科研費獲得の方法とコツ
速報

羊土社では,初めて科研費を申請する研究者,慣れていない研究者へ向けて,科研費の概要・応募戦略の立て方・申請書の書き方などを解説した単行本『科研費獲得の方法とコツ』(現在は第7版)を刊行しています.

ここでは,常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を,著者の児島将康先生に「速報」として随時紹介していただきます.ぜひ定期的にチェックしてください.

【速報】
平成31年度応募の研究計画調書(申請書)の変更点:
研究業績欄がなくなる!−研究業績(論文発表)は不要になるのか?−(2018.09.03掲載)

平成31年度科研費応募のための研究計画調書(申請書)が正式に発表された.すでに8月9日に暫定版が発表されていて,その変更点に驚いた方も多かったと思う.

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図 申請書の変更部分の見本

大きな変更点としては「研究業績」欄がなくなり,代わりに「3 応募者の研究遂行能力及び研究環境」の項目となった().この項目に書くべき内容は「(1)これまでの研究活動,(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」である.これを若手研究と基盤研究(S, A, B, C)では2ページ以内にまとめる〔※基盤研究(S)だけは様式が少々異なる〕.挑戦的研究(以前の挑戦的萌芽研究,萌芽研究も同じ)ではすでに「研究業績」欄がなかった.つまり基盤研究と若手研究でも挑戦的研究と同じになったとみなすことができる.

その他の変更点としては,

ページ数
若手研究基盤研究(C)基盤研究(B)基盤研究(A)基盤研究(S)
1 研究目的,研究方法など33455
2 本研究の着想に至った経緯など11112
3 応募者の研究遂行能力及び研究環境22222
4 人権の保護及び法令等の遵守への対応11111
5 研究計画最終年度前年度応募を行う場合の記述事項-1111
表 申請書のページ構成
  • 「1 研究目的,研究方法など」が若手研究と基盤研究(C)では3ページ以内,基盤研究(B)では4ページ以内,基盤研究(A, S)では5ページ以内となった.記載項目の変更はない().
  • 「2 本研究の着想に至った経緯など」の記載項目が「(1)本研究の着想に至った経緯と準備状況,(2)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」の2つとなり,これを1ページ以内にまとめる.これは若手研究と基盤研究(S, A, B, C)のすべての申請書で同じである.これまで別々だった「着想に至った経緯」と「準備状況」が「(1)本研究の着想に至った経緯と準備状況」にまとめられた.

変更点への対応について,以下に解説する.

1.「準備状況」にはデータを示すとよい

今回の研究計画について,予備的な実験データや調査データが出ていれば,それを紹介しておく.データを図示するのもよい.研究がこのように進んでいてデータが出ている,だから実現可能なんだとアピールできる.

2.「研究業績」欄がなくなり「研究遂行能力及び研究環境」欄になった

8月9日付けの学術振興会の事務連絡では,「研究代表者および研究分担者の研究業績欄」については,科研費審査システムの評定要素に合わせ,「応募者の研究遂行能力及び研究環境」欄に変更する,とされている.この変更に至るまでに科研費の審査部会等において行われた議論では,

「研究業績」欄は,

  • 必ずしも研究課題とは関係のない業績を不必要に連ねている
  • 科研費の審査において「業績偏重主義」であるかのような印象を応募者その他に与えている
  • できるだけ多くの業績でスペースを埋めなければ審査において不利になるのではという誤った認識を与えている

などのことから,「研究業績」欄ではなく,提案された研究課題に対する申請者の研究遂行能力や実行可能性を評価するためのものに変更された.つまりこれまでの業績(主として論文発表)を評価するのではなく,あくまでも(だと思うが)提案された研究計画のアイデアや実行可能性を評価するものに変わったということだ.(だと思う)と書いたのは,「応募者の研究遂行能力」を評価する方法としては,現実問題として,やはりこれまでに発表された論文がいちばん確かだからだ.もちろん,論文に著者として名を連ねていることと,本人の研究遂行能力とは別ものであるので,論文発表があるからといって研究遂行能力があるとは限らないのだが.

この変更は,発表論文の少ない若手研究者や,研究は継続しているが最近の発表論文が少ない研究者にとっては朗報だろう.

