科研費獲得の方法とコツ
速報

羊土社では,初めて科研費を申請する研究者,慣れていない研究者へ向けて,科研費の概要・応募戦略の立て方・申請書の書き方などを解説した単行本『科研費獲得の方法とコツ』(現在は第7版)を刊行しています.

ここでは,常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を,著者の児島将康先生に「速報」として随時紹介していただきます.ぜひ定期的にチェックしてください.

【速報】
令和3年度の公募の変更点―若手研究者に大きな影響!(2020.09.02掲載)

新型コロナ感染流行の今年度も,科研費の公募(令和3年度の公募)は予定どおり9月1日にはじまった.今回の公募では申請書のフォーマットに関する変更点はないが,若手研究者を中心として大きな影響を与える変更点があった.

1)若手研究者の公募に影響を与える変更点は3つ

令和3年度公募における大きな変更点は,「若手研究」と「基盤研究(B)」においての若手研究者への3つの変更である.(詳しくは日本学術振興会の資料を参照)

①「若手研究」の応募条件の変更

「若手研究」に応募できる条件が,「学位取得後8年未満の研究者(および令和3年4月1日までに学位取得の見込みがあるもの)」だけになった.これまでは「若手研究(A)」廃止後の経過措置として39歳以下の博士号未取得者の応募も可能だったが,それがなくなった.つまり学位を取得していないと若手研究には応募できない.学位取得が若手研究応募の必須条件ということだ.では,学位をもたない研究者はどこに応募すればいいのか? それは必然的に「若手研究」以外の「基盤研究」「挑戦的研究」「学術変革領域研究(公募)」などになる.

これは正直,学位をまだもっていない若手の研究者(医学部の教員に多い)が科研費に応募するには大きなハードルだ.いきなり基盤研究などの「若手研究」よりも競争が厳しい種目に応募しなければならないからだ.

②「若手研究」の研究期間の変更

「若手研究」の研究期間がこれまでの「2~4年間」から最大1年伸びて「2~5年間」になった.個人的には若手研究を5年間で応募するのは,少々長すぎる気がする.「若手研究」ならば3年以内の研究期間で応募して,受給回数制限の2回採択となったら,すみやかに基盤研究にチャレンジするのがいいと思うのだが.

③「基盤研究(B)」の若手研究者優遇措置の終了

「基盤研究(B)」において若手研究者に対する採択の優遇措置が終了した.「若手研究(A)」の廃止にともなっての経過措置だったのだが,それが終了した.


その他,一度「基盤研究」に採択された者は(正確には受給した者.採択されたが辞退したときには当てはまらない),「若手研究」に応募することができない.個人的にも,一度「基盤研究」に採択された者は,以後も「基盤研究」に応募していくべきだと思う.

2)若手研究者以外の変更点

若手研究者に関連した変更以外では,

  • 令和3年度から科研費によって「研究代表者および研究分担者の研究以外の業務の代行に係わる経費を支出可能」となった.この「バイアウト制度」に関しては,文部科学省の資料に解説がある.
    研究以外の業務とは,「講義等の教育活動等やそれに付随する事務等」であり,非常勤講師を雇用することなどが想定される.要は研究者が,研究だけに専念できるようにするということだ.
  • 令和2(2020)年度に創設された学術変革領域研究(A・B)の令和3(2021)年度の公募は,令和2(2020)年11月頃に文部科学省から行われる予定だ.「新学術領域研究(研究領域提案型)」の継続領域〔平成30(2018)年度採択領域〕の公募研究は,この9月から公募が開始されている.

このように令和3年度の科研費公募の変更点の大きな特徴は若手研究者に関するものであり,それ以外の研究者には影響はほぼない.今年応募する研究者の方々には,11月5日(木曜日)16時30分締め切りまで,推敲を重ねてベストの申請書を作成していってほしい.

参考情報

本書関連項目

  • 1章-2.科研費の種類―科研費にはどのような種目がある?(P25,P31)
  • 2章-1.応募種目の選び方(P73,P74)

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