レジデントノート:出血の診かた もう救急で慌てない!〜緊急度を見極めて、軽症から重症までバッチリ対応!
レジデントノート 2018年12月号 Vol.20 No.13

出血の診かた もう救急で慌てない!

緊急度を見極めて、軽症から重症までバッチリ対応!

  • 安藤裕貴/編
  • 2018年11月09日発行
  • B5判
  • 152ページ
  • ISBN 978-4-7581-1617-6
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
    PDF版:あり
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特集にあたって

救急医の出血! 大サービスとは

安藤裕貴
(一宮西病院 総合救急部 救急科 部長)

本特集で扱う出血

救急外来にはさまざまな出血患者が現れます.とても頻度の高い鼻出血の人や,吐血喀血のように口から豪快に出血する人,痔などから下血したのをとても不安に思う人,外傷性出血でショックになってしまう人など,救急外来で出血への対応を迫られることは非常によくあることです.こういった【よく診る出血】に対して,原因検索や止血などのマネジメントについて特集を組んでみました.さらには【出血関連で困ること】として,女性の不正性器出血への対応に自信のない諸君へのエールを送りつつ,抗血小板薬・抗凝固薬を内服している人の出血という特殊かつ,救急外来利用者が高齢化していく時代のなかで問題になりやすいことについて取り上げました.出血への対応策の1つである緊急輸血については,いつ判断するのか,注意点は何かを押さえることで,必要性の高いケースを的確に判断し,考える力を身につけられるように工夫しました.そして知っていると役に立つ,地味に困る出血への対応では,致命的ではないがなかなか止血できず,放ってもおけない出血や,小さな出血たちへの基本からウルトラCの対応までをまとめてあります.まさに出血大サービスの特集となっています.

出血への「大サービス」アプローチ

救急外来で診る出血というと,どれも緊急性が高いように感じてしまいますが,もしそうだとすると,全例に輸血や止血術のような侵襲性の高い介入が行われるハズです.しかし,実際にはそこまでいかないどころか,救急医の判断によって「これはまだいい」「これはちょっと急ぐ」「これは大急ぎで!」とケースバイケースで対応を分けているのにお気づきでしょうか.

しかも,その判断は診察開始から数分以内に決定されていることが多く,出血対応に慣れない研修医を「な,な,なんでこんなに早くわかるの!?」と,しばしば驚かせます.

救急外来に来る患者さんは,月に1〜2度,定期的に来院して何年も前から診ている方ではなく,ほとんどが「はじめまして,こんにちは」となる一期一会の方ばかりのはずです.以前の状態がわかれば,そのときと比較をすることが可能ですから,救急外来は一般外来と比較して,医者にとって不利な要素の多い環境です.救急医はそんな限られた環境にあっても,患者さんの方針を判断しています1).本稿ではその拠り所を「大サービス」アプローチと称して紹介したいと思います.

アプローチを支えるファーストインプレッション

待合から患者さんを診察室に呼び入れてから座ってもらうまで,あるいは救急車からストレッチャーで運ばれて救急室のベッドへ移動するまでの間に,われわれ救急医は患者さんの第一印象(ファーストインプレッション)で今後の展開を予測しています.このファーストインプレッションには「大サービス」アプローチに関わるいくつかの情報が隠れています.

まずはその情報を大きく4つに分けます.

  1. 年齢・性別
  2. 主訴
  3. バイタルサイン
  4. sick感

1) 年齢・性別,主訴

1つ目と2つ目の年齢・性別,主訴は受付や救急隊から手に入る最初の情報です.年齢・性別および主訴の組み合わせによって,想定される疾患やリスクが全く違ってきます.例えば同じ吐血でも20歳代男性の吐血であれば,金曜日の深夜に来院したとすると,飲み会で飲みすぎて(急性アルコール中毒)頻回嘔吐してMallory-Weiss症候群になったのか,あるいはNSAIDs乱用で胃潰瘍になって吐血したのだろうかと考えます.これが70歳代男性の吐血となると,悪性腫瘍からの出血か,慢性アルコール中毒で食道静脈瘤破裂となったのか,などと鑑別疾患が変化してきます.高齢者であれば抗凝固薬を内服している可能性も高く2),多剤服用による抗凝固作用の亢進が隠れていると,出血が止まりにくいことも予測されます.