3.「3 応募者の研究遂行能力及び研究環境」は,どのように書けばいいのか

では実際の申請書において,「3 応募者の研究遂行能力および研究環境」はどのように書いていけばいいのだろうか.

「(1)これまでの研究活動」では,申請者がこれまでどのような研究を行ってきたかを書いて,申請者の「研究遂行能力」,つまり今回の研究計画が実現可能であることを示す.それには,

  • ① 論文を示す:今回の研究計画に用いるテクニックや手法を,これまでの研究業績(発表論文)の内容に書いてあれば,そのことを説明する
  • ② 学会発表を示す:まだ論文に発表されていなくても,学会や研究会で発表しているのなら,そのことを書いておく.学会名,発表のタイトル,発表年月日とともに,発表内容についても今回の研究との関連で触れておくこと
  • ③ 研究助成の成果を示す:科研費や民間財団の助成金などによって,どのような研究成果をあげてきたかを記載する

「(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」では,応募者の研究計画に必要な機器や設備が整っているのか,研究に必要な試料や資料は保有しているのかなどを書く.

注意点は,

  • ① もし機器や設備がまだ整っていないときにはどのようにするのか,その対処方法を書く.例えば測定機器などは,「○○大学のものを借りて測定する」など,できるだけ具体的に書く
  • ② 必要な試料や資料を保有していない場合,その入手方法を書く.これも単に「入手する」だけでなく,どこで,誰から,どのように入手するのかまで具体的に書くこと
  • ③ 若手の方にときどきみられる書き方として,「研究室の上司の指導を仰ぐ」「○○大学の○○教授に相談する」などというのがある.研究環境がしっかりしていることを示したいのかもしれないが,このようには書かないこと.「自信がないのか」「消極的」「人に頼りすぎ」などのマイナスのイメージしかもたらさない.たとえ若手であろうと科研費は申請者が主役となって行う研究活動である.たとえ自信がなくても,自分がやるということをアピールする.

4.申請書の変更部分の書き方の見本

私自身のもので申しわけないが,過去の申請書から新しいフォーマットに変更したものを載せておく().今の時点で私だったら,こう書くだろうなという,あくまでも1つの見本として.

5.researchmapの取り扱いについて

本年度はまだ今後の検討課題となっているが,これまでの「研究業績」欄がなくなったことで,申請者のこれまでの研究業績を調べる手段として,将来的に審査委員には科学技術振興機構が運営するresearchmapの活用が求められている.

問題点は、多くの研究者がresearchmap上のデータを,最新の業績データにアップデートしていないことだ.かくいう私もそうである.私の場合,かなり前にアップデートして以来まったく更新していない.不安になって他の研究者について調べてみると,ほとんどの研究者はアップデートしていないので安心する.

今でもただでさえ忙しい研究者が,研究業績を(自分の手で!)定期的にアップデートするだろうか?もしresearchmapがPubMedなどと連動して自動的にアップデートできるのなら,その内容は常に最新のものとして活用できるようになるだろう.そうではなく,従来のように研究者自らが手動でアップデートしないといけないのなら,researchmapはこの先も有益な情報源となることは難しいと思う.もし審査委員が申請者の発表論文を調べようとするのなら,今は間違いなくPubMedを使うだろう.

しかし今後はresearchmapのアップデートが,科研費応募にあたっての必須の条件となる可能性も考えておかないといけないのかもしれない.内閣府HPの「競争的資金制度」→「競争的資金制度について」→「競争的資金における使用ルール等の統一について」の「8 電子申請等の促進(3)」にはresearchmapについて,「研究者等に利用を促す」「研究者の登録情報の活用を促す」ことが書かれており,「researchmapのさらなる活用の方途について,今後も検討を進める」とされている.researchmapについての今後の議論に注目していきたい.

以上が平成31年度応募にあたっての変更点である.今回の変更によって,提案する研究計画が実行可能であると示す書き方が重要になってくる.また審査委員にとっては,単に業績によって判断するのではなく,提案された研究テーマのアイデアとその実行性を評価することが求められることになる.

参考情報

本書関連項目

  • 3章-5.本研究の着想に至った経緯など(P143)
  • 3章-6.研究代表者および研究分担者の研究業績(P147)
  • 巻末付録.実際に採択された申請書① 基盤研究(C)の例(P243)

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