レジデントノート:バイタル・ABC評価をトリアージでも使いこなす!〜日常診療から災害までどんな場面でも役立つ、効果的な選別に欠かせない評価のしかたを身につけよう!
レジデントノート 2019年5月号 Vol.21 No.3

バイタル・ABC評価をトリアージでも使いこなす!

日常診療から災害までどんな場面でも役立つ、効果的な選別に欠かせない評価のしかたを身につけよう!

  • 古川力丸/編
  • 2019年04月10日発行
  • B5判
  • 156ページ
  • ISBN 978-4-7581-1625-1
  • 定価:2,000円+税
  • 在庫:あり
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特集にあたって

トリアージ総論

古川力丸
(弘仁会板倉病院 救急診療部 部長)

 はじめに

今回の特集のテーマは,「トリアージ」です.トリアージとは,多数の患者・傷病者がいるにもかかわらず医療者や医療資源が限られている状況で,緊急性の高い患者・傷病者へ優先的に介入するための,緊急度に重きを置いた選別法をさします.トリアージという考え方は,災害時に限らず日常診療でも重要な考え方です.このご時世,多くの研修医の皆さんはしっかりとした教育プログラム,教育環境で研鑽しており,ひと昔前のような「失敗してもよいから,とりあえず見よう見まねでやってみろ」なんて乱暴な教育を受けることはなくなったことでしょう(と信じております).しかし,トリアージを要するようなパニック環境ではそうもいっていられない状況になるかもしれません.

大規模災害で医師の数が限られ,研修医である皆さんがトリアージに駆り出される….

新型インフルエンザなどの感染症の流行により,大勢の患者が救急外来に押し寄せ治療優先順位の高い患者を選別しなければならない….

不幸なことにテロ・事故現場に居合わせてしまい,多数の傷病者を目の前に医療者は自分と同僚研修医の2人だけ….

そんなシチュエーションに出合う可能性はまず低いわけですが,このご時世でも突然の現場デビューをしなければならない可能性があるのが,このトリアージなのです.

バイタルサインとABC

今回の特集では,まず皆さんにトリアージの重要性と概要を理解していただきます.トリアージを行ううえで重要なポイントは,「バイタルサイン(特に呼吸数)」と「ABC(気道,呼吸,循環)」です.各種トリアージに,この2つの項目がどう活かされているかがわかれば,その重要性は自ずと理解できることでしょう.特にABCは,心肺蘇生教育のような表面的な評価ではトリアージには耐えられません.

しっかりと時間をかけた丁寧な診察と,急を要するトリアージは一見すると相反するもののように思えますが,そうではありません.救急領域であれ,総合診療の場であれ,しっかりとしたトリアージができていればこそ,落ち着いてシステマティックな全身評価が行えるものです.研修医の皆さんにこそ,トリアージについての十分な理解をもち,必要なスキルを身に着けてほしいと思います.

トリアージの歴史と現在

トリアージは,フランス語のtrierからの派生語で,「選別する」という意味です1).古くフランスでは,ブドウやコーヒー豆などの農作物や羊毛などの選別を示す言葉として「trier」が使われていたそうですが,医療でのトリアージは1800年代初頭,かの有名なナポレオンの時代に戦場で負傷した兵士の処置優先順位をつけるために考えられたとされています.当初は,治療により戦場に復帰できる兵士を優先して治療するための手法として行われており,現在の救命のためのトリアージとは少し意味が異なっていたようです.

近年の医療現場でのトリアージとは,緊急度の高い患者・傷病者を選別し,効果的に介入を行うための手法です.救急や災害医療において,多数の救急患者や傷病者がいるなかで,緊急性の高い方を適切に選別することができれば,優先的に介入し,かつ効果的な人的・物的資源の投入を行うことができるという考え方に基づきます.緊急性の切迫度により数段階のレベルに振り分けることが一般的です.

近年の医療トリアージは,限られた医療資源のなかで最大多数の最大幸福を得ることを目的として行われます.助からない患者を,あるいは限られた医療資源では助けることができない患者・傷病者を選別し,切り捨てるという見方もできますが,実際のトリアージではそのようなテレビドラマ的判断を迫られることはほとんどありません.緊急度の高い患者・傷病者を選別し,優先的に介入を行うことにより,さらなる重症化を防ぐことがトリアージの主体です.救急であれ災害であれ,トリアージが行われるほとんどのシチュエーションでは,多くの傷病者は軽症で緊急性が乏しいことも知られています.一方で軽症者の方が訴えは大きく,逆に重症なほど訴えが乏しい(意識障害だったり,ショックや呼吸不全で強く訴えることができない)ことが多いものです.現場での効果的な活動のためには,緊急性の低い患者・傷病者の集約化も重要なのです.研修医の皆さんは,トリアージを効果的に救命・治療を行うための手法と捉えていただいて差し支えありません.