2) バイタルサインとsick感

ある研究では患者さんの年齢・性別,主訴とバイタルサイン(vital signs)だけで入院になるか,帰宅できるかを救急医に判断させたところ,感度87.7%,特異度65.0%であったと報告しています3)

「患者さんがぐったりして顔色が悪い」とか「冷や汗をかいて頻呼吸になり,呼びかけへの反応が鈍い」という,いかにも重症感があるな,というのをsick感といいます.同じ研究でsick感についても調べられており,これによると救急医のsick感による判断は感度66.2%,特異度88.4%もあるそうです3)

これらファーストインプレッションによる判断は,経験に基づく直感的な判断ともいえます.ダニエル・カーネマンはこうした直感的な判断のことを“システム1”と表現し,2002年にノーベル経済学賞を受賞しました.“システム1”の特徴は“自動的で,超高速に働いて,何かをしようという努力がほとんどいらない思考のメカニズム”です4).ではわれわれは直感だけで動いているのかというと,それは違います.直感を働かせるための計算式として,年齢・性別,主訴,sick感の組み合わせに,バイタルサインの読みを追加させています.

バイタルサインのなかで最も重視すべきなのは呼吸回数で,呼吸が速いことは患者さんの予後予測に役立つことがわかっています5〜9)

  • 呼吸回数は
    • 最も重要なのに最も無視されるもの5)
    • 院内心停止の最大の予測因子6)
    • 不安定な患者さんでは血圧や脈拍数よりも変動する7)
    • 24時間以内急変の特異度95%9)

出血といえば血圧が下がって頻脈になることが予測されますが,本当のところはどうかというと,重大な出血では血圧よりも脈拍数のほうが関連性は高いと分析されています10).実際にすでに血圧が下がってしまった患者さんは誰しも注目して診ていますが,血圧が下がる前の脈拍数だけが上がった状態は「まだ大丈夫」と思ってしまいがちです.しかし,これが出血を診療するときに最も騙されやすい瞬間ということを知っておきましょう.プレショックという言葉がありますが,ショックに陥る直前に血圧はいったん高値になることが,50年以上前から指摘されています11).救急外来ではショックになる前の状態から介入をすることがとても重要です.

出血への「大サービス」アプローチをまとめると以下の通りです.

  • 大:ファーストインプレッションの情報を大きく4つに分ける
  • サ:最初の情報(年齢・性別,主訴)で予測
  • ビ:バイタルサイン
  • ス:sick感

この「大サービス」アプローチはすべての救急患者へ応用できるものです.このアプローチで救急で慌てずに出血へと立ち向かっていきましょう!

文献

  • Perina DG, et al:The 2011 model of the clinical practice of emergency medicine. Acad Emerg Med, 19:e19-40, 2012
  • Torn M, et al:Risks of oral anticoagulant therapy with increasing age. 165, 1527-1532, 2005
  • Wiswell J, et al:"Sick" or "not-sick":accuracy of System 1 diagnostic reasoning for the prediction of disposition and acuity in patients presenting to an academic ED. Am J Emerg Med, 31:1448-1452, 2013
  • De Neys W&Glumicic T:Conflict monitoring in dual process theories of thinking. Cognition, 106:1248-1299, 2008
  • Cretikos MA, et al:Respiratory rate:the neglected vital sign. Med J Aust, 188:657-659, 2008
  • Fieselmann JF, et al:Respiratory rate predicts cardiopulmonary arrest for internal medicine inpatients. J Gen Intern Med, 8:354-360, 1993
  • Subbe CP, et al:Effect of introducing the Modified Early Warning score on clinical outcomes, cardio-pulmonary arrests and intensive care utilisation in acute medical admissions. Anaesthesia, 58:797-802, 2003
  • Goldhill DR, et al:A physiologically-based early warning score for ward patients:the association between score and outcome. Anaesthesia, 60:547-553, 2005
  • Cretikos M, et al:The objective medical emergency team activation criteria:a case-control study. Resuscitation, 73:62-72, 2007
  • Reisner AT, et al:The association between vital signs and major hemorrhagic injury is significantly improved after controlling for sources of measurement variability. J Crit Care, 533:e1-10, 2012
  • Chien S:Role of the sympathetic nervous system in hemorrhage. Physiol Rev, 47:214-288, 1967

著者プロフィール

安藤裕貴 Hirotaka Ando
一宮西病院 総合救急部 救急科 部長
どうしてpatient 1stを訴える医師が少ないのか.critical 1stを実現しながら,ときに相反する両者を,高い次元でアチーブしていくのを目標に,新たな部門を立ち上げました.医局人事の影響の全くない病院で新しい救急医療のシステムを,一緒に実現しながら,人間として医師として成長していきたい人を募集中です.
https://www.generaler.com/

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