クローズアップ実験法

2025年5月号 Vol.43 No.8 詳細ページ
長いPCR産物の塩基配列を効率的に低コストで決める
星野 敦,中川颯也,梅原響々花
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長いPCR産物の塩基配列を
効率的に低コストで決める
星野 敦,中川颯也,梅原響々花

何ができるようになった?
PCR で増幅した長い DNA の全長塩基配列を決定するには,手間も時間もコストもかかる.プラス
ミド DNA の全長解析サービスを活用することで,簡単・迅速・低コストでの決定が可能になった.

必要な機器・試薬・テクニックは?
分子生物学の基本的な機材やテクニックに加え,PCR で増幅した DNA を環状化するための酵素が
あれば十分である.プラスミドのクローニングが不要で遺伝子組換え実験にも該当しないため,どこ
でも実施可能である.

はじめに

原理

長い PCR 産物の塩基配列を受託サービスで手軽に決

PCR 産物を酵素反応でプラスミド DNA のように環

定したい研究者に向けて ,おすすめの実験法を紹介す

状化するだけで ,プラスミド DN A の受託解析サービ

る.PCR 酵素の性能向上により,10 kb 以上の DNA の

スを利用して塩基配列を決定できる (図 1)1).近年 ,

増幅は容易になっているが ,増幅産物の塩基配列決定

Oxford Nanopore Technologies 社のロングリードシー

は依然として課題が多い.サンガー法を用いたキャピラ

クエンス技術(以下,ONT)を活用したプラスミド DNA

リーシークエンサーで解析する場合,PCR 産物の長さ

の受託解析サービスが提供されている.例えば,Azenta

に比例してコスト,手間,解析時間が増加する.例えば,

社のプラスミド全長シークエンス解析・Plasmid-EZ

塩基配列が未知の 10 kb の PCR 産物について,500 bp

や,Eurofins 社のプラスミド丸読みサービスがある.25

ごとにプライマーを設計すると,約 2 万円のコストがか

kb までのプラスミド DNA の解析を委託した場合のコ

かる.さらに,アセンブリ解析の手間も加えると,迅速

ストは,それぞれ 4,000 円,9,000 円であり,納期は 2 ∼

に進めても 20 日程度を要する.一方,PacBio 社などの

3 営業日,1 ∼ 2 週間となっている(2025 年3 月現在)
.

ロングリードのシークエンサーを用いた PCR 産物(ロ

アセンブリ解析済みの塩基配列が納品されるため,解

ングアンプリコン)の受託解析サービスも提供されてい

析の手間や時間がかからない.本実験法に応用する際

るが,費用が高く,結果を得るまでに 30 日以上かかる.

には,納品される環状配列を,そこに含まれるプライ

Labor- and cost-effective long amplicon sequencing
Atsushi Hoshino 1)2)/Soya Nakagawa 1)3)4)/Hibika Umehara 1)2):National Institute for Basic Biology 1)/Graduate Institute for
Advanced Studies, SOKENDAI 2)/Department of Basic Biology, School of Life Science, SOKENDAI 3)/Faculty of Agriculture,
(基礎生物学研究所 1)/ 総合研究大学院大学先端学術院先端学術専攻 2)/ 総合研究大学院大学生命科学研究科
Niigata University4)
基礎生物学専攻 3)/ 新潟大学農学部 4))

実験医学 Vol. 43 No. 8(5 月号)2025

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