レジデントノート:一般外来 処方ドリル〜症例で鍛える!慢性疾患・コモンプロブレムへの上手な薬の選び方・使い方
レジデントノート 2022年3月号 Vol.23 No.18

一般外来 処方ドリル

症例で鍛える!慢性疾患・コモンプロブレムへの上手な薬の選び方・使い方

  • 北 和也/編
  • 2022年02月10日発行
  • B5判
  • 170ページ
  • ISBN 978-4-7581-1676-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって
〜外来診療って,めっちゃおもしろい!〜

北 和也
(医療法人やわらぎ会 やわらぎクリニック)

皆さんこんにちは.早いもので,もう年度末ですね.卒後1年目の皆さん,この1年間の研修の成果はいかがでしょうか? 2年目の皆さんは,来年度からは“初期”研修医ではなくなりますが,準備は万端でしょうか? 先日,研修医と話をしていたら,「焦らせないでください」と苦笑いされましたが,彼の目が笑っていなかったのを私は見逃しませんでした(笑).しかしながら今は指導医と呼ばれる多くの先輩たちも「こ,このまま研修修了でホントに大丈夫なんだろうか…」と当時少し心配になっていたことはよく耳にします.少なくとも私はそうでした.

卒後3年目当時の私が特に困ったのは,周囲に助けの少ない一般外来診療でした.処方に関することは,具体的には教わったことがなく,降圧薬や血糖降下薬をどのように使い分けるか,用量はどれを選択すればよいのかなど全くわからず,ひとまずマニュアル本を一生懸命に開いて「本当にこれでよいのかな…」と不安を抱えながら診療していたことを思い出します.今回は,あの当時の私に渡すことができれば最高だな,というレジデントノートをめざして編集させていただきました.

さて,当院(奈良県の診療所)には年間10名ほどの初期研修医が,約1カ月間,外来診療・在宅医療を中心とした研修に来ます.一般外来のセッティングを経験するにあたり,彼らが口を揃えて言うのが,

  • これまで救急外来で急性疾患について診る機会は割とあったが,一般外来で慢性疾患について診療した経験はほぼない
  • 常に上級医に最終判断を仰ぎつつ診療しているが,1人で最初から最後までマネジメントした経験はほぼない(なのでドキドキ)
  • 1人の患者さんを外来でフォローアップしたことがない
  • 慢性疾患への新規処方や,すでに処方されている薬を微調整する機会はあまりない
  • 非薬物療法を提案したことはない
  • 整形外科・外傷,子どもの診療,ヘルスメンテナンスのアドバイスは経験がない
  • 院外スタッフとの多職種連携,主治医意見書や訪問看護指示書などの作成はしたことがない

です.外来研修を行うまでは,慢性経過で緊急性の乏しいcommon disease,common problemに対するマネジメントの経験は,多くの初期研修医にとって乏しいのです.13年前の私の状況とあまり変わっていないな,というのが正直なところです.だからこそ,後述する『医師臨床研修指導ガイドライン』1)が改定されてきているのでしょう.

皆さんが将来めざしている科で仕事をしているところを想像してみてください.多疾患併存状態(multimorbidity)がデフォルトであるこの超高齢時代において,すべての慢性疾患やcommon problemについて,将来どんな科の医師になったとしても,全く触れなくてすむ,なんてことはありえないのではないでしょうか.Commonな慢性疾患のマネジメントは,すべての医師にとって,ある程度のレベルで備えておきたい基礎体力なのではないでしょうか?

『医師臨床研修指導ガイドライン 2020年度版』1)を開いてみると,次のような記載があります.“コンサルテーションが可能な状況下において,レジデントは単独で「頻度の高い症候・病態について,適切な臨床推論プロセスを経て診断・診療を行い,主な慢性疾患については継続診療ができる」こと.”

今回は,この「主な慢性疾患について継続診療ができる」のうち,処方関連に焦点を絞って特集しています.どんなシチュエーションで,どんな処方をするのか,あるいは処方をしないのか.非薬物的介入にはどんなものがあるのか.どんなことに注意を払ってそれらを決定しているのか.実践的な症例を通して,ドリル形式で学んでいただければと思います.

ドリルの解答についてですが,正解は1つとは限りません.○と×のみならず△という選択肢もときに設けていただきました.また,biomedical(生物医学的)のみで判断するのではなく,psychological(心理的),social(社会的)な視点も,処方を含めた方針決定に重要であるということが垣間見える内容になっています.

慢性疾患の診療では,急性疾患の診療のときよりも,さらに患者さんのストーリー,文脈を意識した診療を心がけてください.緊急性がなければ必ずしも即断する必要はありませんし,ぜひ時間軸をフルに活かした診療をしていただければと思います.何より,外来を,患者さんとの対話を,思いきり楽しんでほしいです.楽しんでナンボです.私も「この方,どうやったら喜んでくれるかな」「よっしゃ! 今のウケた!」とか考えながら今日も外来しています(笑).

さいごに,卒後2年目の医師の皆さん.コロナ禍にはじまり,コロナ禍に終わるという稀有な初期研修になったと思います.思い通りにならないこともたくさんあったかもしれません.ひとまず,お疲れ様でした.

引用文献

著者プロフィール

北 和也(Kazuya Kita)
医療法人やわらぎ会 やわらぎクリニック
2006年大阪医科大学卒.
総合診療,救急,感染症診療の研鑽を積んで,2015年より奈良県のクリニックで日々診療しています.コロナ禍に入り在宅の需要が増えました.のべ訪問診療件数は,2019年に60件/月だったのが,2021年には350件/月と,大幅に増えてんやわんやの毎日になっています.2022年に突入し,さらに増加の兆しがあります.そこで,一緒に診療してくださる仲間を大大大募集中です! 田舎ではありますが,ぶどう園,オーガニックワイン店,温泉,団子屋,歴史のある寺社仏閣などがあり,楽しみどころ満載の素敵な町です.個人的には,次の訪問診療に向かう夕暮れ時に,大和川にかかる陸橋を通る近鉄電車を眺めつつ車を運転している時が最高に心地よいです.もし良かったら,一度フラっとお立ち寄りください.興味のある方は,ぜひ北までご連絡ください!

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