緊急度と重症度


それでは,トリアージの各論に進む前に,ここで緊急度と重症度の違いについて押さえておきましょう().この2つの軸は,似て非なるものです.また,必ずしも相関するとは限りません.緊急度とは,「急ぐかどうか」で,時間軸の問題です.一方,重症度とは病気の重さ・程度をさし,予後の良し悪しの問題となります.例えば末期がんは,予後が悪いですが急ぐわけではありませんので,緊急度は低く重症度が高い,となります.一方,喉頭蓋炎は早急な対応が必要だけれども,適切な対応がとれれば予後はよいですので,緊急度が高く,重症度は低いという判断になります.著しい低酸素血症を伴う重症肺炎など,緊急度が高く,重症度も高いという状況はしばしば見受けられますが,基本的には別次元の評価だと考えるとよいでしょう.トリアージとは,この緊急度を重視した評価になっています.

トリアージは,多数の患者・傷病者がいるにもかかわらず,医療者が少なかったり,医療資源が限られている状況下で用いられます.いくら緊急度の高い患者さんが大勢いたとしても,医療者も医療資源も十分にある状況でいくつものチームが同時に十分な対応が行える環境であれば,トリアージなどしなくとも何も困らないわけです.手もモノも足りない,患者さんも大勢いる…,じゃあどこから手をつけよう!? という環境でトリアージが求められるのです.「トリアージレベルが高い患者さんからアプローチし,とりあえずの応急処置をし,安定化を図る.詳しい検査や,そのほかの細々とした処置治療は落ち着いてから行う,あるいは搬送後の医療チームに任せる.早々に次のトリアージレベルの高い患者のところに向かい,とりあえずの応急処置を行い,安定化を図る」という流れで対応すればよいのです.もちろん,一度安定化させた患者が再増悪したり,緊急度が低いとトリアージしていた患者さんが急変するリスクもありますので,くり返して再評価を続ける必要があります.

トリアージの種類と特徴

現在日本で用いられているトリアージには,災害時の多数傷病者への災害トリアージ,救急受診時の緊急度評価としての院内救急トリアージ,救急車や医療機関の適正利用のための病院前における電話トリアージ(#7119)があります.

多数の傷病者に対して,限られた医療資源・医療チームで臨む災害トリアージは,トリアージの最たるものです.どの患者を優先的に対応するのか.現場でどこまで対応し,どの患者から優先して医療機関に搬送するのか.その経過中に,なんども選別(トリアージ)が必要となるのです.

救急患者に対する院内トリアージは,研修医の皆さんには最も身近なトリアージかもしれません.救急患者は通常の外来患者に比べ,緊急度の高い疾病を有している可能性が高く,トリアージが普及する以前は,診察の順番を誤っただけで,急変や重症化してしまうこともしばしばでした.軽症で救急車を呼ぶ患者さんもいれば,重症で切迫した緊急度にもかかわらず,何とか自力で来院されてしまう患者さんがいることもご承知のことでしょう.急変患者を振り返ってみると,本来適切なトリアージがなされていれば選別されていたハズの患者さんがほとんどなのです.そして,このトリアージは,特殊な技能は必要なく,慣れれば数分で,誰もが行えるものなのです.

病院前救急のための電話トリアージは前述した2つのトリアージに比べると,多少趣が異なるかもしれません.救急搬送と救急での医療機関受診を適切化させようという取り組みであり,医療者―患者比率は常にマンツーマンのためほかのトリアージよりは医療資源は足りているともとれます.専用回線への電話相談によりトリアージが開始され,相談された症状に応じたいくつかの質問に答えるとトリアージレベルが決まります.トリアージレベルが高ければ,そのまま救急要請・救急搬送となりますし,そのほかのレベルでは緊急度に応じ,即時受診,数時間後に受診,翌日受診,受診不要などに振り分けられます.

 おわりに

本稿では,これからの特集を読み進めていただくにあたり,概要を述べさせていただきました.ここからは,トリアージに重要なバイタルサイン,ABC,次いでトリアージ各論として3つのトリアージについて企画させていただきました.ぜひ楽しく読み進めてください.

文献

著者プロフィール

古川力丸 Rikimaru Kogawa
弘仁会板倉病院 救急診療部 部長
トリアージの概念を理解しておくと,多重業務や過多(ぎみな)業務量を安全に,かつ効率よくさばくことができるようになってきます.研修医の先生方でも,場合によっては即実践が求められることもありますので,ぜひ一度通読してみてください.

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