダム変異導入法(random mutagenesis):特定の遺伝子DNAに対してランダムな変異を導入し,変異体を作製する方法.PCR法による変異導入法では,DNA増幅時に,複製の厳密度の低い条件を選択して,塩基の変異を導入する(error-prone PCR).PCR法で増幅されるDNAの全域に対して任意の部位に変異が導入される.また,DNAシャッフリング法では対象遺伝子をまずばらばらに切断後,PCR法で同様に変異を導入することができる.
chain シャフリング(chain shuffling):抗体可変領域のVHあるいはVL遺伝子の一方を固定化し,他方をV遺伝子ライブラリーと結合させたライブラリーを構築,ファージ上に発現させ,もとの抗原に対する特異性が高い抗体可変領域の組み合わせをスクリーニングする方法.ナイーブ/非免疫ライブラリーなどから得られた抗体のin vitro 親和性成熟では第一に選択される方法である.
CDR walking:VH及びVL遺伝子の各CDRに対してランダム変異を導入し,その変異体の集団から選択条件を調節することにより結合の強い抗体を選択する.その選択されたCDRを組み合わせて非常に高い結合力をもつクローンを得る方法をCDR walkingとよぶ.一般には,CDR3のみにランダム変異を導入して検討することが多い.